第16話 敗者と勝者
無い島は静かだ。
何も無いから。
嫌いだったグネグネした僕との境界線が曖昧だった空間も、それはそれでよくなってきた。空気は美味いということにしておこう。
敗者と勝者が横たわる区域を発見した。
ぱっと見ると、誰が敗者で勝者なのかよく分からない。
皆、痩せこけていて、ぼーとしている。
なぜ敗者と勝者がいるのか分かったかと言うと、一人ひとり話を聞いたからだ。
敗者さん
「受験に失敗した」
「失恋した」
「クビになった」
「試合で負けた」
「借金まみれ」
勝者さん
「受験に合格した」
「相思相愛になった」
「就職できた」
「試合で勝てた」
「宝くじが当たった」
両者微妙に表情が違った。
敗者は次に頑張る意欲に燃え始めたが、勝者は勝ち続けるために不安になっていた。
両者、見た目は痩せこけていてぼーとしているが、心の中は違うようだった。
負け続けている人と勝ち続けている人は、心理的な負荷からするともしかしたら同じなのかもしれない。
評価されない人、評価される人も心のエネルギーは似たものがあるのかもしれない。
よく元暴走族総長が慈善事業に燃えたり、幼少期成績優秀だった人が悪の道に迷い込んだりする話はよく聞く。
どっちも同じなのだろう。
では、無い島にいる僕は、敗者なのか勝者なのか。
そういう価値観を捨てていたので、考えたこともなかったが・・・。
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