第15話 ぼくブーム
無い島は無い。
無いが故に、気にならない。
島の大きさは知らないが、僕が来た頃には誰もおらず、物も無かった。
空だか海だか分からないグネグネした空間が、僕との境界線を曖昧にさせる。
美味しいと思って吸った空気はやはり不味く気分が悪くなるだけだった。
何も無い島なので、ネタも無い。
無理矢理ネタをつくる強引さが必要だ。
強引と言えば、世界の首脳陣はなぜか身体が大きく態度もデカい。例外もいるが。
僕は念じて身体を大きくしてみた。
190cm 100kg の体型になった。
無い島では、空前の僕ブームが巻き起こった。
僕の周りには、人のような物体が集まり、僕の発言力は強大なものになった。
「あ」と言えば、周りの人のような物体たちは「あ」と叫び共鳴し合う。
無い島で一番大きく態度のデカい僕に、逆らう人のような物体はいなかった。
何万人もの人のような物体が、無い島に押し寄せる。
無い島の面積は分からないが、人口密度がヤバい状況になってきた。
僕の周りには、人のような物体が犇めき合い、結構臭い。
ゴミのようなウンコのようなドブのような匂いが漂っているような気がする。
そして、人のような物体同志が結構ケンカする。
僕に近づきたいと押し寄せるから、いつも忙しい。
のんびり昼寝もできず、不味かった空気を吸い込む余裕も無くなった。
グネグネした空間もどうでもよくなってきた。
定期的に、人のような物へ言葉をかける習慣も面倒臭くなった。
僕はこの環境に耐えることができず、僕ブームを止めることにした。
簡単だだった。全てを元に戻したのだ。
僕の次に身体と態度が大きい、人のような物体が、別の島に移住すると決めた途端、人のような物体たちは姿を消した。
無い島は何も無いのがよい。
物体が集まるとロクなことがない。
身体も態度も小さいのがいい。
いつもだったら、気味の悪いグネグネした空間に嫌気がさしていたが、今はなぜか懐かしく愛おしく見えるのだから不思議である。
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