第11話 未来人 就職氷河期の村

無い島は地球のどこにあるかと聞かれたが、どこにも無い。

海だか空だか分からないグネグネした空間と、私との境界線は曖昧なままで、空気は美味いと思い込んでいたが、やっぱり不味かった。


無い島に大きな穴が開いてから何日が経っただろうか。


穴の淵で昼寝をしていたが、昼と夜の境目が曖昧なので、昼寝という言い方が適しているか分からない。


目が覚めると、目の前に見たことも無い容姿をした生き物が立っていた。


多分、人間の一種ではないかと推測した。


「こんにちは。」


「どうも。」


言葉は通じるみたいだ。


「この穴から出てきたのですか。」


「はい。」


「無い島には何しに来たのですか。」


「迷いこみました。2050年から来ました。驚くかもしれませんが、あなたにとっての未来です。30年後はそういう代物ができています。」


「無い島にいると、そういう話は特に驚きませんが、30年後の地球はどんな感じなんですか。」


「ざっくり言うと、順調に文明は進化します。人間は倫理的な問題で頓挫していた、デザイナーベビーの研究を進め、超人をつくりました。」


「あなたは超人ですか。」


「はい。産まれる前に超人管理人という保護者のような原始タイプの人、あなたのようなデザインされずに生まれてきたような人が、子どもをつくる際に超人申請をします。そして、デザインされた私が産まれました。」


「私は、30年後は原始タイプなんですね(笑)」


「人口も大分減り、30億人くらいでしょうか。ほとんどが超人です。原始タイプの人々は能力値がかなり低いので、自然災害が頻繁にある、世界で最も住みにくいニホンと呼ばれる島に追いやられています。」


「超人は基本的にどんな能力があるの?」


「タイプによって違いますが、原始タイプの人のIQの平均が100でしたが、超人は平均300です。運動能力は、30年前に東京オリンピックで出た陸上記録の2倍から3倍だと考えてもらうと分かりやすいかな。東京オリンピックの後、世界中の強烈なウイルスが合体して世界中に拡散しましたが、超人はウイルスに負けない身体をもちます。人口が減ったのは、東京オリンピックが境目です。それからデザイナーベビーの倫理的な問題が緩和され、超人研究が一気に進みました。」


「そうなんですね。教育面はどうなっているのですか?」


「基本的に教師は全てAIです。原始タイプの人間が多く住むニホンでは、原始的な教師がいます。特に就職氷河期世代(ロストジェネレーション世代)と呼ばれる、私たちからしたらどうでもよい話ですが、その世代に教師になった人間が管理しているようです。旧式で非効率的な教育を推し進めています。ただ、超人の世界ではAIによる教育だけでは、超人の元々もっている能力が発揮しきれないという課題が出てきました。超人の中には、ニホンへ行き、非効率的な教育をする原始タイプの人間から教育を受けようと移住する物好きもいるようです。」


「へ~この話面白いですね。」


つづく


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