第8話 100年しか生きられない

無い島には動物はいないと思っていた。

ウサギのような亀のような鶴のような物体がたまに地面から這い出てくる。

辺りをうろつきながら、海だか空だか分からないグネグネした空間に吸い込まれていく。

相変わらず、私と空間の境界線が曖昧で、吸った空気は不味いような美味いような・・。


無い島で知り合った人がいる。

「たった100年しかない」が口癖の人だ。


「自分の人生は100年しかない。だから、100年でできることしかやらない。100年以上かかることはやらない。」


「例えば100年以上生きるとしたら、どんなことがやりたいんですか?」


「先日、未確認飛行物体が地球にメッセージを送ってきたことを知っているか?」


「そう言えば、アメリカの国防から、未確認飛行物体(UFO)の存在を認めた機密文章が公開されたのは、記憶にあります。」


「それではない。中国の広大な土地につくり上げた、巨大電波望遠鏡にメッセージが届いたんだ。」


「何て来たんですか?」


「明らかに、自然に発生する信号では無いものを大量に受信しているようだ。」


「ということは、地球外生物や文明が宇宙には存在するということですか?」


「それは、ほぼ確定しているらしいが、その信号を解読するには数百年かかると言われている。」


「ええ!そんなにかかるのですか!」


「その信号を受信してから、中国の上空に半透明で角砂糖のような物体が大量に浮遊し始めているらしいんだ。ただ、それは目視はできるが、レーダーでも捉えられず、接近してもまるで映像のようで、質感が無く、探査機ドローンはすり抜けてしまうようだ。」


「どういう意味があるのでしょうね。」


「中国は歴史が古く、気長な連中だから、角砂糖と意味不明な暗号に何千年も付き合うと思うよ。」


「100年以上生きられたら、その角砂糖の意味が分かるかもしれませんよね。」


「そうなんだ。人生は目先のことに振り回されて終わっちゃいそうだけど、宇宙の奴らは違う次元で人生を送っているのかなぁと考えると、何だかなぁと考えちゃうんだ。」


「確かに、自分もあと何年生きられるかくらいのことはたまに考えますが、そもそもその発想自体が人間特有の思考回路の元のような気がします。その呪縛から解放されない限り、宇宙人のメッセージは理解できないかもしれませんね。」


「うさぎに私たち人間の思考が理解できないのと同じで、人間には宇宙人の思考が理解できないかもしれない。」


「人間の思考回路は、ほぼ決められた範囲でしか行われないのでしょうね。」


そんなSFチックで哲学的な、無い島ではどうでもよい話を淡々と続ける友人は、眠くなると角砂糖のような物体を口に入れながら、横になる。


ウサギのような亀のような鶴のような物体が彼の周りでうろつき、グネグネした空間に再び吸い込まれていった。




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