第5話 心を磨く

無い島の空だか海だか分からないグネグネしたものは、相変わらず僕との境界線が曖昧だ。


不味そうな空気も、美味しいと思えば美味しい・・。


広大なグレーの平面を見渡しても、何も無い。


それが、無い島だ。


僕の足元に、静かな音で近づく物体があった。


見たことがあるぞ、ルンバだ。


無い島には何も無いはず、なぜルンバ?


すると、グネグネしたグレーの空間から、グレーががかったオジサンが現れた。


オジサンは両膝をついてグレーの地面を見つめている。


よく見ると、雑巾でグレーの地面を磨いているではないか。


「雑巾がけをしているのですね。」


「見ればわかるでしょ!」


「この広大なグレーの土地を磨き上げるのですか?」


「ルンバと一緒に磨いているのです。」


「無い島の面積は知りませんが、かなり大変なんじゃないんですか?しかも、汚れなんかありますか?グレーを磨いたら白くなるのですか?」


「お前は何も分かっちゃいない。汚れがあるのは、私の心だ。グレーの土地なんかこれ以上綺麗になんかならないさ。行動が人を変えるっていうでしょ。汚い心を綺麗にするために、自分の心を磨いているのですよ。」


「ルンバはなぜ一緒に?」


「こんなことしてても、誰も相手にしてくれないけど、ルンバは優しいんだよ。こんなオレの心磨きに付き合ってくれるんだよ。」


「優しいルンバですね。」


「人間は今、人減じんげんになりつつある。心ある人が減りつつあるんだ。心をバカにしやがって。誰もいないところで、誰も使わないところを磨く意味はそこにある。有るものにしか興味をもたない、無いところでは、心を無くす。そんな人減になりたくないんだ。」


「人減ですか・・。ルンバは誰もいなくても、どこでも頑張ルンバですものね。」


「ロボット野郎から見習える人間って素敵だろ。心ってそういうものだよね。」


「おじさん、心磨きの邪魔してしまってすみません。」


「ああ、いいよ。オレは磨き続けるから。」


グレーの平面が、何となく輝いて見えた。


見えている世界は、心の在り様でいかようにも変わるんじゃないかと思った。


オジサンとルンバはグレーの平面に吸収され、どこかに消えて無くなった。


夕陽だかなんだか分からないが、紫がかった空間が現れたかと思ったら一面真っ暗になった。










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