第4話 無く人

無い島には浜辺が無い。


海だか空だか分からない、グネグネした空間と自分との境があるような無いような。


空気は美味しいような不味いような感じである。


5m程あったグレーの柱のようなものにしがみつき眠ったが、その棒はしばらくすると溶けてしまった。


生暖かい風のようなものが吹き荒れ、目が覚めた。


遠くの方で、怒鳴り声が聞こえる。


声のする方に向かって走った。


丘のような山のようなグレーの凸凹を何回か登っては降りるを繰り返した。


途中に、グレーの塊があり、近づくとうずくまる人だった。


泣いていた。


「この辺で怒鳴り声が聞こえてきたのですが、何かありましたか。」


グレーの塊から暗い顔つきの老女が顔をゆっくり持ち上げた。


「私は自分の子どもを異常に怒鳴って体罰をして躾をしてきた。皆、私の元を早々に去っていったよ。今は寂しくて苦しい日々なの。なぜ、もっと褒めてあげられなかったのか。抱きしめてあげられなかったのか・・。」


「でも、子育てをするって、ある程度は皆そんなものじゃないんですか。」


「そういうことじゃない。自分が振舞ってきたことを、この無い島で考えると、自分が惨めなのです。そういうことでしか、教育できなかった自分が哀れなのです。」


「さっきの怒鳴り声は、あなたなのですか。」


「発作のように、声を張り上げてしまうのです。」


「人生はまだまだ続くのですから、今から自分の子供たちを抱きしめにいけばいいのではないですか。変わったあなたを見れば、お子様たちも、分かってくれると思いますよ。」


「子供たちは60過ぎのオジサンになってしまった。抱きしめるのはちょっと・・・。」


「子どもは、かわかいいうちは真剣に可愛がった方がいいんですね。」


「そう。自分のためにもね。」


そう言いながら、老婆はグレーの丘に消えて無くなった。


無い島では、自分の悔いている行いを無くしたい人が住んでいるようだ。


しかし、無くならないことに気づき、苦しみを引きずることになる。









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