第3話 無気力な住人
あれがしたい、これがしたい、でもここではできない。
何も無い島なのだから。
食べ物が無く腹が減るが、食べなくてもなぜか生きている。
理由は無い。
相変わらず、島を取り巻く海だか空だかは、ゴッホの自画像の背景のようにうねり、見つめると気分が悪くなる。
何も無い島を歩いてみた。
何も無いグレーの平面が広がっているが、空気がく澄んでいて先が見渡せない。
深呼吸をしてみると、多分まずいだろう空気も、美味しく思える。
何も食べていないからだろう。
目的も無く歩いていると、足元に違和感をもった。
硬さの違う場所があった。
懐かしい感覚と思い、足元を見るとグレーの人が横たわっていた。
目は開いている。
若い男性に見えたが、全身グレーのため、はっきりしない。
私は誰もい無い島だと思っていたから驚いた。
「すみません、ふんじゃって。」
「あっ、気にしないでください。」
「こんなところで何をしているのですか。」
「何もしない練習をしています。」
「どういうことですか。」
「僕は、モノがあると、動いてしまうのです。モノが欲しくて働いてしまうのです。そして、モノが手に入るとまた次のモノが欲しくなるのです。多分、病です。」
「それは普通なんじゃないんですか。」
「違います。モノが欲しくて働いていたのに、いつしか働くことが楽しくなってしまったのです。」
「それも当たり前のような気がしますが・・。」
「酷いんです。次は働くことが楽しく無くなると、絶望してしまうのです。モノが欲しくて働いたのに、いつしか働くことの意味を求めてしまうようになったのです。」
「働く意味とは?」
「生きるために働いていたはずが、働く楽しさを求めてしまったことで、重度の病に罹りました。この島には、何もありません。僕はやり直します。」
「そうなのですね。やっぱり何も無いのですね。」
話が終わると、その人は目を閉じ黙った。
私はその場から離れしばらく歩くと、グレーの塊を見つけた。
持ち上げると以外と軽かった。
5mくらい有るのか無いのか分からなかったが、グレーの平面に転がらせた。
今日は疲れたので、その塊にしがみつき寝た。
何となく安心した。
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