06. さりげなく昼メシに誘う計画

 露樹は刷流目のことを気にしていないみたいだ。

 だからオレも彼奴きゃつのことは遠慮なく無視してやることにしようじゃないか。


「あのカギタイくん、昨日の約束は覚えていますよね?」

「ああ、ギターの練習な」

「放課後、音楽室からギターを借りられますよね?」

「そうだな、2台使わせてもらえるように、オレが昼休みにでも、音楽の先生に頼んでおくよ。実技テストの練習をするって云えば、まず断られたりしないと思う」

「そうですね。あ、それとギターは台でもいいですけど、1本2本と数えるほうが自然だと思います」

「え、そうなのか?」


 オレはそんなの、今まで気にしたことなかったぜ。


「はい。それでは放課後また」

「あ、ツユキ」

「なんですか?」

「昼メシ、学食とかで食うのか?」

「お弁当があります。今日はクラスの人たち数人と食べます」

「そうか。判ったよ」


 露樹は4組の教室のほうへ歩いていった。

 オレの考えた「さりげなく昼メシに誘う計画」は失敗に終わったわけだ。

 それで1組の教室へと戻る。刷流目がまだ立っていやがる。


「どけよ。そこ邪魔だぞ」

「今日はクラスの人たち数人と食べます」

「うるさい!」


 グーで殴ってやりたくなったが、露樹のきらう不良になりたくないので、やめておくことにした。刷流目よ、お前が無事でいられるのは、露樹のおかげだぞ。


 このあとオレは質問攻めにされた。

 だがしかし、冷静なオレが「以前からの知り合いでな。それがどうした?」とすかしてやった。そのときの悔しそうな刷流目の顔が、マジ滑稽だったぜ。

 これこそ、ホームランってやつな。


 午前中は幸福感に浸りながらすごしていた。

 おかげで授業内容はなにも頭に入らないのだった。


 昼休みになり、オレは学食へ食いにいった。刷流目がついてきたから、今日のオレは寛大で、同伴を許してやった。

 オレは先に食べ終えて、まだグズグズと食っている刷流目を残し、1人で職員室へ向かう。

 音楽科担当の先生は、歳は知らないが40前後くらいの男で、ジョン・レノンとシューベルトを足して2で割ったような顔をしている。けっこう温厚な性格のようで、彼が声を荒げる姿はもちろん、怒った表情をしていることも1度すら見たことがない。


「先生、お願いがあるんです」

「お、嗅鯛くんか。昨日はどうした、心配したよ」

「あっ、すみません。オレ、来週にある実技テストの自信がなくて、ついエスケープしてしまって。あ、でも心をいれかえました」

「そうなのかい?」

「はい。それで練習をしたいので、放課後にギター使わせてもらえませんか。友だちが教えてくれるんで、2人分貸してほしいんです」

「そうかそうか、やっとやる気になってくれたんだね。僕はうれしいよ。うんうん、ギターは好きなだけ使っていいから。でも練習につきあってくれるなんて、キミはいい友だちを持ったな。ずっと大切にするんだよ」

「はい、もちろんです!」


 これで準備オーケーだ。

 あとは昼寝でもしつつ、授業が終わるのを待てばいい。

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