04. 期待の転校生

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 オレと同じ17歳の少女と偶然に出会って、次の朝いつもより20分も早く学校についた。こんなのは中学以降で自己ベストの早さだぜ。

 今日、あの子が2年のどこかの組にやってくる。

 1学年に5つのクラスがあるから、確率で考えるなら5分の1となる。だがしかし、これまでオレの高校の同じ学年に、転校生なんか1人もこなかった。そうすると、順番から考えて、1組に入るのが妥当なんじゃないか。オレは期待している。

 脳内であれこれ想像を広げていると、近くの席の男がこっちへきて、オレに話をしかけてきやがった。


「すけべケンスケ、今日はやけに早いじゃないか。気味悪いぞ」

「ほっとけ。今日からオレは、毎日がホームランなんだ」

「そうか。お前いつも3球3振だもんな。ま、せいぜいがんばれや」

「バカにしてるのか、スルメ」

「お前、バカだからな」


 こいつは、刷流目スルメ葦雄アシオというオレと同レベルの変な名字を持つやつで、小学校以来の悪友だ。

 昔は、オレがガキ大将みたいな立場で、このスルメなんか子分格だったものだが、今では対等に接してきやがる。まあオレにしたって、高校生にもなってガキ大将やる気はないし、そんなことはどうでもいいがなあ。


「スルメ、お前に1つ教えてやろう」

「なんだよ?」

「今日、2年の転校生がくるぞ。女のな」

「知ってるよ」

「え、マジか!?」

「お前、ホームランかなにか知らんが、情報ゲット遅すぎ。さっき4組の教室に入っていったのを、不特定多数が見てたんだ。おれもその群衆の中にいた」

「4組だと!?」

「そうだよ。そんで、けっこうかわいい子だったぞ」


 同じクラスになるというオレの妄想はここで破滅した。

 まあライトノベルのようなことが、現実には起きないものだ。


「なんで1組じゃないんだ。順番で考えたら普通そうなんじゃないのか?」

「だから、お前はバカなんだ。4組と5組は1人だけ少ないんだよ。これで2年は4組まで同じ人数になった。そんで、次の転校生があれば、5組に入るんだろうな。そんな頻繁にこないだろうけど」

「スルメは、そいつの名前を聞いたのか?」

「もち聞いたぞ。教えてほしいのか?」

「いやいらね。お前からじゃなくて、本人から直接聞くつもりだからなあ」

「な、まさかお前、コクるつもりか?」

「違う。オレがコクられるつもりなんだ」

「ありえねえー、デッドボール! 脳内骨折で全治50か月以上な」


 オレはよっぽど、昨日あったラッキーなイベントについて、熱く語ってやろうかと思うのだった。

 だがしかし、あのように麗しく稀有なマイメモリーが、こんなやつに汚されてほしくないので、やっぱり黙っておくことにする。

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