第3話・大人数カラオケという名の地獄にて(1)
高校! 青春! イケメン高身長彼氏作るぞー!
新学期が始まってから一ヶ月!
新しい友だちもできたし、なんとなく入った部活も楽しい!
制服はここら辺で一番可愛くてテンション上がる!
そして何より……
いやーまさかね、諦めてた初恋の人とまた同じ学校に通えるなんて……これはあれですか? 運命というやつですか?? こっちは滑り止めで受けてて、まんまと受け止められちゃった高遠君には悪いけど……そのおかげでまた毎日会えるのは嬉しいなあ……。
「おはようせんちゃん!」
「わっ
「せんちゃんの顔見たら一瞬で元気になれるよっ。私の特技!」
準備を万全に済ませて家を出るといつも、明路がスマホもいじらずに待っている。高校に上がってから一度だって、明路がいなかったことはない。いつも何時頃から待ってんだろ。……どうでもいっか。
「はぁ……もう本当……今日も可愛い過ぎだよ……」
「あ、ありがとう」
小学校の頃みたいに明路とはこうして一緒に登校するようになった。毎日似たようなこと言ってくるけど飽きないのかな……。
「…………。」
「な、なにかな? せんちゃんからそんなに見つめられたら……どうにかなっちゃうよ……?」
中学の卒業式、明路の可愛さとスタイルの良さを改めて思い知った私だけど、初見の人も同じ感想を抱いたらしい。
つまり、高校に上がってから明路の人気は不動のものとなった。
いわゆるスクールカーストの上位組で常に取り巻きがいるような現状。
私も茶髪に染めたりウェーブにしたりして高校デビューらしきものをかましてみたものの……正直、明路の取り巻きの一人で、引き立て役止まりだろう。
悔しいけど明路の魅力は本物だ。だから彼氏が欲しいなら、高遠君を見返したいなら、自分磨きをするっきゃない!
「せんちゃん……?」
いい加減見つめ過ぎてしまったからか、明路が足を止めて裾を掴んだ。何か話題を振らねば……!
「え、えっと……明路は誰かさ、気になる人とかできた?」
「えっ?」
一瞬空気が凍って、私を見る明路の目が、すっと暗くなりかけて――
「何言ってるの? あっもしかしてせんちゃん試してる?」
――すぐいつもの、煌めきを
「もー意地悪だなぁ〜、そんなところも好きだけどっ!」
そうだ、普通に過ごしてると忘れそうになるけど、私と明路は付き合ってるんだった……未だに実感ないなー。てか女同士で付き合うって何? これが今付き合ってる状態だっていうなら友達と全然変わんなくない?
「大丈夫、浮気なんてありえないから。私はいつまでも、せんちゃんが世界で一番大切だよ」
「……うん、ありがと」
明路に天国を味わわせるにはヒラメキが足りないし……だから地獄に突き落とすのもできずにいるんだけど……まぁなんもないならそれはそれでいっかぁ〜。
×
「おはよー
校門まであと五分。我が校名物の上り坂に差し掛かったところで、背後から聞き慣れた声が聞こえてきて……心臓が小さく跳ねる。そしてすぐさま表情筋に気合を入れて――
「高遠君! おはよう!」
――振り返る!
「はよー、
「えへへ、それくらいしか取り柄ないから!」
はぁ……イケメン……声まで恰好いい……朝から眼福……耳まで幸せ……。
高遠君とはクラスも一緒! 部活も一緒! 絶対この一年で距離縮めてみせるんだから!
「……はよ」
「ははっ相変わらず簑宮の声ちっせぇ〜!」
くぅ……明路のこの余裕……! ザ・塩オブ塩対応……! てか高遠君が最初に挨拶したの私じゃなくてアンタなんだからちゃんと反応しなさいよ……!
「でもそんなクールなところもいいよなぁ! な? 那花」
「そうだね! 明路は落ち着いてて大人びてて格好いいよ!」
「っ……!! せんちゃん……!!」
男子の前で女子同士の陰険な争いをみせるべからず。高遠君が明路を褒めるなら、(たとえそれが本意でなくとも)乗っかるのが正解! のはず!
「わ、私もせんちゃんの明るくて元気で、でも二人でいる時は物静かなところも素敵だなって「やや! これはこれはお三方揃っておはようございまする~」
「おー
「
「おはよう、神庭さん」
三人で歩いていた私達に合流したのは
驚くことなかれ、ノルウェー出身(帰化? してるらしい)の智慧ちゃんは生粋の金髪ロング&翠目!
風変わりな喋り方や振る舞いは、ともすればハブかれたりいじられる対象になりがちだけど……そんなん相手が美少女だったら関係ないんだ……。
「むむ? なんですかな? 那花氏ぃ~」
「んーん、なんでもないっ」
しかもめちゃんこ華奢で可愛くておしゃれなのに、絡みやすくてとっつきやすくて、クラス中、いや学校中にファンがいる。
明路が見た目だけで人気を集めている一方、智慧ちゃんはコミュ力も込み込みで大人気。高遠君も智慧ちゃんみたいな感じ。
うーむ、そう思ったら私の場違い感やばくないか……?
「むふー、那花氏のもっちりほっぺには溢れんばかりの癒やし効果がありますな~」
「んなっ」
智慧ちゃんの小さくて真っ白な両手で頬を優しく、うにうに~っと遊ばれる。犬にでもなった気分だけど、こんな美少女にされるならなんでもOKだ。
「神庭さん、せんちゃん嫌がってるから」
ただじゃれているだけだというのに、明路は生徒指導の先生みたくピシャリと言い放ち、智慧ちゃんの手を掴んで強制的にやめさせた。
「おおっとこれは失礼!」
「全然大丈夫だよ、明路は過保護過ぎっ!」
「ははっい~な~俺も蓑宮に保護されて~」
「ではでは、私めが蓑宮氏を保護して差し上げましょー!」
冗談めかしたツッコミを入れることで、変な空気から回避することに成功。なんかこういうテクばっかり上手くなってくなぁ。
「過保護……?」
智慧ちゃんと高遠君が別の話題に華を咲かせ始める中、明路が俯いて零した声はたぶん、私だけに聞こえていた。
「だーいぶ、抑えてるほうだけどなぁ……」
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