第2話・彼氏が出来る前に幼馴染が彼女になりました。(後)

 ずっと一緒にいた幼馴染とはほぼ三年間、関わらないようにして過ごし、あっという間に迎えた中学生活最後の日。

 上手く泣けないまま終えた卒業式。

 なんだか楽しみ切れない打ち上げ。

 釈然としない心持ちで帰り道を歩いていると、私の家の前に彼女はいた。

「おかえり、せんちゃん。卒業おめでとう」

明路めいろもね。……なんか用?」

「どうしても今日、話したいことがあるの」

 あんたが打ち上げに参加しなかったせいで、男女ともにがっかりしている人がたくさんいたんだよ、と、文句を言いたいところだけど……そんな体力もなければ、気分でもない。

「来て」

 と、言われるがままに付いていくと、入ったのは近所の公園。小さい頃はよく二人で遊んだりしたなー。久しぶりに見ると遊具がめっきり減っちゃってちょっと侘しい。

「せんちゃん、あのね」

 なんか……こうやって向かい合って話すのも久しぶりだな。緊張する。

「……私、せんちゃんと同じ高校に受かったら言おうと思ってたことがあって。でもなかなか言い出せなくて……」

 明路が私と同じ志望校だったのはもちろん知っていた。それが故意的なのか偶然なのかは、知ろうともしなかったけど。

「中学は……後悔ばっかりだから……もうこれ以上、後悔したくない」

 なんだろ、理由も言わないで距離おいたの怒ってるのかな。だったら……めんどくさいな。怒られる筋合いなんてないし。

「前置きとかいいから早く言ってよ」

 改めて見ると、明路は本当に美人になった。というかいつの間に身長抜かれたんだろか。

 そりゃあみんな好きになるよね。何を勘違いしてたんだか、どこかで私、明路よりも上だって思ってたんだ。あー恥ずかし。あー惨め。早く帰りてぇ~。

「わかった、言うね。せんちゃん……私と、付き合ってください」

「………………は?」

「せんちゃんが好き。他の誰よりも、この世の何よりも」

「…………」

 何言ってるんだこいつ。

 冗談? いやでも流石に……こんな、たちの悪い冗談言うような子じゃ……。

「…………ふぅん」

 はっはーん。なるほど、わかった。

 わだかまりを無くしたいわけだ。

 付き合うとかそういうのは建前で、仲直りしたいだけでしょ。

 私を散々傷つけておいて……禍根残して卒業したくないだけでしょ。

 自分だけスッキリして高校でも男にモテモテの生活送りたいだけでしょ。

「明路はさ、私と本気で付き合ったら、なにがしたいの?」

 ――気に食わない。

 そっちがそうくるならこっちだってやってやる。

 化けの皮剥がして絶交だ!

「な、なにって、えっと……」

「私はさ、彼氏作って……したいことがたくさんあるよ。あっ、もちろん高身長でイケメンの彼氏ね? まず手ぇ繋いでデートして、遊園地とか渋谷とか歩き回って、夜景の見えるレストランで見つめ合って、最高級ホテルに連れ込まれてチューして、そんでそのまま初めての「そんなこと絶対させない!!!」

 びっっっくり、した……。明路のこんな大きい声初めて聞く。ちょ、心拍数上がりすぎ……。

「せんちゃんは……誰にも渡さない」

 何その怖い目……まさか……本気で……私を……?

「じゃあなに、今私が言ったこと、明路がしてくれんの?」

「え?」

 さっきまでの剣幕はどこへやら。あっという間にきょとんとして顔真っ赤。ほれみろ、やっぱりそこまで本気じゃない――

「して、いいの……?」

 ――ほーぅ、そう返してきたか、苦し紛れの一手にしては悪くないじゃん。いつになったらボロ出すか楽しみだね。

「だって付き合うってそういうことでしょー? それともなに、そんな覚悟もなしに告白なんて」

「……うっ……うぅ……」

「えっ、ちょ、なんで泣いてんの?」

 私が話し終える前に泣きじゃくりはじめた明路。や、やばい、ここまでする気はなかったのに。こいつ泣かせるとか……輝咲きさきさんに合わせる顔がない。

 でもこれで明路だってりただろう。変な方法で仲直りしようとした罰とでも思って許してほしい。

「……せんちゃんと……そういうことするの……ずっと夢だったから……していいって言われて……受け入れてもらえて……嬉し……すぎて……」

「……………………は?」

 ちょ、こいつ、マジで言ってんの? さっきの怖い目も、この涙も……嘘には見えない。

「お、女同士だよ? 女同士でちゅーとかえ、えっちとか……できるわけないじゃん」

「関係ないよ。私はせんちゃんが好き。せんちゃんが私の傍にいてくれるなら、私はなんだってできる。せんちゃんがしてくれることなら、せんちゃんと一緒にすることなら、なんだって楽しくて、幸せに決まってる」

 こいつ……あれ? なんで? いつの間に……笑ってんの? ……もしかして今私……明路のことめちゃくちゃ喜ばせてる?

 違う、そんなんじゃダメじゃん。だって私は明路に仕返ししたくて……絶交してもいいわけで……。

「せんちゃん……大好き」

「っ…………」

 じゃああれだ、プラン変更だ、こうなったらもう、上げて落とす作戦で行こう。

 私の恋をことごとく邪魔してきた報いは受けてもらわないと。

 こいつが喜びそうなことしまくって……幸せの絶頂でネタばらしして地獄に突き落としてやる。

 でも喜びそうなこと、かぁ……。そうだ、彼氏ができたらやってもらいたかったことでもじゅんぐりに試してみよう。

「明路」

「ひゃっ」

 私がぐっと近づいてガチ恋距離まで顔を寄せると、明路はわかりやすくたじろいだ。

「せっ……せんちゃん……?」

「目ぇ瞑って」

「……はい」

 普通もっと警戒して抵抗するでしょうが……! 何淡々たんたんとキス顔晒してんのよ!

 まぁ……いいわよ。せいぜい甘く見てなさい。

「んっ……せん……ちゃん……!」

「ははっバーカ、何勘違いしてんの? 指だっての」

 人差し指と中指のお腹で、震える唇に触れただけ。なのに明路は飛び上がって私から離れて、口元を抑えてあわあわしてる。

 うひひ、これはやりがいあるわ~。

「……せんちゃんの指と……ちゅーしちゃった……! どうしよう、どうしよう……!!」

 え、また泣いてる。号泣しながら飛び跳ねて喜んでる……。

「ありがとうせんちゃん。本当にありがとう、これって誓いのキスだよね、唇同士はまた今度……もっとムードのあるときにしたいってことだよね、大丈夫だよ、わかってるから。絶対幸せにするから。絶対に離さないから」

 今度は明路の方から私に近づいてきて、男だったら一撃で即落ちするに違いない笑顔を咲かせた。

 一点の曇りもない、宝石みたいな瞳を煌めかせて。

「え、いや……あの……」

 ……こいつを地獄に叩き落とすのは……まだまだ先になるかもしれない……。

 でも負けない。私だってやってやる。

 幸せの絶頂でこいつをばっさり振って! イケメン高身長彼氏を作ってやる!

「今日からまた……ううん、前よりも仲良しだね、ずぅっと一緒だよ、せんちゃんっ」

「……う、うん……」

 明路って……こんなに圧強かったっけ……?

 なんか……もう負けそうなんだけど……。

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