大嫌いな幼馴染は私のことが大好きらしいので、地獄を味わわせてやります

燈外町 猶

第1話・彼氏が出来る前に幼馴染が彼女になりました。(前)

 小学生になる直前、家の隣にあるボロアパートにシングルマザーの蓑宮みのみや 輝咲きさきさんとその娘・明路めいろが引っ越してきた。


 明路は鬱陶しいくらいに前髪を伸ばしていて、その奥で自信なさげな瞳を伏し目がちに泳がせていて、そんな面持ちにお似合いの引っ込み思案で、小学校に入学してすぐ男子から蓑虫と言われていじめられた。


 正直からかいたくなる気持ちもわかったけど、私は綺麗で格好いい輝咲さんに憧れていたから、輝咲さんにとって大事な明路が嫌な思いをするのは許せずみんなからウザがられるのは承知で止めに入るようになる。


 だから、一緒にいるようになったのも自然な流れだ。けど私だって人並みに遊びたいし、髪型も洋服も明路に似合うのを選んで友達作りだって協力した。明路は優しいし可愛いから、私が仲介したあとはあっさり周りに馴染んだのを覚えている。


 二人でいるときは大騒ぎせず、私がくだらないこと呟いて、聞いた明路が静かに笑って……って、そんな関係とか時間がすごく心地よかった。

 よく家に遊びに行って、輝咲さんからも「明路にも千里ちゃんみたいなお友達が出来て本当に嬉しい」って言ってもらえて誇らしかった。

 明路にも「せんちゃん、いつも一緒にいてくれてありがとう」ってよく言われて、嬉しかった。


 だのに明路は私を苦しめた。


 小学校を卒業して中学に上がると、右も左も色気づいて恋バナばっかり。

 でもそれは仕方ないことで、私も負けじと右に左に格好良い男子を追いかけていた。

 そして私にも生まれて初めて好きな人ができた。サッカーが上手でいつもクラスの中心にいた高遠たかとお君。

那花なばな、ちょっといい?」

 だからそんな風に放課後、彼に呼び出された日は心臓が破裂しそうなほど暴れていた。

蓑宮みのみやってさぁ……好きな人とか……いんのかな?」

「えっ?」

「あ! もしかしてもう彼氏いる?」

「……いないと、思うよ」

「マジで!? うわぁ良かった~、サンキュー那花!」

「…………うん」

 嬉しげに去っていく好きな人の背中は、見ているだけで痛くて、涙が止まらなかった。


 それからもずっと同じ。

 私が好きになる男は、みんな明路のことを好きになる。

 私が男から声を掛けられる時は、みんな明路のことを聞いてくる。


 私は好きになった男子とも、明路の話題以外許されなかった。


 言われてみれば当たり前だけど。

 成長するにつれ輝咲さんのいい部分ばかり受け継いだことが如実に表れてたんだから。

 凛々しい顔も大人びた体つきも、小学生の時は根暗と囃し立てられていた性格も顔が良ければクールビューティと名前を変えて、容赦なく男たちを魅了していった。


『幼馴染なんでしょ、紹介してよ。一緒に遊びに行くだけでもいいからさ』

『明路ちゃんのライン教えてほしいから、お前のライン教えてよ』

『那花もいいやつだけどさ~、付き合うとなったら明路ちゃんだよね~』


 かっこいい人、やさしい人、なでてほしい人、ぎゅってされたい人。

 みんな、明路に夢中だった。

 だけど明路は誰とも付き合うことはなく、私に不毛な恋を強要させ続けた。


「せんちゃん、待ってよ! なんで最近、先に帰っちゃうの? なんか習い事とか始めたのかな? だったら教えてくれても……」

「ごめん」

「あっいいのいいの! 私こそごめんね、明日は一緒に「ごめん、もう別の人と一緒に帰る約束してるから」

「えっ……?」

「……ごめん」

「わ、私……せんちゃんに何かしちゃったかな? 教えて……ちゃんと謝りたいから」

「……別に。明路が謝ることなんてないよ」

 どんどん明路のことが嫌いになっていって……でもそんなの、私に魅力がないからだってこともわかってて……そんな自分が惨めで、中学はなるべく明路と距離を置いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る