3話~実は異世界召喚の魔法が伝承されていないのに異世界に引きずり込まれた件について
「柳水様。お判りいただけましたでしょか。あなた様の御力を。」
「分かりました。わかりましたから。」
手を放してください恥ずかしいんで。なんて言える度胸もないのと、このまま手を握ってもらってたいという下心に口を塞がれて柔らかい手の感触を楽しまざるを得ないのは自然の摂理だと思うのですがいかがでしょうか
「それでは、柳水様。このまま今後についてのご説明を…。といきたいところではあったのですが、昨日唐突にこの世界にお連れしてしまって立て続けに。というのも柳水様の御心に負担を強いるばかりと思いまして、とりあえずは、気分転換にお茶でもいかがでしょうか。」
「それはまぁ…ありがたいんですけど…。」
「それでは、ご用意させますね。ベル、お願いね。」
「はい。アメリ様。」
綺麗にお辞儀して部屋から出て行ったかと思うとティーセットとお菓子をカラカラと運んでくるメイドさん。どうやらベルさんというらしい
いや、昨日の夜からお世話してくれてたメイドさんなんだけどなんやかんやで名前聞くの忘れてたんだよね
「あの、ベルさん?」
「はい。ベルナデット・ビーンシュトックでございます。ベルと御呼びください。」
名前かっけぇ……
「まぁ、ベル。貴女まだ名乗ってなかったの。」
「柳水様も昨日の時点ではまだ困惑されておられましたので。落ち着かれてから改めてと思っておりました。」
「そうなのね…やっぱり昨晩は戸惑っておられた?」
「はい。どこか落ち着きがなさそうにしてらっしゃいました。ですが、突然この様な事態に見舞われてしまえば詮無き事かと。」
「そうですわよね。柳水様、改めて申し訳ございません。」
「いや、もう大丈夫なんでホント。はい。」
「然様ですか?でしたらよいのですけれど…。そうですわ、先ほど本人も名乗っておりましたが、ベルナデット・ビーンシュトック。私の世話と護衛をしてくれていた者ですの。
今後は柳水様の御傍に侍らせますので、なにかご要望があればベルに申し付けて下さいませ。」
「柳水様。よろしくお願い致します。」
「え…あの王女様の護衛の人がいなくなって大丈夫なんですか?」
「なにも私の護衛はベル1人という訳では御座いません。他の者もおりますし、なにより最も信頼できるベルを柳水様の護衛にさせて頂きました。万が一があってはいけませんので。」
それだけ、このベルさんは強くて信頼できる人。って事ね
まぁ、メイドさんが強いってのはある種の鉄板だしな
「そういう事でしたら…。よろしくお願いします。」
「はい。お任せください。さて、お茶のご用意もできましたので、お召し上がりください。」
紅茶……たぶん香からして紅茶。しかも茶葉から出したヤツなんて初めてだぞ。紅茶なんてアフターヌーンのティーしか飲んだことない…あとはティーフラワー伝とか
「うん。今日もおいしいわ、ベル。」
「ありがとうございます。」
「……柳水様は、お茶は苦手でらっしゃいますの?」
「へ…?いや。」
「進んでらっしゃらないご様子ですけど…ベルの淹れてくれるお茶はおいしいですのよ。」
ベルさんも表情が変わってないのにそんなしょんぼりした空気出すのやめてもらえませんかね!
なんでほぼ初対面なのに雰囲気で察せられるんだよ。日本人の特性か!?
「いえ、紅茶を飲むのはほぼ初めてでして……。」
「あら、そうですのね。大丈夫ですわ。茶葉も上質なものですし、ベルのお茶の淹れ方は上等です。」
「ミルクもご用意しておりますので、少々苦みが強く感じられる様でしたらお申し付けください。」
なにこのお前私の紅茶が飲めねぇのかみたいな空気は…
いや、飲むけどさ。べつに嫌いじゃないから…甘くないんだろうなって躊躇してただけじゃん
「……あ、おいしい。」
「よかったですわ。我が国ではお茶とお菓子でランチ後に休憩をするのはもはや当たり前と言ってもいい文化ですから。柳水様にも馴染んで頂けると嬉しいです。
今は、朝食後ですけれどもね。」
パチンと自然にウインクかましてくるこの人はやっぱり欧米感が凄いなぁ…それが嫌味なく様になってるのがまたずるいよな…俺がやったら……やめよう。笑えないギャグになってしまう
「アメリ様、柳水様、本日はクグロフをご用意いたしました。どうぞ。」
「まぁ!私クグロフは大好きよ!」
………クグロフ?
「柳水様、クグロフとは、我が国の伝統的なお菓子で、とてもおいしいんです!こうして食べる前に粉砂糖をかけて食べるのが最高ですよ!」
「アメリ様は非常にこのクグロフを好いていらっしゃいまして、お茶菓子としてはもちろん、ワインと共にお食べになるのもお好きなのです。」
「そう!ワインと一緒に頂くのも素晴らしく相性が良くて…!私もうクグロフなしの生活なんてできませんわ!」
何やら…大層お好きらしいことは分かった
ってか王女様、素が出てくるとですわ系キャラになるんすね
クグロフは…なんか、なんて言ったらいいんだろう。カップ?逆さまにした焼き菓子を縄の様な模様を加えて成型した感じ?カップケーキっぽい
「市井では各家庭で焼いて食べる一般的なお菓子なのですが、王城でお召し上がりいただく分はそれなりに手間をかけて作っております。
仕上げの粉砂糖も、普通はこれほど丁寧には致しません。」
「あら、そうですの?粉砂糖はクグロフにとって大切な仕上げですのに…。」
カルチャーショックでました!さすが王女様!
「アメリ様、民衆の前でそのような事を仰っては反感を買いますよ。」
「もう、ベルったら……柳水様の前でそんなことを言わなくてもよいではないですか…。」
ちょっとふくれてチラ見してくる王女様マジ天使
「ははは……まぁ、王女様ともなればそれなりに格式ある生活をしてないと…威厳とか保たないといけませんしね…。」
「その通りですわよね!柳水様!」
「柳水様、あまりアメリ様を甘やかさないで下さいませ。」
上機嫌でクグロフを食べ始める王女様マジチョロイン
「さぁ、柳水様!柳水様もクグロフをお食べ下さいませ!」
「あ~、はい。頂きます。」
クグロフは非常に香りが良くて、甘くて、美味でした
「さて、お茶菓子も頂いたことですし…。柳水様に我が国の事。そしてこの世界の事についてお話させて頂こうと思いますけれども…。いかがでしょうか。」
「……なにも知らないのは怖いので、お願いします。」
「畏まりました。ベル、新しくお茶をご用意して。」
「はい。アメリ様。」
「さて…まずは、何からご説明いたしましょうか……。それでは、この世界についてですが、その前に柳水様のいらっしゃった世界は、なんとおっしゃられるのですか?」
「世界……っていうか、地球。っていう星でしたけど。」
「地球。ですか。」
「もっと正確に言うなら、太陽系の地球っていう惑星にある日本って国に住んでました。」
「太陽系…。とやらはわかりませんけれども、地球の、日本というお国に住んでらっしゃいましたのね。」
「まぁ、そうですかね……。あ、この世界って丸いんですか?」
「そうですね。我々の世界は丸い世界です。地球もそうなのですか?」
「丸いですね。じゃあ、たぶん感覚としては地球っていう世界の日本国であってます。」
「それでしたら、わかりやすいかもしれませんね。我々の世界はガルドネと呼んでおります。そして、この国はリヴシャトール王国。その王都シャトリエールです。」
「ガルドネのリヴシャトール王国……」
「はい。そして、私は第一王女のアメリ・フランソワーズ・ノエル。貴女様をこの世界に召喚する命令を下した者です。」
「そこは、もういいですよ。もうどうする事もできませんし…。」
「はい。申し訳ありません。」
やっぱり、まだ気にしてる…っていうか気にしておいてもらわないと困る事ではあるんだけど
「リヴシャトール王国は古来より聖属性の魔法の恩恵が強い国です。その為、聖騎士という役職は他の国にもありますが、リヴシャトー王国の聖騎士、と言えば世界的な称号として認知されているほどです。」
「はぁ……じゃあ、王女様は世界でも屈指の強い人?」
「はい。私と比肩できる者はそれこそ両の指に満たないでしょう。ですが、それは個人の武力においての話です。
昨日の様に大軍と相対すれば、私とて勝つ見込みは非常に薄いと言わざるを得ません。
簡単に負けるつもりはありませんし、出来得る限り敵軍に打撃を与える事は致しますが、私自身が生きて帰れるか。という点においては絶望的でしょう。」
「でも、昨日は敵軍を全滅させてたじゃないですか。」
「昨日の事はほとんど柳水様のお陰なのです。柳水様を御呼びする前に私達はカマセールの軍勢の全てを相手にして、ほとんどの力を使い果たしていました。
もう自力ではどうしようもない。そんな状況下で、もう勇者という存在にすがるしかなかったのです。」
「その、勇者召喚ってのはどこの国でも出来る事なんですか?」
「いえ。勇者召喚の魔法は伝承出来るものではないので、世界中で使うことが出来たのは私だけなのです。」
実は異世界召喚の魔法が伝承されていないのに異世界に引きずり込まれた件について俺は異議申し立てを行いたい
だってそんな不運な確率ってなくないですか神様。俺が何かしましたか
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