2話~とりあえず状況説明を求めた結果が予想通りすぎて人間の想像できることの大半は実現できるんだと思い知った件について

「勇者様。先頃の戦闘では本当にありがとうございました。勇者様の御力が無ければ私達は生きていられなかったでしょう。この御恩は返しても返しきれません。」




王女様の突然の覚醒によってあっという間に片が付いてしまった戦闘から一日経過した


俺は終盤にポッと出て結末だけ見た形だが、それまでの激戦は凄まじかったらしく、聖騎士団の死傷者多数。住民にも大きな被害が出てしまったらしい


そんな中、俺は御付きのメイドさんを一人付けられ、大きなお風呂に入り、一晩過ごした訳なんだが…目が覚めても同じ城内にいるあたり、状況は俺の予想した通りのものだと思う


そして、今朝連れてこられた小綺麗な部屋に、これまた小綺麗な御召し物を纏われた王女様が待っており、昨日のお礼を述べられている




「昨日の晩は、ゆっくりして頂けましたでしょうか。功労者たる勇者様へ豪華な夕食でも召し上がって頂きたかったのですが…

なにぶん、被害が深刻でして…お風呂を用意するだけで精一杯でございました。申し訳ありません。」



「あ~…その点はお気遣いなくって言うか、むしろ晩御飯は食べた後だったしいらなかったって言うか…」



「然様でしたか。勇者様の住んでらした世界では夕食が終わるようなお時間でしたのね。」




はい。確定ワードです。【勇者様の世界】では。




「えと……やっぱり、ここって…異世界ってやつなんですかね…。」



「………はい。仰る通りです。勇者様がお住まいになっていた世界とは全く別の世界です。

昨日のお礼と共に、そのご説明と……謝罪を申し上げなくてはならず。このような場を設けさせて頂きました。」



「やっぱそうなんですね……。まぁなんとなく予想はできてましたけど。」



「昨日、召喚直後の勇者様はそれは困惑なさってるご様子でしたのに、戦闘が終わり、お休みになる前にはすっかり落ち着いてらっしゃったと聞き及んでおります。

やはり…お見通しになられていたのですね…。」



「いや、見通してたって言うか…なんていうか予想できたって言うか…

それで、単刀直入にお聞きしますけど…その、帰る方法ってのは…ないんですかね?」



「………申し訳ございません。」



「あ~……やっぱそうなんすね。」




目を伏せてしまった王女様には申し訳ないが…ここで申し訳ないとか思う俺は日本人なんだろうなとつくづく思う。普通なら叫び倒しても許されるんじゃなかろうか


だって誘拐となんら変わらんもんな。しかも回避、抵抗不可能の強制技と来たもんだ


まぁ正直、夢に見た。まではいかなくとも妄想の世界でこんなことあったらいいなぁ。とか考えたことがない訳じゃない


異世界に転生…転移して、美人さんと触れ合うラブコメロマンスを…とか、ちょっと心躍る展開であることも否定はできない


でも実際我が身に降りかかってくると話は別だって理解できたよ。妄想は妄想のままにしておくのが一番いい


だって怖かったもん。悪魔


とは言え、俺自身そこまで深刻に考えていない。まだ深刻に考えられていないと言った方が正しいけど




「まぁ、少なからず分かってましたから。」



「本当に、申し訳ございません。私たちの勝手な都合で勇者様を異世界から御呼びして、お帰しする方法すらありません。

私たちの命と、国の存亡がかかっていた事もあり、私たちは…いえ。私は勇者様の生活、人生を奪ってしまいました。どの様なお叱りも受ける所存です。

ですが、どうか罰するのは私一人にして頂きたく…どうか……」




涙をあふれさせて懇願してくる王女様のまぁなんと美しいことか


少なくとも本当に申し訳ないと思ってくれてるみたいだし…これが演技だったら俺はもう女性を信用する事はないと断言できる


ともかく、王女様は罪の意識でいっぱいなんだろうけど、こっちとしてはまだ理解に実感が追い付いてないんだよね


まぁ、別に家族仲が悪かったわけでもないいたって普通の家族だったけれど


大学生活も途中だったけれど


サークルの後輩が今年やっと入ってくるってところだったけれど


交配のかわいい女の子といい感じになる予定を立てていたけれど


……あれ?意外と思い残すことあるんじゃなかろうか




「勇者様……」




こんだけ泣かれてしまうと追い打ちかけるほどの度胸もないなんてなぁ…


自分の意気地なさにちょっとショックだ…いや、心が広いと思っておこう




「まぁ…何と言いますか……申し訳なく思ってもらわなくていい。って訳じゃないですけど…。

俺もちょっと期待してた状況ってのもありますし、もうどうしようもないんだったら……まぁ、いいですよ。」



「勇者様………ありがとうございます。」



「あ、もちろん、俺の身の保障はバッチリお願いしたいところなんですけど。」



「はい!それはもちろん。私の名において勇者様の安全と、生活は保障させて頂きます。」



「あ、名前と言えば…王女様の名前聞いてませんでした。」



「これは私としたことが…申し訳ございません。恩人たる勇者様に名乗ることもしていなかったなんて。

私、アメリ・フランソワーズ・ノエルと申します。この国、リヴシャトール王国の王女と聖騎士を務めております。

因みに聖騎士とは、この国で最も聖属性の魔法に長けた騎士が名乗ることを許された役職です。」



「王女様の上に聖騎士なんだ…。俺は柳水精親やなみずしらちか。姓が柳水で、名前が精親。一般人です。」



「柳水様でございますね。王城の者達にも柳水様のお名前を周知させて、無礼の無いようにしかと言い聞かせます。

それと、一般人だなんてよしてくださいませ。柳水様は紛れもなく、勇者様ですわ。

柳水様の御力が無ければ、私は昨日命を落としていたのですから。」



「って言われても…俺自身なんの力も感じないんですよね…なにか出来る訳でもないし。

何もしてないのに勇者って呼ばれるのもなんかこそばゆいって言うか…。」




昨日の夜、ベッドの中で思いつく限りの魔法を口にしてみたり魔力を感じようと瞑想してみたりしたけど全く何もなかった


瞑想してたら気づいたら朝になってた




「柳水様よりも以前に、異世界から召喚された方々がいらっしゃいました。とはいってもとても昔の話でございますが。

その最初の方が、人類の味方として魔王と戦ってくださり、見事討ち果たしたとされております。

それ以来、異世界からお招きした方々を勇者と、呼ばせて頂いているのです。

中には、身勝手な理由での召喚にお怒りになられ、我々が手酷い攻撃を受けた例もあるようでございますが…それは、致し方ないことだと思っております。」



「その、怒った人はどうなったんですか…。」



「ある人はそのままどこへなりと行かれてしまい、その後姿を見る事さえなかったとか。またある人は行かれた後に、他の国などで名を上げられたりだとか。

その中には、召喚した国の反撃にあい、その場で落命された方も……。」



「やっぱり、いるんですね……。殺された人も。」



「……はい。身勝手の上にさらに身勝手を重ねる事になってしまい、申し開き様もございません。

ですが、誓って私たちは柳水様を害そうなどと考えておりません。

国を救って頂いた御恩を、よりにもよって柳水様の御命を奪うなどという人の道を外れた仇で返そうなどと。」



「それは、まぁ…俺としては信用するしかないんですけども。」



「はい。すぐに信用頂けるなどと都合よく考えてはおりません。これから、柳水様の信用を得られる様、誠心誠意お尽くしさせて頂きます。」



「お尽くしって……。それはそれとしてですね、俺には勇者としての力が全く感じられないんですけど…。」



「それなら、ご安心ください。柳水様は間違いなく、特別な御力を持っておいでです。

異世界から来られる方は何かしら大きな力を持っておられることが常ですが、柳水様も例に漏れず…」




王女様の陶器の様に白い手が俺の手を握った




「んんっ!……っはぁ。」




瞬間、王女様は喘いだ




「ほら…ご覧ください。柳水様の御手を握っていると、私の魔力がどんどん力強くなってるのが、お分かりになりますか。」




ええ。ええ。わかりますとも


俺の手を握ってる王女様の目がどんどん潤んでいくのがですけど


魔力の件に関しては全然わかりませんけど


とりあえず状況説明を求めた結果が予想通り過ぎて人間の想像できることの大半は実現できるんだと思い知った件については俺の妄想力の逞しさとは裏腹に、俺の矮小な度胸では心がもたなさそうだという事が懸念されています

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