第32話 ミッピィのペンダント


「この……鳥のキャラクター……そんなに人気なの? ワタシにはさっぱりわからないんだけど……」


 あのカギは確かに、使い手によって形を自由に変えることができる。

 だがほとんどの場合、カギの形にちょっと装飾するくらいで、こんな鳥の落書きみたいな形に変えられているとは思わなかったトト。


「失礼な! ミッピィは、ワタシが生まれる前から超人気キャラクターなんだから! このペンダントだって、3年前に予約限定で販売したくらいなのよ? たまにオークションで出品されても、定価の5倍の値段になってるって言われてるんだから!!」

「わ……わかったわ。ミッピィがどういうキャラクターかはわかったから、落ち着いて、ことは」


 ことはは本当にミッピィが大好きすぎて、今ではすっかりミッピィマニアだった。

 ことはの熱量に押されながらも、トトは話の本題に入る。


「それで……このペンダントは、一体誰からもらったの?」

「え……? パパだけど?」

「パパ? あなたのパパは、花咲優子が……あなたのママが死書官だってこと、知っていたの?」

「え……?」


 ペンダントを……時の彼方へ行けるカギをことはに渡したのが、父だということは、その可能性は十分にあった。

 自分の妻が死書官であることを知っているからこそ、ことはにこのカギを贈ったのかもしれないとトトは考えた。


「それは……ないと思う。だって、パパは……————」


 だが、ことはは、母が行方不明になってからの、父の様子を知っている。

 どれだけ心配して、落胆していたか……

 自分のせいでいなくなったのではないかと……

 なんども落ち込んでいる姿を見て来た。


 そんな父が、何か知っているようには思えない。


「とにかく、どうやってこのカギを入手したのか聞いた方がいいわ。そこから何かわかることがあるかもしれない……」

「そう……だね。そういえば、パパの職場にミッピィの大ファンだって人がいるって言ってた——!!」



 ◇ ◇ ◇



 ことはの父・花咲直人なおとは、帰宅した途端驚きすぎて死ぬかと思った。

 玄関のドアを開ける前に、待ち構えていたことはがドアをおもいっきり開けてしまい、ドアに顔面を強打されたのだ。


「いたたたた……コトちゃん! 何してるの……危ないでしょ!! パパを殺す気!?」

「ご、ごめんなさい……!! どうしても、パパに早く会いたくて……」

「な……なんだって!?」


 こんな熱烈な歓迎を受けたのはいつぶりだろうか……

 そろそろ思春期だし、パパうざい!なんて言われちゃうんじゃないだろうかとヒヤヒヤしていたが、まさか、早く会いたくて待っていたなんて言われてしまうとは、直人は予想外だった。


 だから、鼻から血が出ていることにも気にせずに、直人は簡単にことはを許してしまって、今すぐ娘を抱きしめたくなる衝動にかられる。

 しかし、残念なことにそうもいかなかった。


 ことはの後ろに立っていた優介が、直人の顔を見て大爆笑していたからだ。


「直人……お前、その顔……っ!!」


 優介は久しぶりに見た直人の残念な顔に笑いが耐えきれなかった。


「……なんだ優介。お前、今日も来てたのか……」


 実はこの二人、同級生である。

 学生時代、イケメンだともてはやされていた直人が、今こんなことになっているなんて知れたら、当時の女子たちはどう思うだろうか。

 優介は今でこそ、職場では大人として、上級死書官として冷静沈着な男と思われているが、学生の頃はどこにでもいるちょっと背が高いだけの普通の学生だった。

 ついつい、直人と会うとあの頃のように戻ってしまう。


「伯父さんうるさい!!」

「あ……ごめん」


 優介は姪っ子に怒られて、ピタリと笑うのをやめる。


「いい気味だな。いい歳して、コトちゃんに怒られるなんて……」

「……くっ!!」


 直人は娘は俺の味方なのだ!

 と言わんばかりに勝ち誇った表情をするが、鼻血は止まっていない。


 この二人、ことはが可愛くて仕方がないのである。


「ねぇ、パパ!! このペンダントのことだけど!!」


 ことははそんな大人二人のことなんてどうでもいい。


「このペンダント? あぁ、ミッピィのこれかい?」

「誰に、もらったの!?」


 とにかく、その答えが知りたかった。

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