第33話 子煩悩
ことはの誕生日の数日前のことだった。
直人の
「うーん、やっぱりミッピィがいいんじゃない?」
「そうよねーことはちゃんと言えば、ミッピィちゃんよね! この間お弁当届けに来てくれた時も、ミッピィちゃんのバッグ持ってたし……」
「え、花咲さんの娘さんって、ミッピィ好きなんですか?」
最近新しく直人と同じ部署に配属された女性社員は、そのことは知らなかったようだが、ミッピィという単語が聞こえて来て過剰に反応してきた。
「私もミッピィ好きなんですよ! あ! そうだ、もしよかったら、これなんてどうですか?」
そうして彼女が勧めて来たのは、ミッピィのペンダント。
直人はそのペンダントが、3年前に買うはずだったペンダントだということに気がついた。
「これ……限定販売されていたやつだよね? 今市場には出回ってないはずだけど……」
実は、このミッピィのペンダントは、発売日が3年前のことはの誕生日前日で、優子が仕事帰りに誕生日プレゼントとして買って来る予定だった。
だが、優子はそのことはの誕生日に行方不明になってしまったため、入手できずにいたのだ。
サプライズで渡すことになっていたから、ことははこのペンダントが予約されていることを知らなかった。
「私同じものを3つ買ったんです。花咲さんさえよければ、定価でお譲りしますよ? 普通にネットで買ったら、5倍くらいしますからね」
「それは……ありがたい!!」
女性社員は定価で譲ってくれただけじゃなく、可愛くラッピングまでしてくれて、直人は本当にいい人だなぁと思った。
◇ ◇ ◇
「それで、その人は他に何か言ってなかった?」
「え? 他にって……?」
直人は止血のために鼻を押さえたまま、首をかしげた。
どうしてこんなにもミッピィのペンダントの出所にことはがこだわるのかわからない。
「このペンダントについて……とか、ママのこととか……」
「ママのこと? どうして、そこでママが出てくるんだい? コトちゃん、何を知りたいの?」
あの女性社員と、優子に接点があったようには思えない。
単にミッピィが好きないい人だってことくらいしか感じなかった。
「そ、それは——……えーと」
ことはが言葉に詰まっていると、代わりに優介が直人に尋ねた。
「その女性社員、なんて名前だ?」
「え……? コマデさん……えーと、下の名前は、なんて言ったかな? ちょっと待って……」
直人はスマホを操作して、登録してあった社員名を確認する。
「駒出
名前を聞いて、優介は目を見開いて驚いた。
「駒出智美? まさか……————」
「伯父さん、知ってるの?」
「あぁ、おそらく……。直人、その駒出智美って、もしかして家族に警察関係者がいないか?」
「え……? あぁ、確か、旦那さんが警察官だって言ってた気がするけど……————どうして、それを?」
「やっぱりな……」
優介は、その女性社員が何者かわかって、合点がいく。
その人なら、優子と接点があってもおかしくない。
優介はことはにしか聞こえないように、小声で言った。
「駒出っていう、死神図書館に出入りしている担当警部がいるんだ。駒出智美は引退したけど、元死書官だよ……」
トトに言われて、ついて来てよかったと思った。
まだ死書官になったばかりのことはには、知り得ないことだ。
「ことちゃん、パパを放っておいてその伯父さんと内緒話とかやめてよ!! パパ寂しくて死んじゃうよ!?」
聞かれてばっかりで、こっちには何も教えてはくれないなんてひどい!と、直人は訴えたが、ことはは父に構ってられない。
「パパ! うるさい!」
「うっ……!!」
娘にうるさいと言われて、ショックを受けた直人は泣きそうになった。
その表情を見て、優介はくすりと笑う。
「とにかく、その人に会って話を聞いてみよう! 行こう、伯父さん!!」
「行こうって……ことは、今何時だと思ってるんだ! 父さんも、ショック受けてないで、叱らないとだめだろう」
家を出て行こうとすることはの手を、時也が掴んで止めた。
右手にお玉を持ったまま。
「お、お兄ちゃん! はなして!」
「昨日何があったのか、もう忘れたのか?」
「……だって、ママが——!!」
時也のまゆが、ピクリと動く。
「ママ……?」
「あ……っ!」
(言っちゃった!!)
死神図書館のことは、たとえ家族でも言ってはいけない。
このままでは、時也にことはのしていることがバレてしまう。
直人も、ことはから再びママと口にしたのが聞こえて、驚いてこちらを見ている。
(ど……どうしよう————!!)
その時、ガチャリと玄関のドアが空いて、人が入って来た。
黒いワンピースに、大きなリボンを頭につけた、人形のような女の子。
「と……トトさん!!?」
「まったく、こんなことだろうと思ったわ……」
トトは時也と直人に向かって手をかざす。
「だ、誰だ……!?」
時也と直人は急に現れた見知らぬ女の子に戸惑っている間に、意識を失った。
「トトさん!? 一体何を……!!」
「大丈夫。二人の記憶をちょっと前の状態に戻しているだけよ。いい、ことは……二人が目覚めたら、今夜はいつも通りに過ごしなさい。ミッピィのことは、明日……って、なんだかいい匂いがするわね」
「えっ!?」
確かに、なんだか美味しそうな匂いがする。
時也が作っていた夕食のいい匂いだ。
「ワタシも頂いて帰ろうかしら……」
「え!?」
目が覚めた時也と直人は、すっかりことはがママと言っていたことは忘れていて、それどころか、トトを見てことはのお友達か!と、夕食を一緒に食べた。
(トトさん、記憶戻しただけ……だよね? 本当に、それだけだよね?)
隣で美味しそうに唐揚げを頬張るトトを見て、少し不安に思うことはだった————
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