第27話 知らない死書官
「この中に、知ってる人はいないか……?」
「うん、そうだよ。この死書の主人公……あのハゲた死書官は違法死書を調査するために立ち上げられた最初の組織のリーダーなんだ。この集会が終わったら、君のママがやってくる。それまでに、君が知っている人がいたら教えて欲しい」
奏にそう言われて、ことはは息を殺しながら、死書官たちの顔を見てまわる。
しかし、見覚えがあるのはやっぱりあのハゲた高島だけだった。
(このおじさんしか、見覚えがない……どこで、あったんだろう?)
ことはは記憶をたどるが、やはり思い出せない。
ここにいる死書官は、知らないおじさんでしかない。
どうしようかと思っていると、入り口のそばで、メガネをかけた女性の死神を発見する。
パーカーのフードは被っていなかったが、ことはが今着ている制服と同じ赤いチェックのスカートは、男ばかりのこの空間では異質だった。
身長はコトハより少し高いくらいだから、おそらく150㎝半ばくらいというところだろう。
その女性は、ことはと目が合い、一瞬驚いた後どこかへ逃げるように行ってしまった。
(今……目があった?)
死書の中では、フードをかぶればこの死書に登場する人物以外には見えない。
それはあり得ないことだ。
きっと、ことはの勘違いだろうと思った。
◇ ◇ ◇
集会は終わり、集まった死書官たちはそれぞれ教会から出て行った。
高島は残っていた一人の死書官と今後の方針について話していたが、そこに、花咲優子が現れる。
「高島部長……!」
(ママ!!)
ことはは思わず声を出しそうになった口を両手で塞ぐ。
優子が目の前にいる。
それも、自分の知らない死書官としての姿だ。
グレーのスーツの上にフードつきのひざ下まで丈のある黒いコートを着ている。
「どうした? 花咲の……————あぁ、今は神威と呼ぶべきか」
「どちらでも構いませんよ。呼びやすい方で。それより、早急にご報告が」
「あぁ、聞こう。なんだ?」
「どうやら、違法死書の犯人はあのカギを……時の彼方へ行けるというあのカギを探しているようなのです」
この記述は、奏が優子がカギを持っていたことを知った、この高島と残っていた死書官の死書と一致している部分だ。
そして、優子の話を一緒に聞いていたのは、名前が記載されていなかったもう一人。
「あのカギを? それに、そこのお嬢さんは見たことがないが……死書官か?」
優子の一歩後ろにいたのは、先ほどことはと目があったあのメガネの女性死書官だった。
「彼女については、あとで詳しくお話しします。その前に、まずは、あのカギについてです……先日、私は見ました。死書官がカギを……奪われているところを」
「死書官のカギか……確かに、消息不明となっている死書官のカギのいくつかは見つかっていないが……だが、あのカギは封印されていたはずだ。誰が持っているか不明にするために……あの大量のカギの中から、封印され区別がつかなくなっているものを、一体どうやって? 見つかるまでしらみつぶしに探していては、相当な時間がかかるぞ」
優子は首にかけてある自分のカギをぎゅっと握りながら、高島に聞く。
「その封印が、解かれていたらどうです?」
「封印が?」
「封印が解けてしまえば、本物かどうかの区別はつきやすい。それに、カギが使われたことを、犯人は知っているかもしれないのです」
「カギを使う? なぜそんなことができる? 一体誰がそんなことを?」
高島は優子の話をにわかには信じられなかった。
あのカギは、時の神にしか使えないはずだ。
いくら上級死書官を代々輩出している名家・神威家の人間であっても、そんなことができるとは思えない。
それに、優子は中級死書官だ。
上級死書官である高島も知らないそんな事例を、優子が知っているわけがないと思った。
しかし、優子は高島に告げる。
「私が、使ったからです。私が持っていたこのカギこそ、時の彼方へ……未来を書き換えることのできるカギだったのです」
ことはは優子の発言に目が飛び出しそうなくらいに驚いた。
その驚いた表情を、メガネの女性死書官はずれたメガネを指でくいっとあげながら、見つめていた。
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