第16話 死神を見た男


(うーん……全然見つからない)


 初日に2冊目で関連している記述を見つけたのは本当に運が良かったようで、この日は何百冊も仕分けを終わらせたが、今の所なにも見つからなかった。

 ことはの家の近所に住んでいた記録も見つからないし、スタンプのない違法死書もない。

 返却された死書と、新書だけだった。


 そろそろ帰らなければならない時間が近づいてきていて、机の上に積まれていた死書の山も残りわずか。

 どうやらことは仕分けの才能がめちゃくちゃあるようだった。


(これが終わったら、陽太くんの死書を読んで帰ってもいいかなぁ……飽きちゃった)


 ことはが次の死書に手を伸ばし、3年前にどこに住んでいたかを確認すると、隣の県に住んでいた人だった。


(また関係ない死書か————)


 そう思って、死書官のスタンプが押されているページを開く。

 しかし、そのページは真っ白で、どこにもスタンプが押されていなかった。



「あ……違法死書だ!」



 中身を確認すると、薄くなっている文字の最後の記述は今日の朝。

 会社に出勤したところで終わっている。

 誰かが、他の死書を書き換えたせいでこの人物の死書が違法死書となってしまった。


(いったいどこで……)


 薄くなっていない、書き換えられた影響が出ている行まで戻ると、それは2週間前に起きた通り魔殺人に巻き込まれたことに変わっていた。

 さらに、ことははその死書の中で、妙な1文を見つける。


「……と、トトさん!!」

「なに?」


 最初トトは振り向きはしなかったが、ことはの声に応えてくれた。


「“死神を見た”」


「……は?」


 しかし、ことはの発言があまりにわけがわからなくて、また眉間にシワを寄せたままトトは振り向く。


「この死書に、書いてあるの!! “死神を見た”って!!」





 ◇ ◇ ◇




「おい、人が刺されたぞ!」

「なんだって!?」


 それは日曜日の昼過ぎだった。

 大きなショッピングモールには、たくさんの買い物客が来ていて、休憩のために置かれているベンチに座って、目の前の洋服店で買い物をしている妻と娘を待っていると、後方からそんな声が聞こえてくる。


「キャアアアアアア!!」


 女性の悲鳴が聞こえて、振り返ると入り口の方からどんどん人がこちらに向かって逃げているのが見えた。

 人の波にのみこまれそうになる前に、ベンチの上に立って、何が起きたのかとのぞいてみれば、血を流して倒れている人が見える。


 通り魔に襲われた被害者らしき人のそばに、黒いフードを被った死神を見た。

 子供の頃、一度だけ見たことがあった人の死の瞬間。

 その時と同じ、黒いフードを被った死神の姿だ。


 きっとあの人は助からない。

 そう思っていると、いつの間にか、腹に激痛が襲ってくる。

 自分が刺されたことに気づく前に、見たその死神の顔はフードを被っていてよく見えなかった。

 だが、確かに見たのだ。

 死神を。


 その死神の背後にもう一人、別の死神がいて……

 背後から近づいた死神が、最初の死神を刺し殺した。

 そして、殺された死神から、2冊の本ともう1つ、何かを奪って行く瞬間を見た。


 どちらの顔もよく見えず、意識が遠のいていき、そのままこの死書の主人公は死んだ。



「死書官が……死書官を殺したってこと……?」


 死書の中に入り、2週間前の現場を見たことはとトト。

 あくまで死書の主人公である本人の見た範囲しか情報は記録されていないため、死神を殺した死神が誰なのかはわからなかった。


 だが、死神に殺されたのが誰かはすぐにわかった。

 この通り魔殺人事件の犯人は、取り押さえられ、逮捕される前に自分で命を絶っていて、その書き換えられた死書に書かれた被害者の数より、実際には1人多い被害者がいたからだ。


 警察が発表した通り魔によって殺されたとされているのは4人。

 しかし、その通り魔の死書には3人の名前しかなかった。

 死書に名前のない人物の死書を調べると、死書官であったことが判明したのだ。


 だが、その死書官の死書には犯人の名前は書かれていなかった。


「死書官が、死書官を殺すなんて……そんなこと、あり得ない。あっていいはずがない……」


 トトはあり得ないと首を左右に振った。

 なんども、なんども……





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