死神図書館とひみつのカギ

星来 香文子

プロローグ

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 * * *


『わたしのママ』 3年2組 花咲はなさきことは


 わたしのママは、し書さんです。

 中学校の図書館で毎日、本の整理をしたり、かしたり、もどってきた本をかん理したりするお仕事をしています。

 でも、ママは本が好きだからやっているんじゃないそうです。

 新しい本が入ったら、悲しいといっていました。

 わたしが、どうしてと聞いたら、ママはいいました。

「たくさん本があるから、かん理するのがたいへん」だそうです。

 図書館の本に、悪いことをする人がいるので、ママはそれを直すのがとてもつかれるけど、それでも、とても大事なお仕事だから、毎日、がんばっているといっていました。

 ママが悪いことをする人から、本を守っているので、いつも図書館は平和です。

 し書さんは、本を守る大事な仕事なんだと知りました。

 わたしも大人になったら、ママといっしょに、本を守るお仕事をして、ママが楽になるようにお手つだいをしたいです。


 * * *



 この作文を読んだのは、授業参観日。

 下手くそなわたしの作文を聞いて、ママは感動で泣きだしちゃって、少し恥ずかしかったけど、本当に喜んでくれたみたいで嬉しかった。

 それは3年経った今でも忘れられないできごとで、今でも振り向いたらママが教室の後ろに立っているんじゃないかって、期待してしまう。


 ママはこの2日後、わたしの9歳の誕生日に、わたしたち家族の前から、姿を消した。


 この時は本当に、何も知らなかったの。

 だから、気がつかなかった。


 ママの仕事が、図書館の司書ししょではなく、であることを。

 まだ、小学3年生だったわたしは、そのことを知らなかった。


 わたしのママは、MUGEN図書館————別名:死神図書館の死書官だったことを。



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