最終話 告白

公正なじゃんけんのもと、順番は祐希、琇、辰巳の順になった。

 祐希は一緒に買ったハンカチを手に、階段の踊り場で待つ春華のもとへ向かう。

「春華」

「あ、祐希くん。どうしたの?」

「俺たちは、いまから春華に告白する」

 春華は目を見開き、息をふぅっとはく。その目は想いを受け止める覚悟の瞳に変わった。

 ――俺は、中学に入って初めて恋をした。これまではただ彼女が欲しかっただけ。周りに自慢したいだけ。だけどこれは違う。春華は違うんだ。春華は俺にとって特別だ。初めて相手のことをもっと知りたいと、一緒に居たいと、そう思ったんだ。

 祐希は両手にぐっと力を込め、口を開く。

「春華、俺はお前が好きだ」


***


 帰ってきた祐希に目もくれず、琇はスマホを握りしめ部屋を出る。

 画面には二人で撮った写真が表示されていた。

「ハルさん」

 上ずった声に恥ずかしくなるも、琇は覚悟を決めた。琇の声に春華が振り返る。

「琇くん」

 ――目をつむるとハルさんとの思い出がよみがえってくる。初めて会ったときのこと。二人で下校時間のギリギリになるまで好きな本を語り合ったこと。初めて一緒に図書館だよりを作ったこと。相談として夜な夜な電話をしたこと。ハルさんと出会って、ずっとずっと好きだった。そしてきっとこれからも。

 琇は目を開き、春華の瞳を見つめる。

「ハルさん。ずっと前から好きでした」


***


 辰巳は廊下で琇の帰りを待っていた。

 奥から琇がやってくると、息をのみ、自身を鼓舞して歩み始める。

 互いの目線を交わさないまま、二人はすれ違った。

 春華は階段に腰掛け、辰巳を待っていた。

 ――初めて人を好きになった。春華の笑顔に見惚れていた。気づいたら目で追うようになっていたんだ。マンガの中に手紙を忍ばせた。春華の書いてくれた返事の手紙。気づけば何十枚にもなっている。沢山春華のことを知って、色んなところを好きになった。本が大好きなところ。間違ったことは許せないところ。友達を大切にしてるところ。真面目なところ。字が綺麗なところ。笑顔がたまらなく愛おしいところ。そして、これからも沢山知らない春華を知って、俺は全部好きになる。

 春華と目を合わせ、想いの内を言葉にする。

「春華。きみが好きだ」


――私も、ずっと好きでした




 部屋に戻り、辰巳は息を吐く。

「そっか、そっかぁぁ、辰巳かぁぁぁぁぁあああ」

 祐希の声が部屋の外まで響き渡る。

「真剣勝負の結果です。僕に、悔いは、ありませんっ」

 琇の頬にはポロポロと涙が流れる。

「泣くなよ、泣くんじゃねぇ! そんなダセーこと、するんじゃ……っ!」

 祐希も瞳に涙を浮かべている。

「二人がいたから、俺は本気になれた」

 辰巳の目元にも涙が浮かんでいた。

「なんで、お前まで泣きそうになってんだよ」

「辰巳に泣く権利なんて、ありませんから」

 辰巳は無言でうなずく。その頬には涙が流れていた。

「だから、お前は泣くの禁止だ!」

「あなたは笑顔で、喜びに浸ってればいいんですよ!」

 そんな辰巳に、祐希と琇は飛びついた。

 三人はぐしゃぐしゃにじゃれ合い、言葉にならない想いを、互いの身体にぶつけ合った。



 帰りのバス。

 辰巳と祐希と琇は、一番後ろの座席に座っている。

 三人はあの後、朝陽が上るまで遊び尽くした。

 互いに寄りかかって眠る三人は、幸せそうな表情を浮かべて眠っていた。

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恋愛協定 あお @aoaomidori

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