第11話 修学旅行2日目 -祐希編-

 自由時間が残り少しとなった頃。辰巳たち一行は京都駅に来ていた。

「京都駅って黒いんだ!」

 女子グループの一人が叫ぶと、周りからはクスクスと笑い声。

「俺らが田舎者だってバレたじゃねぇか!」

「田舎にも誇り持ちなさいよね!」

 祐希とその女子がいがみ合っていると、

「あの二人仲良いね」

春華が横にいる辰巳に呟いた。

「そ、そうだね」

 苦笑いで誤魔化す辰巳だが、その目は祐希を叱責していた。

 京都駅では各自お土産を買う時間を設けており、辰巳と琇は他の女子たちと共にお店を周った。

 春華は周りの動向を気にせず、一人でなにを買うか悩んでいた。

「誰に買うんだ?」

 祐希が声をかけると、春華は指を折って数え始める。

「家族でしょ。従妹におじいちゃん、部活の先輩と後輩。あと幼なじみの由紀ちゃん」

「沢山いるんだな」

「お土産ってモノだけじゃなくて、思い出も一緒に話せるから。沢山の人にお話したいなと思って!」

 変なやつ、と心でつぶやく祐希だが、それは好意に満ちた一言だった。

「祐希くんは? あ、もしかして香蓮にプレゼント?」

「はあ? なんで俺があいつに」

「二人仲良さそうだからさ」

 その言葉に祐希は数秒固まった。

(これはまずいな……)

 そして先ほど、なぜか辰巳に睨まれていたことを思い出す。

(辰巳のあれは、これか~!)

 祐希は紡げるギリギリまで沈黙の時間を作り、必死に作戦を練る。

「違うよ。俺は春華にプレゼントしたいと思ってな」

「え、私に?」

 春華は大きく目を見開く。

(よしよし、これで良い。他の子だと思ってたらまさか自分に⁉ ストレートだが効果は抜群じゃねぇの)

 心の内を悟られないように、あえて普通を装う祐希。

「二人で選びたくて、春華のとこ来たんだ」

「そっか。じゃあ一緒に選ぼう!」

 思いのほか動揺しない春華に、若干の不安を感じる祐希だったが、ここで焦っても逆効果だと気づき、プレゼントを買うだけに留めておくことにした。

「これかわいい!」

 そう言って春華が見せたのは、市松模様のハンカチだ。

「お、いいじゃねぇか。京都っぽいし、それにするか!」

「うん! ありがとう祐希くん!」

 満面の笑みを浮かべる春華に、すっかり祐希は見惚れてしまう。

 そして春華は市松模様のハンカチを二枚手に取った。

「あれ、二枚も欲しいのか?」

「ううん。一枚は私から祐希くんに!」

 二人は一緒にレジへと向かい、同じハンカチを購入。お店から少し出たところで、互いにプレゼントを渡し合った。



 一行はホテルへと戻り、修学旅行最後の夜を楽しんだ。

 夕食後のレクも終え、各自部屋へと帰っていく。

 辰巳、祐希、琇の三人は、まるで戦場に向かうかのように顔を強張らせていた。

 三人は部屋へ入るなり、顔を洗ったり、髪を整えたり、頬を叩いたりしていた。

「よし、はじめよう」

 辰巳が声をかけると、残りの二人も集まり最後の打合せを始める。

「これから、琇が春華に連絡を取る」

「うん、メッセージはもう打ってあります。あとは送信するだけです」

「そして一人ずつ、春華に想いを告げに行く」

 互いに顔を見やり、息をはく。

「死ぬほど、緊張してる」

「僕も、なんていうか、やばいです」

「ダセーなお前ら。たかが告白だろ?」

 そう言う祐希はハンカチを握りながらも、その手を震わせていた。

「はぁ、これで終わるのか」

「終わるんじゃねぇよ。これから始まるんだ」

「じゃあ、送信しますね」

 琇はスマホを取り出し、震える指で送信ボタンをタップした。

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