第10話 修学旅行2日目 -琇編-
春華を中心とした男女グループは、二台のタクシーで金閣寺へと向かった。
入り口で再集合し、今度は辰巳と祐希が女子たちを先導する。比較的歩くのが遅い春華を、琇はエスコートする形でデートに仕上げる。
「ごめんね、琇くん。一人でも大丈夫だから、みんなのとこ行っていいよ」
「いや一人はさすがに心配です。僕もゆっくり歩きたいから、ハルさんと一緒に行きますよ」
「ありがとう。優しいね、琇くん」
知ってたけど、という言葉を添えてほほ笑む春華。
琇の心臓がドクンと強く鳴った。
(ハルさんと二人きり。慣れてるはずなのに、すごい緊張してる)
緊張は物静かな琇の口を、強固な糊のように固めてしまった。
二人は話すこともないまま、金閣寺が中央に見える池へとたどり着いていた。
「わあ、ほんとに金色なんだね」
「写真よりも金ぴかだ」
「ねえねえ、写真撮ろ?」
琇の心音が跳ね上がる。春華がスマホを構え、琇に近づく。
「もうちょっと、こっち来てよ」
春華の言葉におずおずと近づく琇。
「んー、分かった! 琇くんがスマホ持って!」
琇は言われた通り受け取ると、春華がぎゅっと近づいた。二人の距離は肩がくっつき、顔も少し動けば触れ合ってしまいそうだ。
(ちかいちかいちかいちかい!)
琇が心で絶叫し、身体は硬直する。
「もうちょっと、下向けて」
春華は琇の手を掴み、カメラの角度を調整する。
(ハルさんが、ぼ、僕の手を!)
琇の心音は、外に聞こえてしまうほどうるさく鳴り響く。
「じゃあいくよ。はいちーず!」
シャッター音とともに、二人の時間が切り取られる。
「琇くんもうちょっと笑いなよ~。はい、もう一回!」
春華が再びぐっと距離を縮める。
(笑える余裕ないって!)
琇の笑顔は引きつったものになっていた。
「あはは! すごい顔してるよ琇くん。これはこれで思い出だね」
春華は笑いながら進み始めた。
夢のような時間に浸っていると、ポケットに入れたスマホが振動する。
そこには引きつった自分の笑顔と、愛おしい春華の笑顔が並んでいた。
春華と琇は、出口で辰巳たちと合流した。
「(どうだったよ)」
辰巳の時と同様に、祐希が成果を聞いてくる。
「(一緒に写真撮っちゃいました)」
「(いいなぁぁああ!)」
「(ちょっと見せてよ)」
そこに辰巳も加わる。
「(嫌です。ぜーったい見せません!)」
琇はスマホが入ったポケットを、強く握りしめた。
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