第5話 攻略開始

 三人は互いに結んだ協定のもと、春華へのアプローチを本格化させていった。


 辰巳は、クラスでの隣席特権をフルに活用した。

「ごめん、今日教科書わすれちゃって。見せてもらってもいい?」

 辰巳は毎日何かしらの授業で、春華と席をくっつけていた。そしてそこでは、ノートに無言のやり取りがびっしりと書き埋められていくのだった。

 互いに質問し合ったり、授業の愚痴をこぼしたり、はたまたおすすめのマンガで盛り上がったと思ったら、翌週にはそのマンガを貸しあうまでになっていた。

「春華が貸してくれたマンガすごい面白かったよ!」

「ほんと? 私も辰巳くんが貸してくれた本、すごい好きだった!」

 二人はいつの間にか、互いを名前で呼び合うほど、距離を縮めていた。

 校内には持ち込んではいけないマンガを互いに貸しあう。それは些細な出来事だが、互いに秘密の共犯関係を築いていくことができた。

「(じゃあ次はさ)」

 そのため先生が近づくと、二人はこそこそ話に切り替える。そして、その距離は顔がくっついてしまうほど近くなる。

「(お互い好きそうなマンガ持って来ようよ。私、辰巳くんが好きだろうなあってのがあって。どうかな?)」

「(わかった。俺も来週、春華が好きそうなの持ってくるよ)」

「(うん、楽しみ!)」

 目の前で輝く満面の笑みに、辰巳の心は惚れ落ちていくのだ。



 辰巳は、春華との約束を果たすため週末、本屋に向かっていた。

「春華の好きそうなやつ……うーん……」

 持ち合わせでは、春華の好みに合いそうなものがなかったので、辰巳は新しく春華が好きそうなマンガを買い集めることにした。

 町の大型ショッピングモールにある本屋で、辰巳は唸りながらあれこれ物色している。

「これは、ちょっと俺が読むには乙女ちっくだし。こっちは有名だから読んでるだろうし」

 一時間ほど悩んで、数冊レジへと持って行った。合計で千円ちょっとだが、中学生の買い物としては結構大きな買い物だ。しかし、恋への投資と思えば、辰巳にとってこの程度は安いものだった。

「さて、早速読んで検証だ」

 春華の喜ぶ顔を想像し、浮かれながらショッピングモールの出口に向かう。そんな時、思わぬ人物と出くわしてしまった。

「え! 春華⁉」

 週末の人混みで、雑多とした通路の中、少し奥にいる春華を見つけ辰巳は嬉しくなる。が、春華の横にはもう一人誰かいるようだった。

「あれは…………ゆうきぃぃぃ⁉」

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