第4話 協定成立

「謝ってください! 本はなにも悪くないです!」

 春華がサッと顔をあげる。その瞳には涙が浮かんでいた。涙目になりながらも、春華は強い眼差しで男に詰め寄っていく。

「なにバカなこと言ってやがる。本に謝れなんて」

「謝ってください! 本を乱暴に扱う人だけは、絶対に許しません!」

 春華の迫力に男は次第に気圧されていった。

「ちっ! うぜえなお前! 分かったよ悪かったよ!」

 男はもう付き合い切れないと、捨て台詞とともに、去っていった。

 祐希は呆気にとられ、その場から動けずにいた。

「はぁ~。怖かった~」

 そう言って春華が壁に背中を預ける。

「勢いでやってしまった。本が関わると我を忘れちゃうんだよねぇ、えへへ……引いちゃった?」

 春華は苦笑いを浮かべながら祐希に問いかける。

「いや、かっこよかったよ」

 祐希はそれ以上、言葉を重ねることなく、春華の前から立ち去った。

(やばい、あれはずるい)

 祐希の想いは否応なく、春華に向くこととなった。



 その日の帰り道。

 辰巳と祐希と琇、いつもの三人で帰っていると、祐希がビシッと手を挙げた。

「宣誓します! 俺もあの子のこと、取りにいきたいと思います!」

 祐希のカミングアウトにより、仲良し三人組は恋敵の三つ巴へと変貌した。

「分かった。じゃあ正々堂々、誰が春華と一緒になれるか、勝負だな」

 そういうのは三人のうち、クラスで隣の席をキープしている辰巳。

「僕、絶対負けないから」

 その勝負に闘志を燃やしているのは、図書委員で春華と仲良しペアを組む琇。

「ふん、俺の恋愛スキル、なめんなよ」

 二人のようなアドバンテージは持っていないものの、誰よりも恋愛経験が豊富な祐希。

 三人の恋路は、互いに重なり合い、春華という少女を奪い合う恋愛戦争と化していた。

「なぁ、公平になるようルールというか、そういうの決めないか?」

「ルール?」

 辰巳の提案に、琇が怪訝な表情を見せる。

「なんというか、抜け駆けされたくないだろ? 俺の知らない所でそんなことがっ! とかあったら結構ショックじゃん。だから、互いに約束を交わすんだ。名付けて――恋愛協定」

「なるほど、悪くない」

「いいじゃねぇか。そういうのあった方が、互いに恨みっこなしが、徹底できるってもんだ」」

 琇と祐希がそれぞれの反応を見せる。

 二人の反応に頷き、辰巳は三本指を立てる。

「協定は三つ。一つ、春華と会うのは学校の中でのみ。二つ、春華と連絡先を交換しない。三つ、毎日この帰り道では、春華攻略会議を行う」

 それを聞いた琇と祐希は、互いに顔を向け合い、頷く。

「「それでいこう!」」

 こうして、辰巳、祐希、琇の三人は互いに恋愛協定を結ぶのであった。

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