第3話 春華と本

 ――翌日の昼休み。

 琇は所属する図書委員会の定例会議のため、図書室横にある準備室にいた。

「あ、琇くーん」

「おはようございます。ハルさん」

 春華は琇の横に座った。

「先週おすすめしてくれた本読んだよ。すっごい面白かった!」

「それは良かったです。ハルさん、ああいうの読んでないと思ったから、少し心配で」

「読んだことはなかったけど、すごい好きになっちゃった! 自衛隊とか出てきて、小難しい話なのかなって思ったら、ラブコメちっくな展開になって。後半なんて怒涛の展開すぎて一気に読めちゃったよ~」

「後半凄まじいですよね。あの上官がまさかの」

「そうそう! あそこであんなセリフはかれちゃ、好きになっちゃ」

「おーい、そろそろ始めるぞ~」

 部屋の一番奥にいる委員長が、やれやれといった様子で呼びかけた。見ると、他の生徒も琇と春華をほほえましく眺めていた。

 二人は同時に首をすくめ、申し訳なさそうにする。部屋は暖かな雰囲気に包まれたのだった。



 定例会は滞りなく終わり、琇はそのまま教室へ。春華は図書室で本を数冊借りてから、自分の教室に戻っていく。

 その帰り道、祐希が春華に声をかけた。

「お、その本面白いやつじゃ~ん」

「あ、え、あっ、これ?」

 春華は抱えていた本のうち、一番外側にあったものを手に取る。

「そうそう。俺の友達がしつこく勧めてきたから、仕方なく読んだんだけど。すっげぇ面白かった」

「私もこれ友達から勧められて。そっか~、面白いんだ。すごい楽しみ!」

 春華の笑顔が眩しく輝く。

(そうか、この笑顔に二人はやられたんだな。でも俺には通じねぇ)

 祐希は自分の防御力が、他の二人に比べ勝っていると、得意になっているようだった。その余裕からか、なにか二人のために情報を聞き出そうと、抱えている他の本を眺める。

「ほかの本は……恋愛ものっぽいな。好きなの?」

「うん。やっぱこのドキドキ感というか、憧れ感というか。こういう恋、私もしてみたいなぁって」

 浮かれた心地で、春華が体を揺らしていると、すれ違ったガラの悪い男子生徒にぶつかり、持っていた本をバサバサと落としてしまう。

「ってぇな! どこに目つけてんだよ!」

「ご、ごめんなさいっ!」

 謝りながら本を拾う春華。祐希も足下に飛んできた本を拾う。最後の一冊は男子生徒の足下にあった。春華が拾いにいこうとすると、男はその本を蹴り飛ばした。

「邪魔くせぇな。さっさと拾えよ」

 男は面白がっているのか、笑みを浮かべそう言った。

 祐希の怒りが行動に移る。その一歩手前で、春華の口が小さく動いた。

「謝ってください」

「あ?なんて?」

「謝ってください! 本はなにも悪くないです!」

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