第2話 三人の帰り道

下校中。辰巳は祐希ともう一人、辰巳よりも背が低い男子と三人で帰っていた。

「なぁ、俺。好きな人できたかも」

「おー! 辰巳にもついに恋が! ひゅ~!」

「祐希うるさい!」

「どんな人なんですか?」

 辰巳に問いかけた少年の名前は、佐々木琇。二人とクラスは違うのだが、祐希の幼なじみであり、帰りはいつも一緒である。三人の中で最も背が低く、声もわずかに高い。小学校では髪を伸ばしていて、女の子と間違われることも多かったが、いまは爽やかなショートカットで少年感を醸し出している。

「うーんと、クラスで隣の子なんだけど……」

「あー! あの子か! お前たちずっとイチャイチャしてたもんなぁ」

「イチャイチャなんて!」

 辰巳と祐希がじゃれ合っている背中を、琇は優しく見守る。いつもの光景だった。

「あのとき何してたんだよお前ら」

「ノートで会話してた、というか。文字かいて会話してた、というか」

「授業中に筆談ですか。なんかドラマチックですね」

「いいねぇいいねぇ! 恋愛マスターの俺に、なんでも相談していいんだぜ?」

「祐希の場合は、ただのたらしです」

 琇の言葉に、辰巳が目を見開く。

「祐希って、そうなの?」

「ええ。初めて付き合ったのは小三でしたっけ。その後二人の女の子に乗り換えて、卒業までに六人ほど」

「昔のことはいいんだよ。俺は生まれ変わったからな!」

 祐希は中学に入り、まだ誰とも恋仲になっていない。

「で、その子の名前は聞いたのかよ」

「あ、うん。渡邊春華さんだって」

 祐希と琇の足がピタッと止まる。

「それって……」

 祐希が琇の顔を心配そうに伺っていると、

「恋愛に先も後もないですから。勇気を出せず一年も告白できていない。僕が弱いだけです」

琇は言葉に反して真っすぐ前を見据えていた。自分の弱さと向き合うときが来たという、覚悟の目をしていた。

「うん、そうだな。だから俺はどっちも応援するぜ! 琇の恋も辰巳の恋も。そんでフラれたやつは俺が焼肉に連れてってやるよ」

「俺は寿司がいいかなー」

「僕はハンバーグがいいです」

「文句言うんじゃねぇ! てかなんで二人ともフラれる気でいるんだよ!」

 辰巳と琇は、そんな祐希の反応を見て笑い合うのだった。

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