予知夢
彼女は続ける。「そこにはね、わたしのことを待っている人がいるの。みんな待っていてくれて、中には泣いたり笑ったりしている人もいるの。でも誰も嫌そうな顔をしていないし迷惑そうな顔をしてもいないのよ」「それで?」「うん、ただそれだけの夢よ。でもね? 起きた時に思い出すのはその夢の事ばかりだし不思議なのよね」
彼女は笑うと、「ねぇ? これってもしかしたら予知夢なのかしら?」
咲花は「さぁ、どうかしら?」
と返すと、二人で笑い合った。
咲花が目を覚ますと、目の前にプラハがいた。
「うわぁ!」
咲花が驚いて飛び起きると、プラハは呆れたようにため息をついた。「何でそんなに驚くの?」
「だ、だって……」
咲花が口をパクパクさせていると、プラハは肩をすくめた。「もうすぐ朝ごはん出来るわよ」
「あ、うん……」
咲花はベッドから抜け出すと、着替えてからリビングに向かった。そこにはパンとサラダと目玉焼きが用意されていた。「いただきまーす!」
咲花は元気よく食べはじめた。その様子を見てプラハは苦笑する。「あ、そうだ」
咲花が何かを思い出したかのように呟いた。「今日はちょっと用事があるから、夕方まで帰ってこられないかも」
「あら、そうなの? じゃあ晩御飯はどうするの? まだ作ってないけど」
「あ、えっと……」
咲花は言葉を詰まらせた。まだプラハに自分の正体を明かす覚悟が出来ていないからだ。しかし、黙ったままというわけにもいかないだろう。
「実はね……」
結局咲花はプラハに全てを話した。プラハは最初こそ驚いた様子だったが、途中からは平然と聞いていた。「ふぅん、そんな事がねぇ……」
プラハは納得すると「別に構わないんじゃないかしら?」と言った。「え?」
「あんたの人生だもの。好きにしなさいよ」
プラハの言葉を聞いて、咲花はホッとした。そして、その日一日をプラハと過ごした後、事務所へと向かった。
「はい、こんにちは!」
動画の撮影を始めると、いつも通りに撮影を終わらせ、編集をして投稿した。そして、プラハに報告をする。「よし、これで終わりっと!」
咲花が一息つくと、プラハが話しかけてきた。「ねぇ、あなたって本当にわたしの事好きなのね」
「へ? どういうこと?」
咲花がキョトンとしていると、プラハはくすっと笑ってから説明してくれた。「だってほら、動画の再生数が前よりずっと増えてるじゃない」
咲花はハッとした。そういえばそうだった。最近は忙しくて忘れていたが、自分の動画は伸びていたのだ。
「私、これからも頑張るね!」
そういうと咲花はガッツポーズをした。しかし次の瞬間には落ち込んだ表情になる。それは昨日の事が原因だった。自分は一体何をすべきなのだろうか? 自分なりに考えてみたのだが、いまいちわからないのだ。そんな様子に気付いたのか、プラハが心配そうに声をかけた。「ねぇ?どうしたのよ、急に落ち込んだりして」
「え、いや……」
咲花は答えようとしたが、言葉にならなかった。そんな様子を見かねたのか、プラハは言った。「はっきり言いなさいよ。怒らないから」「う、うん……」
「あのね、私……、これから何をしたら良いかわからないの」
咲花は悩みを打ち明けたが、それを聞いたプラハは首を傾げた。「何言ってるのよ。決まってるでしょ」
「え?」
「あんたはいつも通り、動画の撮影をしてくれればいいの」
「で、でも、それだと今までと同じだよ」
「だから何なのよ」
「だから、その……」
咲花が口籠っていると、「ああもう! じれったいわね! もっとはっきり喋りなさいよ! あんたはわたしの為に一生懸命働いてくれた! なら今度はわたしの番でしょ! だから、わたしは、わたしはね……! あなたの為になることをしたいの!」
それを聞くと、咲花は目頭が熱くなった。しかしここで泣くわけにはいかない。咲花はグッと堪えるとプラハをギュッと抱きしめた。そして、そのまま唇を重ねる。しばらくキスをした後、二人は微笑み合うともう一度唇を重ねた。咲花は思った。自分の愛する女性は最高なのだと。だから、自分もそれに恥じないように生きていこうと心に誓った。
数日後、動画サイトの運営からメールが届いた。それは新しい企画の参加の承諾だった。咲花は迷わず参加のボタンを押した。それから動画サイトからの連絡が来るまでの間はいつも以上に動画の撮影や編集に力を入れるようになった。やがて新しい企画の詳細が届くと、咲花はプラハに相談することにした。すると意外な事に、彼女も乗り気だというではないか。そこで咲花は動画の企画について相談する事にした。すると彼女はこんな事を言った。この機会に何か面白いことをしよう。プラハが言うのならばと、咲花は早速アイデアを出すことにした。すると、彼女はこう言った。わたしたちのチャンネルの売りは何? それはやはり自分達の動画の作り方にあるだろう。咲花は考えると答えた。すると彼女は満足気に笑った。咲花は思う。
「わたしってやっぱりプラハちゃんがいないと何も出来ないんだなぁ」
「今更何を言うのよ。当たり前でしょ?」
こうやって二人は共に支え合いながら生きていくのであった。
Fin.
『風速40mの夏、私たちは恋をした』 水原麻以 @maimizuhara
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