プラハの嵐は咲花を誘導する

プラハの嵐は咲花を誘導する。自分が咲花を誘わなければ彼女が断ると考えたからだ、と彼は言った。

「これが私の案内役、ここが私のお客様窓口、ほら、さっさと行くわよ」

プラハは咲花を誘導すると、そのまま機械を操作し連れ立って歩いた。

「お気をつけてください、これから私たちのプラハが案内する機械が、あなたのものですよ」

「あっ…」

プラハの嵐は咲花に案内させているわけではない、と彼のプラハが知っている。「これから私たちが案内します」そういわれても咲花は彼に連れられ機械に近づいていった。

その後をプラハの嵐はついてきて、歩き出した咲花について行った。

「あのー…」

「何?」

「あのー、私はこれからプラハさんと一緒に、ここでお仕事が」

「ああ、知ってるわ」

「なんとなくそんな気はしましたっ」

プラハの嵐はただその言葉を引き合いに出しただけだ。

そのまま機械の前に案内される。彼が「ほら、こっち」と咲花をおどして行く。咲花が少しだけ戸惑うと、プラハの嵐は今度は早歩きでついていく。

そこには大きな機械に、その前には広々とした大きな部屋が。「ここが私のお客様窓口、ここから出て行くから気をつけてね」

と言われればそのまま、その後ろに咲花を誘導する。

「あーあ、お客さんが入れないよ」

プラハの嵐は咲花を引き剥がすこともせず、その大きな機械を前に止まると、その前の席についた。これまた手慣れた動作。彼女の両手が機械に触れる。

「プラハおじさん、私を案内して」

「はいはい」

咲花が座ると、プラハの嵐はこちら側に来るように促した。咲花はおとなしくその場を後にする。プラハの嵐の機械は、咲花の指示とは違って、小さなものだった。それを少し見やると言い付けた。咲花はその指示に従って歩き始める。

やがてその場所が広々とした部屋──プラハの嵐が、咲花を案内してくれたところだった。

咲花はプラハの嵐に連れられつつ部屋の中を見学する。そこは、その大きな機械と、その前にある大きな椅子。そして目の前には、黒い丸の付いた、プラハの嵐の顔だ。

「お待たせ」

「お、おう…大丈夫だが……」

プラハの嵐は咲花に聞こえないように言った。咲花はプラハの嵐を見上げると、その黒に照らされたプラハの嵐の目を見つめる。

「ありがとう」

「いいえ、こちらこそなんでも」

プラハの嵐は照れながらも、咲花に目で見せてくれる。そう言われた時に、彼女はその黒い丸に気付いた。これは──!

『これは?』

「えっと……」

今のプラハの嵐はプラハの嵐というよりも、咲花を案内するときには黒い丸に変わっている。

『今、何て?』

「だから…え、えっと……」

咲花はプラハの嵐が何を言っているのか、よく分からなかった。

ただ、こんなに黒い丸があると、プラハの嵐が何を言っているのか分からなくなる。

『…えっと…何か、困ったことか?』

「あ、いえ、その……」

咲花はプラハを不安そうに見た。プラハは咲花の言葉に首を振ると、そのまま白い雲の方へ歩いて行ってしまった。

『それじゃあ私はこれで──』

その後ろ姿を見ているうちに、プラハの嵐は消えていき、今は真っ白な雲だけが浮かんでいた。

「……」

咲花は呆然と立ち尽くしていた。一体何が起きているのだろうか。

「どうしたの?」

「あ、いや、何でも……」

咲花は我に返ると、自分の仕事に戻ることにした。しかし、咲花はふと、こう思った。

この機械は何だろう? 咲花は仕事を終えると、いつものように帰宅した。

玄関を開けると、真っ暗な部屋に灯りを点ける。

今日は誰もいない。

咲花は風呂場に直行するとシャワーを浴びた。湯船につかりながら、ぼんやりと今日の出来事を振り返る。

咲花はスマホを取り出すと、動画サイトにアクセスした。

咲花は投稿されたばかりの新着動画を見た。

再生数は1000以下。

咲花のチャンネル登録者数は1万5千人だ。動画は3分弱の短いもので、タイトルは《あなたも出来る、簡単な自己紹介》とある。

そのサムネイルはどこかで見たことがある。

咲花はじっくりと眺めた。

それは自分が作ったものだ。

しかし、中身は全く違う。画面には自分と全く同じ姿の女性が映っている。声もそっくりだ。

服装まで一緒だ。

「あれ、ちょっと待って」

咲花は思わず口に出すと、慌てて浴室から出た。

「何でここに居るの」

彼女は咲花に尋ねる。しかし返事はない。代わりにスマホから女性の声が響く。

「……だってぇ、ここが一番安全だから」

「安全なの?」

「そうよぉ、もう何も心配ないわぁ」

「でも……」

咲花には心当たりがあった。「あなたは誰?」

「私はあなたの味方よぉ」

「どうしてここにいるの?」

「だってぇ、ここは私の家だもの」

「えっ、そうなの?」

「そうよぉ」

「そうなんだ……」

咲花はすっかり納得してしまった。彼女は自分の姿をしているけれど、どうにも胡散臭いと思ったが、そんなことを言って彼女を悲しませたくなかった。そもそも自分はそんなに器用じゃない、彼女は自分に嘘をつけないだろうかと考えた。

それに彼女はとても優しいし、自分を大事にしてくれるような気がしたからだ。

それからというモノ、咲花の仕事は順調だった。

彼女から教えてもらった通りにやると面白いほど稼げるのだ。

その方法は単純明快だった。まず、その日最初に投稿する内容を考える。その次に、そのネタでどんな話をするかを、その日に思いついた事として文章にする。そしてそのあと、動画を撮って編集する。それだけだった。

例えば今日なら、昨晩、家族で夕食を取った時の出来事だ。

その時に食べたのは、野菜を炒めたもので、それが美味しかったと咲花は話した。

しかし、それだけでは味気ないので、彼女はもっと詳しく料理について語った。

それを文字にしてまとめる。最後に、映像も交えて紹介する。その作業をすればする程、動画の再生回数が増えていく。もちろん、ただ紹介しただけで増え続ける訳ではない。しかし、どんなに時間がかかっても、毎日少しずつ増え続けた。

咲花は一心不乱に作業に取り組んだ。

咲花はその動画で生計を立てられるようになった。仕事の依頼が殺到している。しかも咲花が仕事をするのは決まって夜だ。つまり、その時間に多くのユーザーが見てくれる。咲花はそれを理解した上で、動画を投稿した。

「みなさんこんにちは。今夜は、最近話題になっているあの食べ物について解説したいと思います」

画面が切り替わると、そこには咲花が居た。

「まずはこちらの商品です」


「こちらはですね、コンビニのおにぎりなんですけど、具にチーズが入っているんですね」

「それで食べてみると、これがびっくりするほど美味しいんですよ」

「えー、信じられませんよね」

「本当ですよ」

「それじゃあ、試してみましょう」

そう言うと、咲花はラップを外して海苔を巻いたまま食べると、そのままカメラに向かって喋り始めた。

その時の彼女の顔は幸せそうに見える。

咲花はしばらく話すとそのまま食事を続けた。そこで一旦休憩する。その間に視聴者たちはコメント欄に感想を書き込む。●凄い! どうやって作ってるの? ●確かに、めっちゃうまそう。

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