解説文



――この世界には神様がいない。

外宇宙から飛来した脅威シエラによって、神なき世界となったレムリアは、災いで満ちようとしていた。


――シエラに対抗せんとその世界に訪れたカティサとアインは、かつて世界を救う為に戦った勇者の一人に手を貸すが、その努力は身を結ばなかった。


――カティサ達の加護から外れてしまったとある男の魂は、過去に得た知識も力も全てなくした状態で、後の世に送り出されてしまう。


――古の時代の出来事を忘れてしまった彼に出来る事はもうない。レムリアは、シエラの手によって滅びを迎えようとしていた。






01囚人の独白『アシュロン』

 その男の名前はアシュロン。

 彼は知らない。

 自分が転生する前の記憶を持たないのだから。

 彼はかつて、世界の行く末をかけて、強大な敵と戦う人間だった。

 しかし彼は選択を過ち、敗北してしまった。

 それゆえに、この彼に出来る事はもうない。

 囚人の身となった彼を見舞いにきてくれる優しい少女と、触れ合う事もできない。

 この彼はただ無力なまま、不遇な境遇の中で力尽き、何も持たないまま後の世で再び生まれた。


02理想少女の失敗談『リーゼ・フィゼット』

 その少女の名前はリーゼ。

 彼女は、弱い人々を守る騎士だった。

 けれど、強すぎる願いと高すぎる理想が彼女を押しつぶしてしまった。

 ただの人間では、全ての人は守れない。

 犠牲が出る事を許容してしまった彼女の心は折れてしまった。


03迷える森の試練『カルネ・コルレイト』

 カルネは騎士学校に通う、真面目な少女だった。

 しかし、彼女の能力では無事に卒業できるか危うい所だった。

 だから彼女は友人達と協力して試験に望んだ。

 合格の条件は、一人前の騎士となるべく遺跡に挑んで、最奥まで踏破する事。

 苦楽を共にした仲間達と掴み取った結果は輝いていた。

 その煌めきを、彼女は一生忘れないだろう。


04厄災のばけもの『ツヴァン』

 彼の名前はツヴァン。

 辺境の騎士学校の教師だった。

 しかし、彼は知らない。

 遥か昔、アシュロンであるよりも前に、その体に呪いを受けていた事に。

 全てを忘れた彼は答えにたどりつけない。

 彼は、次第にばけものへと変貌していった。


05機会を窺う復讐者『ニオ・シュタイナー』

 カルネの友人の一人であるニオには、復讐したい人間がいた。

 その相手の名前は、自らがいるクラスの担任教師ツヴァン。

 かつて、ニオには慕っていた人間がいた。

 けれど、その人間は不幸にも命を落としてしまう。

 その原因の一端を担ったのがツヴァンだった。

 だからニオは、剣を握りしめて近づいていく。

 しかし彼女は知らなかった、仇敵が人ならざる化け物となっていた事に。

 ニオは返り討ちにあってしまう。


06鬼の血を引く復讐者『ツェルト・ライダー』

 鬼族の地を引いた少年ツェルトは貴族が嫌いだった。

 それは幼いころ、貴族に両親を殺された事が原因だ。

 故に彼は復讐を決意する。

 全ての貴族を皆殺しにする事。

 そのために彼は騎士学校に通い牙を研ぎながらも、道化の仮面をはりつけて、幸福な人間を演じて過ごした。

 いずれ彼は多くの人間をその手にかけるだろう。

 友人であり先輩でもあるカルネや、

 クラスメイトであり仲間でもあるステラ、アリアなども。

 そして、弟子として鍛えていた後輩の少年ヨシュアすらも。


07彷徨える狂剣士『ステラ・ウティレシア』

 貴族の少女ステラには、悩み事を相談する相手がいなかった。

 それは幼い頃から付き合いのあった友人のカルネにすら相談できない事だった。

 それゆえに、貴族に生まれながらも貴族の血を引いていないという事実を不審に思いながら育つことになった。

 そんな彼女を支えていたのがフェイトという少年。

 彼に依存していたステラは、フェイトの意のままに操られながら、彼の意にそぐわない物を排除していく。

 闇と共に生きて、剣を振る毎日をすごしていた。


08迷宮少女は帰れない『少女』

 ある町の中で迷子になっていた少女がいた。

 その少女は、サプライズプレゼントを買う為に、両親に内緒で出かけたのだが、目的地が分からなくなってしまっていた。

 そんな少女をみかねた人物が二人、その場に居合わせていた。

 ステラとツェルトは少女に手を貸し、少女のお買い物を無事に終わらせたのだった。


09祈りの少女と正義の少年『アリア・クーエルエルン』

 心優しい少女アリアは、幼い頃に母親を殺した相手に対して復讐を遂げる事を決めていた。

 しかし、彼女を好いていた人物がその行いを静止する。

 アリアの想い人でもあったその少年クレウスは、正義の名のもとに剣をとった。

 クレウスの理解を得られなかったアリアは、悲しみながらも剣をとったのだが……。

 二人の行いは、偶然その場に現れたツェルトの行動によって、阻まれた。

 結果、アリアとクレウスは相打ちとなってしまった。


 彼女等はこれで良かったのだと眠りにつくのだが、己の意図せぬ行動によって復讐を遂げてしまったツェルトは狼狽した。

 もう後戻りはできない、と彼は呟きその場から立ち去った。


10小さな騎士と復讐鬼『ヨシュア・ウティレシア』

 狂剣士として裏で名をはせているステラの弟のヨシュア。

 彼は姉の行いに薄々気が付いていた。

 その行いを止めなければと考える毎日だが、姉がそうなるまでに問題を放置してしまったという負い目もあったため、行動に出られなかった。

 そうこうしているうちに、姉ステラを狙う鬼がいる事に気がつく。

 間違った行いだと思いつつもヨシュアは剣を手にして、その人物へ立ち向かった。

 たとえそれが自らに剣を教えた師匠ツェルトであろうとも、彼は剣を握る手を緩めたりはしなかった。


11辺境の旅宿『ニオ』

 ばけものと化したツヴァンに返り討ちにされて、記憶をなくしたニオ。

 復讐をはたせなかった彼女は、小さな旅宿で世話になっていた。

 ニオは、彼女を助けた青年ライドと共に旅宿を手伝っていたのだが、犯行現場を通りかかった事がきっかけで記憶がよみがえってしまう。

 復讐者だったニオは、犯行の目撃者であるライドの口を封じる事にした。


12ドッペルゲンガーの悪夢『ニオ・シュタイナー』

 口封じに成功したニオだが、逃亡する彼女を追いかける者がいた。

 それは死んだはずのライドとうり二つの姿をした青年。

 ニオは、間違った行為に手をそめてしまった自分が狂ってしまったのだと解釈した。

 そして、追いつかれたその青年に手によって、命を散らしてしまう。


13遅すぎる後悔『ライド』

 旅宿を営んでいた青年のドッペルゲンガーである彼は、一人の少女を手にかけた。

 それは、この世界に存在するはずのない自分の存在を受け入れてくれた者、本物のライドに恩を感じていたためだった。

 しかし、ドッペルゲンガーは間違えた。

 それは、本物のライドがニオに恋をしていたからだ。

 自分に何があってもニオの事を大切にしてほしいというライドの頼みを果たせなかった。

 ドッペルゲンガーはその事で自分を責め続け……。

 もともとこの世界に存在するはずのなかったその異形は、消滅してしまう。


 14朝未ずの世界『+++』

 世界中で異変が起こり、大勢の人が覚めない眠りについていた。

 彼等は世界崩壊の影響をうけてそうなった。

 もう、目覚めることはないだろう。

 ここから先に待つのは破滅のみ。


 なぜなら、その世界では歴史を動すほどの存在がいなかったから。

 古の女神を復活させる勇者も。

 過去の大罪人を裁く騎士も。

 隠された歴史の真実を紐解く研究者も。

 彼等を導く船頭の少女も。

 まるで存在しなかったのだから。

 

 後は定められたバッドエンドに向かって進むのみ。


 15湖上の決闘者『ステラ・ウティレシア』

 誰も目を覚まさない世界の中で起きていた者達がいた。

 その中の二人、狂剣士ステラと復讐鬼ツェルトは互いの因縁に決着をつけるために、剣をとる。

 透き通るような湖の町、見た目だけは平和な景色の中で。

 なぜなら彼等には、それ以外に目を向けるべき物など存在しなかったからだ。


 16レムリアハザード『+++』

 その湖の町には伝説がある。

 そこは、奇跡を呼ぶ地だと言われていた。

 空から落ちて来た流れ星を、自らの手で摑まえる事ができれば、何でも願いがかなうという。


 どんな不可能な願いでも。

 どんな荒唐無稽な幻想でも。

 たとえその願いを述べた者が、人ならざるばけものであっても。


 かつてばけものが封印されていたその場所で、古の人々は目撃していた。

 町々や村々を破壊してまわった理性なきばけものが、心ある人間へ生まれ変わる様を。


 何から何まで傍観者でしかなかったカルネは、友人達を止めようとかけつけた湖の町で、奇跡を目撃した。


 人ならざる化け物となっしまった狂剣士と復讐鬼が、人間へと戻る様を。


 ステラとツェルトが振り上げた剣は、互いの体を貫くはずだった。

 だが、彼等の間に新たなる化け物が現れてその行為をとどめた。


 結末を彩るのは、人ならざる化け物と化してしまった彼らの、最後の維持と矜持と思いやりの結末。


 彼らは最後の力を振り絞り、

 決着をつける事よりも、

 依存心を満たす事よりも、

 復讐を果たす事よりも、


 滅亡しか残されていない世界の中から一人の友達を救う事を選択した。



 17やがて尽きる星の願い『カティサ』

 いつかどこかの世界で、全ての命を看取った墓守がいた。

 彼女と行動を共にしていた死者、棺の鍵番であるタクトや墓地の管理人であるジオも、もういなかった。

 

 その墓守は、辛くも幸福だった自分の記憶を抱いて、最後の棺へと身を横たる。

 彼女の役目は終わった。

 誰にも彼女の最期を脅かすことはできない。

 

 彼女は新たなる世界の始まりを夢見て、眠りについた。


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レムリア・ハザード 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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