No.49:西山からの情報


「アイツはなんでそんな大事なことを、俺に話さないんだ?」


 学校からの帰宅途中、俺は西山が運転する車の後部座席でひとりムカついていた。

 まあ月島の性格を考えると、わからんでもない。

 俺に迷惑をかけたくないとかなんとか……そんなところだろう。

 

 三宅は俺に、月島に関する事の成り行きを全て話してくれた。

 父親の借金問題。

 最近では自宅まで、取り立てに来ているらしい。

 そしてそれを美濃川のオヤジが問題視して、月島から特待を外そうとしていると。

 

 それにしても……


「あの和菓子屋のバカ娘、ぜってー許さんからな!」


 そもそも月島は、全然関係ないだろ。

 俺は沸騰する脳みそをクールダウンさせるべく、大きく深呼吸を一つ吐いた。


 頭の中を整理する。

 大きく分けて問題は2つ。

 

 1.月島の父親の借金の問題

 2.PTA会長が騒いでいる問題。


 そもそもなんで美濃川のオヤジが、月島の父親の借金問題を知っているんだ?

 なんかいろいろと、きな臭い。

 これはちょっと、調べてみる必要があるな……。


「西山、すまない。ちょっと頼みたいことがある」


「はい、秀一様。なんでしょう」


 俺は車を運転している西山に、依頼事項の詳細を話した。


「いいですねぇ。そういうの久しぶりですよ。腕がなります」


 ちなみに西山は、以前小さな探偵事務所の所長を務めていた。

 とても腕がよかったので宝生グループがヘッドハンティングして、今は俺の運転手兼SPをやってもらっている。

 従って調べ事は、得意中の得意だ。


「時間外手当は、ちゃんと支払うからな」


「それもまた、ありがたいです」


 西山の声が、少しだけ嬉しそうだった。


        ◆◆◆


 数日後。

 自宅の執務室に、俺と西山と吉岡が集合した。

 どうやらさっそく西山が、いろいろな情報を掴んできてくれたらしい。


「これがきちんと役に立ってくれましたよ」


 西山がちょっと自慢げに、黒縁のメガネを掲げる。

 何の違和感もない、普通のメガネに見える。

 しかしそれは高画質カメラと高性能マイクを仕込んだ「スマートグラス」らしい。

 しかも西山のお手製だ。


 探偵事務所にいた頃から、西山はこういったガジェットを手作りしていたらしい。

 先日も3ミリ四方の超小型発振器を作成して、テスト中にカーペットの上に落として探すのが大変だったと言っていた。


 その西山自慢のスマートグラスは、装着すると左目の上部付近が小型モニターになっていて、そこに映る画像が録画される。マイクも指向性が高く、離れたところの会話が拾えるらしい。しかも眼鏡のツルの部分に小さなダイヤルがあり、ズームも可能だということだ。


「数日間ターゲットの自宅を夕方から夜にかけて張り込みました。ターゲットが抱えている問題の金融機関は、オーシャンファイナンスのようです。自宅のポストにも、何度か郵便物が入っていました。」


「オーシャンファイナンス……吉岡、聞いたことあるか?」


「はい、地場の消費者金融会社ですね。以前は太平洋商事という社名だったと思いますが……あまり評判はよくないですね」


「……というと?」


「社長の安田俊平という人物ですが、反社会的勢力との繋がりが噂されています。延滞に対する取り立てにも、問題があるとも」


「なるほど、筋が良さそうなところじゃないな……」


「それで……夜に張り込みをしていたときなんですが、たまたま取り立ての連中が来たんですよ」


 そう言って俺たちの目の前のパソコンで、動画を再生し始めた。

 画像は月島のアパートの1階で、階段部分が映し出されている。

 ただし、音声がしっかり録音されていた。


「じ、自宅には来ないでくれと、言いましたよね?」


「そりゃあ私たちだって、お邪魔したくありませんよ。でも……返済をして頂かないことには、我々も困るんですよ」


「とにかく……こんな大金を一度に返せなんて、そんなの無茶だ。たった数回、返済が遅れただけじゃないか」


「たったの数回でも、延滞は延滞ですよ、月島さん。ローン契約書をお読みになりましたか? 返済遅延は、立派な期限の利益喪失事由になるんです。我々には一括返済を求める権利がありますから」


「と、とにかくなんとかする。自宅には来ないでもらいたい」


「アニキ、早くコイツのムスメに働いてもらいましょうよ。若いから、すぐに稼げますよ」


「な、なにを……娘はまだ高校生だぞ!」


「坂上、めったな事を言うもんじゃない。しかし月島さん、あなたの娘さんは優秀らしいですなぁ。なんでもあの英徳高校の特待生とか」


「ど、どこでそれを」


「特待生だと、授業料は免除されますよね。その分、我々の方に返済をいただけてもいいと思うんですがね。まあたしかに、娘さんに働いてもらうというのも一案ですよ。稼ぎのいいところも、ご紹介できますしね」


「何を……と、とにかく、帰ってくれ。これ以上脅すんだったら、警察を呼ぶぞ」


「はいはい、今日のところは失礼しましょうか。それに我々だって、脅しているわけではないんですよ。ただご返済頂けないかというご相談です。それではまた」


 ドアが締まり、足音が聞こえる。

 音声は、2階の月島の家の前からのようだった。

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