大輪の花
相楽がゆったりとした歩みで近付いてきた。
お満の元へたどり着くと、
「息災か?」
と唐突に尋ねて来た。
きっと相楽も何を言って良いか解らなかったのだろう。
お満はふふっと少し笑ってしまった。
「はい。」
と答えると相楽は安堵したように溜息を着いた。
「満よ。我はもう行くぞ。」
成程気付かなかったがあれから49日が経っていたらしい。
「はい。」
ともう一度呟くと、一度相楽は黙ってから、
「辛くなれば心の中で我を呼べ。いつでも見ている。」
と言ってくれた。
それから相楽はいつものようにお満の頬を優しく撫でると、
「愛しているぞ。満。」
と生前中々言ってくれなかった言葉をくれる。
それでも少しばかり名残惜しく思っていると、相楽は察したのか、
一度お満を抱きしめて、何やらお満の右下を見て嬉しそうに笑った。
「そうかお前も父を送ってくれるのか。」
お満もそちらに目をやると赤い火が幼子の形を成してお満のべべの裾を握っていた。
相楽はそれの頭を優しく撫でている。
あぁ、この子は私たちの。
奇妙な形をしているのに、たまらなく愛おしく思えてお満はその子を抱き上げて頬を摺り寄せた。
相楽は二人の頬をそっと撫でると、
「満よ。我はもう行く。」
と言った。
お満はこくりと頷き、あの時のように、
「愛しています。」
と伝える。
相楽は仮面の奥の目を愛おしそうに細めて、二人から身を離した。
「最期の土産にお主が見たがっていた花火を見せてやろう。空を見よ。」
そう言うと相楽は他の者達と同じように光となり消えて行った。
名残惜しく思っていると、ひゅるひゅると気が抜ける音と、
銃声のような音が響いて、夜空に大輪の花が咲いた。
思ったよりも色があり、お満の想像した真っ赤な火の花とは違った。
一度だけと思っていたが、角度を変え、色を変え、何度も空に上がる。
夢中で空を見つめる内に、いつの間にやら朝になっていたようで、陽の光の眩しさでお満は目を覚ました。
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