横断幕

それでも人と言うものは忘れ行く物らしい。


以前よりも体調も良くなり、食事も苦ではなくなって来た。


それから、以前よりも眠る事の多くなったある日の事だった。


お満はその日夢を見た。


以前相楽が鍛錬に使っていた滝壺に、立派な横断幕がひかれ、

どこかの戦場の陣営のようになっていた。


横断幕には持ち主の物であろう家紋が描かれている。


描かれている花は、どこか火の花に似ている気がする。


辺りは夜のはずなのに色とりどりの提灯が浮かんでいて明るい。




一人の仮面を被った人物が陣営の真ん中に進み出て、ぺこりと頭を下げた。



赤い甲冑に立派な狩衣を着ている。



あの背格好としゃんとした立ち姿はきっと相楽だ。


お満は嬉しくて駆け寄りそうになったが、ふと足を止めた。


今まで気づかなかったが、周りにちらほらと人が集まっていたようで、辺りから歓声が聞こえる。


どこからか雅な調べが響きだし、相楽が刀を抜いて舞を踊り始めた。


松明と提灯に照らされて、刃が赤く光っている。


あの夜に見た舞だ。


あの時も美しかったが、今の方がずっと力強い。



剣先は鋭く優雅に不思議な動きをして、光の残像が花を描いている。




やはりあの赤い花だ。

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