別れる前に
ある日の事だった。
相楽が床に臥し、いつもより酷く苦し気に唸っていた。
相楽の看病にも慣れて、額の汗を拭っていたが、あぁこれが最期なのだとお満は直感で理解した。
神様。
出来るならば苦しまずに逝かせてやって下さいと心の底で願った。
昼頃、一度体調が落ち着いた様子で、手を握ったお満をいつかのようにじっと見ていた。
すると今度はふっと笑って掠れた声で話し出した。
「我はどうにも駄目なようだ。満。落ち着いて聞け。」
お満はぐっと握る手に力を入れて頷いた。
「戦が落ち着いたらで良い。山を婆殿を連れて下れ。地図を頼りに人を訪ねろ。
私の親族の者だ。そして文を地図と共に用意した。それを手渡せ。
お前たちの力となってくれるだろう。」
以前相楽がやろうとしていたことだ。
今は死後の後ろ盾として、お満たちの今後を考えてくれている。
お満は相楽の目に最期まで綺麗に映っていたくて笑顔で頷いた。
泣いてしまいそうで声は出せないが、相楽の手に頬を摺り寄せた。
相楽は愛おしそうに目を細めるとお満の腹を撫でた。
「一目で良い。会いたかった。父を許せ。」
相楽は皮肉気に、それでもどこか吹っ切れたように笑った。
「悲願を達成し、いつ死んでも悔いなどないと思うていたのに。
人とは浅ましいものだ。お前や子を思うと次々と欲が出てくる。」
お満は声こそ上げなかったが今度こそ泣き出してしまった。
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