魘される

その日の夜遅くの事だった。


お満はどうしても今日はこの家に泊まりたいと我儘を言って、

相楽の隣に布団を敷いて寝かせて貰った。


寝入ったはずの相楽から、何やら唸り声が聞こえる。


どうやら魘されているようだった。


お満は揺り起こしてやろうとしたが、急に静かになった相楽を見て、伸ばしかけた手を止めた。


今度は静かに寝言で、

「すまぬ。すまない。」

と聞こえる。


相楽が誰に謝っているかは解らぬが、悪夢を見ているに違いない。


やはり、揺り起こそうかと悩んだが、最後にお満の名を呼んだのに気が付いてはっと息を呑んだ。





相楽は何故お満に謝るのだろうか。


やはりお満との子は嬉しくなかったのだろうか。


お満は不安になりながら。


小さく相楽の名を呼んだ。


「相楽様。」


すると聞こえているのかいないのか、隣で首を動かす音が止んだ。


今日のことは少し厚かましかったかもしれない。


ただ、相楽にお満の本当の気持ちだけ知ってもらいたくて、相楽の耳元に口を寄せる。


「相楽様。満は、満は嬉しゅうございます。」


そっと起こさぬように相楽に囁いた。


自然と涙が頬を伝う。


「私に子を授けてくださり。ありがとうございます。」


少し慇懃無礼が過ぎただろうか。





それでも相楽の呼吸が少し静かになったので、お満は普段自分が婆様にやってもらっているように、

布団の上から相楽の体を優しくポンポンと叩いてやった。

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