第40話 魔法の鞄とリリア5
私とトットとルアンの女子3人で衣類雑貨店に向かって歩いていた。
歩いている時に胸に少し違和感を覚えたので私はトットとルアンに聞いて見た。
「ねぇ、歩くと胸が揺れて邪魔なんだけどこれをどうにかする下着はあるの?」
私が言葉を発するとトットとルアンは直ぐに自分達の胸を見た後に私に鋭い視線を浴びせた。
「ちょっとリリア。私達より胸があるからって自慢してるんじゃないでしょうね」
ルアンのちょっと厳しめな言葉が帰って来た。
私はその時に初めて”女”と言う生物について悟った。
これはマズイ。女と言う生物は見た目とかに固執するのか。私は今まで外見とかそうゆう事に無頓着で来たから女の心がわからなかった。ここは挽回しないと。
「ちっ違う。まだこの新しい体に慣れていなくて、それに肌着しか着ていないから気になって…」
私が考えれるだけの言い訳をなんとか絞り出した。
ルアンはまだ何か言いたそうだったが目じりを下げた。
「まあ、私も変身後には違和感があったからしょうがないか」
私はルアンの言葉を受けて助かったと思った。
とりあえず今日の所は言葉には注意しようと心に誓った。
それから私達は衣類雑貨店にて私の下着や冒険者の服と靴を新調した。かなりの出費だったけど、裸で狩りに行く訳にはいかないのでそこは割り切った。
そして私が特にこだわったのは胸の下着だ。締め付けは少しきついが動いてもあまり胸が邪魔にならないような下着をあえて選択した。だって走る度に胸が邪魔じゃ狩りにもならいから。これはトットとルアンにはあまり関係ないかもと心の中で呟いた。
そしてある程度私の買い物に区切りがついた所でトットが声を掛けて来た。
「そう言えば前リリアは1年後にタツヤさんだっけ?その人の試験を受けるんだよね」
「うん、そうだよ」
私はトットが何故いきなりこんな話をして来たか分からなかったが返事をした。
「じゃあさ、もし落ちそうになったらリリアのその豊満な体で合格をねだったらどう?」
私はトットの言葉で顔全体が赤くなり言い返そうとした瞬間に隣からルアンが割り込んできた。
「あっそれいい案じゃない?泣き落としより体で迫るのはいいわね。それじゃぁさっそく下着からさがそう」
「大人の下着ならあっちにあったよ」
「どこどこ?」
ルアンとトットが私の返事を聞かずに勝手に盛り上がって店内の奥へと消えて行った。
私は”どうしてこうなったの?”と心の中で呟いていると店の奥からトットの呼ぶ声が聞こえたので仕方なく足を向けた。
「無理!こんな恥ずかしい下着無理だよ!」
私はトットが私の目の前に両手で
全体的にスケスケでレースで編んであるよな桃色の下着だ。
「リリア大人ならこれくらいの下着を履かないと男は喜ばないよって事で下着はこれに決定ね」
「ちょっと!」
トットの強引な言葉で私は反論したが無視され次の獲物へと歩いて行く。
「胸充てはこれかな」
トットが見せて来たのは、
「なっ何これ?どうやってつけるのよ」
私は買う気はないが興味本位でトットに聞いた。
「ハート型の所が胸のトップに来るからこんな感じかな」
トットが言いながら私の服の上から当てて来た。
それは乳頭の上にハートの生地で隠してあるだけで、あとはそれを紐で繋いでいるだけだった。
「無理!これだけは無理!」
私はこれだけは拒絶した。
「え~可愛いのに~」
トットはとても不服そうに物を棚に戻していた。
それからあーでもない、こーでもないと店の大人商品が置いてある場所をグルグルと歩きまわされ、最終的にトットとルアンの押しにより我慢できる範囲の大人商品を私は購入したのだった。
『こんなのタツヤに見せれないよぉ』と嘆きながら。
私達が買い物からギルドに戻るとシンとアックが待っていてくれた。
「おう、お帰り。服は買えたみたいだな」
シンが優しい笑みを浮かべながら声を掛けて来る。
「ええ、トットとルアンのおかげでね」
私はトットとルアンの方を少し睨むように見て答えた。
「それでだリリア。変身後には体に変化が生じると共に魔法適正が変わる事がある。だからギルドで適正検査を再度おこなってくれ。それと体が大きくなった事で力が付くが今までと違い小回りが利かなくなる。それを訓練場で慣らしてから狩りに行こうと思うので、今日明日はそのつもりでいてくれ」
私はシンの説明をしっかり受けて最初に自分の部屋へと戻った。
購入した衣服等を部屋に置き道具以外の装備を身に着ける。
そして1階の受付のカウンターへ行き魔力測定を依頼した。
リンカさんの前にはたくさんの冒険者が居た為、私は他の受付にて測定を行った。
測定方法は前と同じで、赤色、水色、緑色、茶色、黒色、白色、無色のガラスの棒に手を振れるだけだ。
以前は茶色、黒色、無色の3つが反応したが今回はどれが反応するか私自信も楽しみだった。
そして順番にガラス棒に触れて行った。
結果は緑色、茶色、黒色、無色の4色に増えていた。
私は結果を冒険者ギルドの休憩スペースにいるシン達に伝えた。
「3色でも凄いと思っていたのに4色に増えたのか」
シンは驚きを隠せないでいた。
魔法の適正の話は以前タツヤから聞いた事があった。
通常の人は無色を加えた2色が普通で、少数に3色、さらに少数が4色だと教わった。まあ、私の主人のタツヤ様は全色の7色なんだけど…。
でもこれでタツヤの冒険について行く口実の一つは出来た。試験に受かればだけど…。
「よし、それじゃあ今から全員でギルドの訓練場でリリアの特訓を行う」
「おー」
アック、トット、ルアンは拳を振り上げて軽く叫ぶが私は目を丸くしただけだった。
えっ!?特訓って…私が考えるより先にシンとアックに両腕を掴まれて、私はギルドの訓練場に連れていかれた。
ギルドの訓練場と言うのは名ばかりでただの広場だ。ただ、周りを石壁で多少囲ってある程度の簡易的な物だ。この訓練場には木で出来た模擬武器が多数あるため、より実践に近い形で訓練が出来る。
その日、私はシン、アック、トット、ルアンに慣れない体を酷使して地獄の様な特訓を受けたのだった。
次の日は魔法についての訓練で今までの茶色(土魔法)、黒色(闇魔法)、無色(無属性魔法)に加えて、新しい緑色(木魔法)の訓練を行った。
今までの茶、黒、無の3色は以前と変わりなく使える事が分かったが、緑色の木魔法については適正のみで使えるレベルではない事がわかった。
「まあ、冒険をしながら訓練をしていけばいいんじゃないかな」
シンが訓練終了後にそんな言葉を掛けてくれた。
この日は明日からの冒険に備えて早めに訓練を終了して各自準備する事になった。
私は訓練場から一人で冒険者ギルド『ライド・ドール』に入った時にリンカさんより声を掛けられた。
「リリアちゃん帰って来たのね」
リンカさんはいつも通りに声を掛けて来た。
リンカさんも私が変身した直後には物凄く驚いていたけど、流石受付嬢なのかそんな冒険者はたくさん見て来たらしく直ぐに平常に戻った。
「何か用ですか?」
「ジャーン!タツヤさんからリリアちゃんに荷物が届いているわよ」
リリカさんが机の下から両手で持てるほどの箱を出してきた。
私はその箱を少し震える手で受け取った。
でも私は少し冷静になり一人で中を確認するよりも、リンカさんと確認した方がいいと感じお願いをしてみた。
「あのリンカさん。私と一緒に中を確認してもらえませんか?」
リンカさんは私の問いに周りの冒険者の数を確認してから、隣の受付嬢に聞いてくれた。
「少しの間ならいいわよ。奥の机で確認しましょう」
リンカさんは自分の受付のカウンターに『×』の付いた立て札を置いて、私を裏の小部屋に案内してくれた。
小部屋は机と椅子が4つあるだけの小さな部屋で、冒険者の相談を受け付ける部屋だと教えて貰った。
私は受け取った箱をの蓋をそっと開けた。
箱の中の一番上には手紙らしき紙とその下には赤い鞄が入っていた。
私は最初に手紙を開いたが残念ながらまだ私には字が読めないのでリンカさんにお願いした。
「リンカさん読んでもらえますか?」
「ええ、いいわよ」
リンカさんは手紙を広げると声に出して読んでくれた。
『リリアへ
冒険者頑張っていますか?もしかしたら辞めちゃっていますか?俺としてはリリアが判断したならどちらでもいいです。危険が伴うので命だけは大事にしてください。それと俺が初めて作った魔道具、魔法の鞄を送ります。いろんな物がたくさん入るので大事に使ってもらえると嬉しいです。後1年もないけど会えるのを楽しみにしています タツヤ』
私は箱の中らからそっと鞄を取り出し、そのままギュッと胸に鞄を抱いた。
どうしてこうゆう行動に出たのか私自身もわからないが、なんとなくタツヤが作った物を抱きしめたかった。
もしかしたら寂しかったのかもしれない。
そして私は抱きしめていた鞄をよく確認した。
鞄の大きさは縦横共に両掌を広げた位で、肩から掛けるヒモと鞄からヒモが2本出ていた。私はこうゆう鞄を持っている人を多数見た事があったので直ぐに付け方はわかった。
鞄のヒモを体に斜め掛けして鞄から出ている2本のヒモを腰に巻きつけて固定するのだ。
試しに付けて見るととても可愛い鞄だった。
「あら、リリアちゃん似合うじゃない。うらやましい」
リンカさんが私の鞄を見ながらうっとりとしていて、リンカさんが箱の下にまだ紙が一枚入っているのを見つけた。
「あれ、まだ紙が入ってる」
リンカさんが箱の中から1枚の紙を取り出し目を通した瞬間に顔が固まった。
私はその光景を見ていて何か変な事が書いてあるのかと不安になり声を掛けた。
「あのリンカさん、なんて書いてあるの?変な事が書いてあるの?」
私の不安がリンカさんに伝わったのかリンカさんは首を振った後深呼吸して話し出した。
「いいリリアちゃんよく聞いてね。この魔法の鞄にどれだけの物が入るかおおよその事が書いてあったの」
私はそんな程度で何故と思いながら続きを待つ。
「この魔法の鞄にはギッギルドの1階に置いてある大樽が、にっにじゅっこ程入るって書いてあったの」
「あっあの、それは凄いのですか?」
私は魔法の鞄なんて知らないからその凄さがわからずにリンカさんに問う。
「すっ凄いってもんじゃないわよ!」
私はリンカさんの迫力に負けて少し引き気味になった。
「いいよく聞いて!普通の魔法の鞄と言うのはギルドに置いてある大樽1つでも入れば、かなりいい物となっているのよ。それが20個って言えば大体想像つく?」
「はぁ?」
私の理解していないと言う言葉にさらにリンカさんが声を上げる。
「それじゃあ分かりやすくお金で教えてあげる。大樽1つ入る魔法の鞄は外側の装飾にもよるけど大体白金貨100枚よ(1千万ジール)」
「うわっ高いですね。それじゃタツヤ様がくれた鞄はいくらするんですか?」
私は平然とリンカさんに聞く。
「国宝級よ。白金貨10000枚(10憶ジール)は行くわね最低でも」
私はリンカさんの言葉を聞き固まった。そして肩から掛けてある鞄にゆっくりと視線を移していき心の中で呟いた。
『タツヤ様とても、とても嬉しいのですが、国宝級の物を普通に送らないでください』と。
リンカさんと鞄についていろいろやりとりはあったが、私はこの鞄を冒険に有効に使う事にした。
タツヤも部屋にしまって置くより使った方が喜ぶと思ったからだ。
冒険者仲間からは”可愛い鞄”と評判が良かった。当然どれだけ入るかは秘密にした。
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