第39話 魔法の鞄とリリア4

 クラウドハンターを討伐した翌日から私達5人での本格的な狩りが始まった。

 冒険者ギルド『ライド・ドール』での正式な討伐依頼を受けての狩りだ。


 最初の討伐依頼は『ハンティングベア』ギルド推奨ランクは6だ。

 この狩りで私の実質的な採用試験が行われた。

 

 ハンティングベアは体が3メートル近くになる大きなクマの魔物だ。特徴は手が長い事と爪が鋭い事だ。

 私は猫耳冒険者チームのシアトルオレイユと連携して狩りに挑む。


 シンとアックの男性冒険者が前衛でクマの注意を引く。

 ハンティングベアはギルド推奨ランクが6と以前戦ったクラウドハンターの推奨ランク3と比べると明らかに弱いが、ランクが低いのは危険度だけであって死ぬ確率はそれ程はかわらない。

 ハンティングベアの鋭い爪の一撃を食らえばだいたいの冒険者は死ぬからだ。


 私の今回の役目は前衛に出てハンティングベアの注意を私に向かせるのが仕事だ。

 今も私の目の前ではシンとアックがクマとの攻防を行っている。

 その間に入って行かなくてはならない。以前のようにナイフを投げて注意を引くと言う方法もあるが、それはあくまでも一瞬の為効果が薄い。ならば命を懸けるしかないと気合を入れる。


 私はナイフを抜き放ち魔力を込める。私の今攻撃に込めれる魔力は土と闇。両方共にとても相性が悪いがそんな事を言っている場合ではない。私は土の魔力でナイフの周りに砂を振動させるように纏わせる。


 そしてシンとアックの間を縫ってハンティングベアの前に踊り出て、目の前で跳躍しハンティングベアの鼻先をナイフで切り裂く。


 「ウギャァー!」


 ハンティングベアはナイフでほんの少し傷が入ったのか叫びながら私を睨む。

 そして大きな長い右腕を空中に振り上げ私に振り下ろしてくる。

 私はハンティングベアの腕と体の間に割り込みその攻撃を避ける。

 ハンティングベアは今度は左腕をこまめに内側へ切り込んで来る。

 私は後ろに後退してその攻撃を避ける。

 

 私はハンティングベアのたった2回の攻撃を回避しただけで、全身から汗が流れて足に震えが来ていた。

 ハァハァ息も少し荒いがまだやれる。

 その時にシンから声が掛かる。


 「上出来だリリア!」

 私がシンの方をチラリと見た時にアックの姿は見えなかったが、次の瞬間にハンティングベアの首から大量の血が噴き出した。


 アックがハンティングベアの首を後ろから切り裂いたのだ。


 「ウゴォゴォゴォ」


 ハンティングベアが呼吸が出来ないのか首から血を流しながら、私がいる前方に倒れ込んできた。

 私は危ないと思い思いっきり後方にジャンプしてクマから遠ざかった。


 『ドスン』


 大地を揺らすような音と共にハンティングベアの巨体が地面へと転がった。

 私はそれでも荒い息のままナイフを構えていた。

 そして唐突に肩に手を置かれて声を掛けられた。


 「お疲れ様リリア。よくやったわ」

 声を掛けて来たのは後衛のトットだった。


 「なかなかいいセンスしてるんじゃない」

 次に声を掛けて来たのは後衛のルアンだ。


 私は言葉を受けて構えを解いてナイフを鞘にしまった。


 「ありがとう」

 私は素直に彼女達の称賛を受け取った。


 「リリア合格だ。その動きなら俺らのパーティーに問題ない」

 シンがハンティングベアから歩いて来て声をくれた。


 「まあまあだ」

 アックも又同様に声を掛けてくれた。


 そしてやっと私はこのパーティーの助っ人として合格したのだった。

 それから3週間私達5人は毎日のように狩りに行き冒険者としての仕事をした。

 当然だが、10日に一度の商業ギルドの講習だけは時間をいてもらって参加をさせてもらった。

 この頃になると私は自分の身の上話を彼らにしていた。

 当然彼らも私を信用して自分達の話もしてくれた。


 猫耳冒険者チームのシアトルオレイユは、名前は皆の頭の名前を取って付けたと教えて貰った。そして彼らはこのグラン大陸の東の方に位置する小さな村の出身らしい。最初は5人いたらしいが彼らの話ぶりからすると一人は冒険中に死亡したとのニュアンスが伝わって来た。

 彼らは残った4人で活動していたがやはり前衛と後衛の間に一人欲しいと言う事で私に声を掛けて来たのが本音だった。

 どうして私かと言う問いには他のパーティーメンバーは死亡したり怪我で引退したのに対して、私だけが無傷で生き残っているのが理由だった。

 私は運がいいだけと思ったがあえて口には出さなかったと同時に、ガルとジルが冒険者を引退した事を子の時に初めて聞かされた。私は話を聞いた時にとてもショックだったが彼らとは冒険には行けないが会う事は出来ると気持ちを切り替えた。


 「リリアはそうすると1年後も無いけどタツヤって人の試験を受けるんだね」

 シンの問いに私は頷く。

 シンは何かを言い出そうとしていたがあえて口には出さないような素振りだ。


 「でもでも、もし試験に落ちたら私達とこのまま冒険しようよ」

 そんな言葉を掛けて来たのはトットだった。

 後衛のトットとルアンはとても穏やかな性格をしていて、リリアにとってもとてもいごごちがいい相手だ。

 ただ、これほどまで良くしてもらっても私の中ではタツヤが一番だ。

 タツヤがあの檻の中から救ってくれなければ今の私がないからだ。


 「そうだね、そん時はお願いしようかな」

 私は心にもないような言葉で返事を返す。ここで正直に言う必要などないからだ。それにまだタツヤに会うまではかなりの時間がある。今このパーティー内で険悪な雰囲気にする必要がないから。


 「それより、リリアの身長伸びたよね」

 ルアンが唐突に話題を変えて来た。


 「そう?」

 「うん、伸びたよ。そろそろ大人になりそう」

 私は大人と言う言葉の意味がイマイチわからないが、前にも聞いたがはぐらかされたのでここでもあえて口には出さない。


 それからすぐに私に変化がおと連れた。朝からとてもお腹がすくのだ。いつもの倍のご飯を食べても足りないくらいに。

 この日も冒険があるので私はいつもの3倍もの昼飯を買い込んで冒険へと出た。

 

 「おいリリア昼からそれだけ食べるのかよ」

 アックが私の昼飯を見て声を掛けて来た。


 「うん、これでも少し少ないかな」

 私が答えるとアックそれに他の3人も顔を合わせて頷いていた。

 そしてシンが声を掛けて来た。


 「リリア明後日からお前少しの間冒険休み取れ」

 それは唐突な言葉だった。


 「どうして?」

 「大人になる準備が整ったからだ」

 私はシンのこの言葉と以前話した”変身”の言葉でなんとなく意味を察した。そして私は確信に変わり返事をした。


 「それじゃあ休み貰うね」


 その日から私の食欲はさらに倍増した。私は明日から冒険が休みとなる前日になんとなくだが大量の食糧を購入して部屋へと帰った。理由は部屋からあまり出られないような気がしたからだ。


 そして翌日のお昼に体に変化がおと連れた。

 お腹が急に痛くなりトイレに駆け込むが何も出ない為部屋でうづくまっていると、又の間から血が出ているのがわかった。私は傷もないしおかしいと思ったがとりあえず布を又の間に挟んで腹痛に耐えた。

 腹痛が収まると直ぐにお腹が減る。そして食べるを繰り返す。

 次の日にさらなる変化がおと連れた。

 体の関節そして胸が痛い。

 熱もないし変な食べ物も食べていないのに痛い。

 傷の痛みではなく体の中から何か出てくるような変な感覚だ。

 痛みは連続ではなく間隔を置いてやってくるので、痛みのない時は空腹のお腹にひたすら食べ物を詰めていく事に集中した。そんな事を繰り返していると3日目には又の間からの出血が止まり腹痛は収まった。

 次にやってきたのはもの凄い眠気だった。

 私はその日から二日間死んだように眠るのであった。


 耳に入る鳥の鳴き声で私は目覚めた。

 なんだか凄く深い眠りをしたような気がする。正確な時間はわからないがたぶん朝のような気がした。

 体からは痛みもなくなっていて空腹もいつも通りの普通な感じがした。部屋の中を見ると血だらけになった布や食べ散らかした食べ物の残骸が転がっていて、目を覆いたくなる状況だったが体が元気なら外に出てみようと思った。


 私は寝床から起き上がって冒険者の服を着ようとしたが…入らない。

 冒険者の服は小さく着れない事はないが上着は胸が苦しくて入らないし、下は尻がつっかえて入らない。

 私は一度下着を全部脱いで自分の体を確認した。

 そして目が飛び出るほど驚いた。


 上から胸を見るとそこには見事な膨らんだ二つの胸があり、腰はくびれ尻が前よりでかくなっていた。そして細く小さかった尾尻が太く黒色の尾尻へと変化していた。

 私はこれが変身かと思った。

 

 とりあえず外に出るには服は着れないので下着だけを付けて、その上にマントを羽織って出る事にした。

 マントも前はひざ程度まではあったが今は太股だ。

 少し恥ずかしいがしょうがない服を買うまでは我慢しようと部屋の扉を開けた。靴もブーツが入らないので部屋用のサンダルを履いて冒険者ギルドの2階より階段を降りて行く。

 その瞬間に冒険者ギルドの1階部分よりドヨメキが起こった。


 それは何かに怯えるとかそうゆう物ではなく、驚くと言う表現のドヨメキだ。

 そして誰かが口ずさんだ。

 

 「おい、2階から凄い美人が降りて来るぞ」


 その言葉と共に1階に居る冒険者の特に男達が一斉に私の方を向いた。

 私は冒険者達の目線が私の方を向いている事に気づいて、今までこんなに注目をされた事がないので少し恥ずかしい気持ちになったが、美人とは誰の事か意味が分からないのでそのまま足を進める。


 そして私が1階に降りたち冒険者の目線があるものの私は早くこの場所を去りたいと思い、扉付近に近づいた時に誰かが冒険者ギルドの扉を開けた。

 その時にふわりとした風が中に吹き込む。

 その瞬間にマントの内側に入れてあったリリアの髪の毛が風になびいて宙を舞う。

 

 それは髪色全てが輝くばかりの銀髪で、マントがふわりと持ち上がりすらりとした生足を皆に披露する事になった。

 

 私は羞恥心から隠すより早くこの場を脱出した方がいいと足を進めたが、冒険者ギルド内からは歓声が上がった。

 私は歓声を背に受けながら冒険者ギルドからの脱出に成功したのだった。


 冒険者ギルドの外に出るとそこには私の仲間と言える顔が4人そろっていた。

 私は直ぐに声を掛けようとしたが逆にアックに声を掛けられた。


 「お前はリリアなのか?あのちび助の…」

 私はアックが何を言っているのか理解に苦しんだが答えた。


 「アックあんたの目はどうかしたのか?見ればわかるだろリリアだよ」


 でも、言葉を発した自分が逆に驚いた。

 あれ?声が違う。前の幼い声でなくとても澄んだ綺麗な声だと。

 私は自分が驚いているとアックが変な行動に出た。

 私の前に片膝を着いて叫んだのだ。


 「リリア、俺と結婚しよう」

 私が驚いて声を上げる前にシンがアックの後頭部を平手打ちした。


 「アック、バカな事言ってるんじゃねぇ。リリアが困る事はやめろ」

 アックはシンの言葉を受け渋々立ち上がった。


 「リリア変身おめでとう。綺麗になったな」

 シンがアックから目線を外して声を掛けて来た。

 私は綺麗と言われたが自分の顔を見ていたにのでなんとも言えない表情をしていると、シンが腰から剣を鞘ごと外して渡してくれた。


 街中で剣を全部抜く事は犯罪になるが、剣を鞘から半分までは抜いていい事になっている。

 それは鏡と言う物がほぼ街中にはないからだ。だから特に女性は剣を鏡替わりに使うのが常識となっている。


 私はシンから剣を受け取るとそっと剣を鞘から引き抜いて自分の顔を剣に移す。


 「え~誰?これ私!?」


 私は街中にも関わらず叫んでしまった。

 その瞬間に仲間達から笑いが起きた。

 私が混乱する中トットが声を掛けて来た。


 「そうだよリリアだよ。それよりリリア服買いに行こう」

 トットが声を掛けると同時にウインクをしてきたので、察した私は剣をシンに返して買い物に行く事にした。

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