第38話 魔法の鞄とリリア3

 冒険者ギルド『ライド・ドール』の2階の狭い部屋の中で私は新しい朝を迎えていた。

 

 「又、一人になっちゃった」


 誰も居ない部屋で独り言を呟く。

 髭面の人間族のガルとジルの兄弟と2か月に渡り冒険をしてきたが、魔物との闘いの末負傷により二人は治療に専念する為にパーティーは一時解散となった。

 それでも彼らとの2か月間はリリアをもう一段階上へと成長させた。

 ガルとジルが傷の治療を終えて戻って来るまでにもっと強くならなければとリリアは心に誓うのだった。

 

 私は以前同様に冒険者ギルドの受付のリンカさんへと顔を出した。


 「おはようございます」

 私は元気よくリンカさんに挨拶をする。


 「あら、リリアちゃんおはよう。今日はどんな御用かしら?」

 私はリンカさんの言葉に何か違和感を覚えたが、ガルとジルの治療が完治するまでに他のパーティーを紹介して欲しいとたのんだ。


 リリアは知らなかったがある噂がこの冒険者ギルドに密やかに広がっていた。

 それはリリアと組んだ冒険者は必ず不幸がおと連れるとの嫌な噂だ。

 それはガルとジルが引退した事がきっかけで、リリアの前のパーティーがどうなったかの過去がほじくり返され噂となった。当然だがその噂はリリアの耳には入らない。噂は人間の冒険者の間だけで密やかにされていたからだ。

 その噂は受付であるリンカの元には直ぐに入る。

 それがリリアがリンカに抱いた違和感と言う事は知る事はない。

 

 「ごめんね。今パーティーを募集している所はないのよ。又、時間が経ってから来てもらえるかな」

 「わかりました」


 私は素直にリンカさんの言葉を受けて退散した。

 何かを隠しているような雰囲気だったが私はその事を探る事はない。それはリンカさんを信用しているからだ。

 だから、私は少し経てばパーティーが見つかるだろうと楽観視していた。

 しかし10日程経ってもパーティーが見つからなかった。

 お金には多少余裕があるがこのままでは良くないと思い、リンカさん頼みではなく自分で探す事にした。


 私は手当たり次第に冒険者に声を掛けた『私と一緒に冒険に行きませんかと』。

 しかし特に人間の冒険者は私を見ると近寄らない方がいいと思わんばかりに避けられた。

 私が獣人だからこんな扱いを受けるのだろうと思いながら探し続けたが結果は散々だった。

 そしてさらに5日が経った時に冒険者ギルド内で声を掛けられた。


 「お前が噂のリリアか?」

 声を掛けて来たのは猫耳獣人の男の冒険者だった。猫耳獣人と言っても人間と大差はない。ただ、全体的に獣人特有の個体的特徴が出ているだけだ。男の急所をプレートで包み腰に剣を刺していた。


 「噂って何?」

 私は警戒心をむき出しに答える。


 「なんだ知らないのか」

 男は不敵に笑いながら話しを続ける。


 「お前と組んだ冒険者は皆、不幸になると言う噂だよ」

 私はその言葉を聞いた瞬間に言葉を失った。そして過去に組んだ冒険者の末路について思い出す。


 「なんだ心当たりがあるって事はやっぱり本当だったんだ」

 男は私の態度からそんな言葉を掛けて来た。

 私は過去を思い出し反撃する。


 「不幸?そんなの自業自得なんじゃないの?自分の力量も判断せずに飛び込むからよ!」

 ガルとジルには申し訳ないが男には自分の正当性を言い放つ。


 「おう強気だね。でも嫌いじゃないな」

 男が笑みを浮かべながら私を上から下へと目線を動かす。私は少し嫌な気分になったその時にさらに声が掛かる。


 「シンお前本気でコイツを誘うのかよ」

 後ろから声を掛けて来たのは前の男と同様に猫耳獣人の男の冒険者だった。

 シンと呼ばれた男は横に来た男を見ながら口を開く。


 「アックか。今その判断をしていた所さ」

 「お前俺達の合意もなしに勝手な事をするなよ」

 アックと呼ばれた男がシンに食い掛る。


 「俺がリーダーだ。俺が決める事に口を出すな」

 シンの強い口調によりアックが黙り込む。するとさらに後ろから声が掛かる。


 「ちょっとあんた達、そんな所で騒いだら他の冒険者の迷惑になるでしょ」

 後ろから現れたのは又もや猫耳獣人の女の二人の冒険者だった。

 シンとアックの男二人の冒険者は後ろから声を掛けて来た女の冒険者を見て苦笑いをしていた。

 そしてシンと呼ばれた最初に声を掛けて来た男が私に声を掛けた。


 「ちょっと外で話さないか?損な話じゃないと思うけど」

 私は違和感を持ったがどうせ暇なので頷いて彼らの後を追って冒険者ギルドの外へ出た。


 「リリアだったか?」

 私は再度聞かれたので頷く。


 「俺達と冒険に出ないか?」

 私の頭の中は少しだけ硬直した。どうしたら今の会話でこのような展開になるのだと。だが、私が考えている最中にアックと呼ばれていた男が声を上げる。


 「シンちょっと待てよ。こいつは猫耳じゃねぇーぞ。俺達は猫耳冒険者チームのシアトルオレイユだぞ」

 「落ち着けよアック。あくまでも助っ人として入れるんだ。話合った結果4人じゃきついのはお前が分かっているだろ?」

 シンはアックをなだめるような口ぶりだ。

 アックは納得出来ないのかシンをにらんだ後に「チッ」と小さな舌打ちをした。


 猫耳獣人と私のクロヒョウ族ではあきらかに違いがある。

 猫耳獣人の耳は可愛く小さい上に頭髪の色が茶色なら茶色の耳をしているが、クロヒョウ族の私は頭髪の色が銀色と黒色のまだらになっていて耳は尖っていて黒色だ。


 「すまない、こちらの不手際だ。それでどうかな?」

 シンは私に再度問うてくる。

 私は考える。現状断るのはとても簡単だけど、今のままだと冒険には出られない。ここは気が進まないが一度だけでも同行してダメなら抜けようと思った。


 「お試しで一回だけ冒険に同行してもいい?」

 「いいよ。話は決まった」

 シンは私が答えると笑顔で答え仲間を紹介してきた。

 猫耳冒険者チームのシアトルオレイユのリーダーがシン(男)、口を挟んで来るアック(男)、そして女性冒険者のトットとルアンだ。全員が猫耳獣人だ。そして全員が大人の獣人である。

 装備はと言うと全員が皮のような動きやすい軽装の鎧を4人共に纏っている。

 リリアとは身長も違えば体格もすべてが違う。


 「まだ子供の獣人なのに大丈夫なの?」

 トットと名乗った女がシンに問いかける。


 「ああ、大丈夫だ。俺の目には狂いはない。恐らくだが1か月以内にリリアは変身を遂げると思う」

 「ふーんならいいや」

 私は彼らの話を聞いて変な言葉を聞いたので質問をした。


 「ねぇ、変身って何?」

 私の言葉で4人全員が私の顔を見た。


 「お前それ本気で言っているのか?」

 アックと名乗った男が問いかけて来る。


 「知らないから聞いているんだけど」

 「お前変身はなぁ…」

 アックが言いかけた所でシンが静止させた。


 「時期が来ればわかる事だ。今は最初の冒険に集中してもらう」

 シンの言葉で話は中断させられ、私達5人は最初の冒険へと行く事になった。

 依頼は前にガルとジルが受けていたのと同様の生態調査だ。

 私達は森を前にしてシンが私達に語り掛けた。


 「俺とアックが剣にて前衛をこなす。トットとルアンの女子達は後ろから魔法にて援護。リリアは臨機応変に立ち回れ」

 シンの言葉にアック、トット、ルアンは了承の返事をするが、私は臨機応変と言われてはいそうですかと返事が出来ない。何をしたらいいかわからないからだ。

 私が反論をしようとするとシンから再度言葉が掛かる。


 「採用試験だ。言い訳はいらん全力でやれ」

 私はシンの言葉を頷くしかなかった。


 そして私達は森へ前進すると又しても私が見た事ない魔物が目の前に現れた。

 それは、全身が赤黒い蜘蛛くもの魔物だ。

 体の大きさは2メートル程で左右から4本ぐらいだろうか2メートル程の脚が生えている。


 「ちっ!クラウドハンターだ!クラウドハンターから吐き出される液体には触れるな!死ぬことになるぞ!後衛は直ぐに防御幕を展開しろ!」

 前衛のシンが叫ぶ。


 シンの言葉に応じて後衛のトットとルアン女子二人が魔法を展開する。


 「ウインドシールド!」

 トットから力強い言葉が叫ばれ風の大きな盾が私達と魔物の間に見現けんげんする。


 「ウォーターシールド」

 ルアンから言葉が叫ばれ無数の水玉が前衛のシンとアックに纏わりつく。


 「アック行くぞ!」

 「オウ!」

 シンの強い言葉を受けてアックも叫び二人が腰の剣を抜き放ちクラウドハンターに両サイドから襲い掛かる。


 蜘蛛くもの魔物のクラウドハンターは両サイドから剣で切りつけられる攻撃を両サイドにある硬い爪の脚で難なく受け止める。

 二人と1匹の魔物の攻防は激しい。


 クラウドハンターは防御だけではなく、体制を入れ替えつつ脚の爪での攻撃に加えて、口から紫色の液体を吐き出して攻撃をする。

 シンは紫色の液体をギリギリで交わす。

 飛び散った紫色の液体は近くに咲いていた花に掛かると、その花が瞬間に枯れて行くのが目で見て分かった。

 かなりの猛毒だと。


 「やばいぞ!押されている、アック何とかしろ!」

 シンからアックへ激が飛ぶ。


 「ふざけんな!やってるぞっ俺が時間を稼ぐからシンあれをやれ!」

 アックが逆に叫ぶ。


 「わかった!アック頼む」

 シンの言葉を受けアックが手数を倍にしてクラウドハンターの注意を引く。

 当然ながらアックに対してもクラウドハンターは紫色の毒液を吐きかける。

 アックは少し反応が送れたのか毒液の一部が体に触れようとした瞬間に、周りの浮遊していた水玉が毒液を吸い込み地面へ落下する。


 「やば!死ぬ所だった!」

 アックが叫びながらも剣を振る。


 「アック!もう1回魔法を掛けるから頑張って!」

 ルアンが叫び魔法を行使しようと両手を前に出して態勢に入る。


 そしてルアンがアックに対して水の防御魔法を発動する前にシンが叫ぶ。


 「死にやがれ!ファイヤーソード!」

 シンが持っている剣に青白い炎が纏わりついてシンが身体強化を使用して地面を蹴る。

 シンは空中に飛び出した力を利用して、剣をクラウドハンターの目と目の間の魔石付近へと突き立てる。


 「ぎゅぁーー!」

 クラウドハンターからおぞましい叫び声が森に響く。

 そしてクラウドハンターの体の隙間?や関節の間から青白い炎が吹きあがる。

 シンはクラウドハンターに剣を刺したままクラウドハンターから体を離して飛び去る。


 私達の目の前では全身を青白い炎に焼かれながら沈黙するクラウドハンターの姿が映っていた。

 そして青白い炎が消えた瞬間に皆の雄たけびが上がる。


 「よっしゃー!倒したぞ!」

 「やったぁー!」

 「助かったぁー」

 アック、トット、ルアンからそれぞれ異なる言葉が上がるがシンは冷静にクラウドハンターを眺めていた。

 私はその光景をただ見つめるだけしか出来なかった。

 そう、私は何も出来なかった。

 クラウドハンターの狂暴な体そして吐き出される猛毒に怯えて手が出せなかった。

 私が茫然としているとシンが落ち着いたのか私に声を掛けて来た。


 「流石に採用試験でクラウドハンターは無理だったみたいだな」

 シンは少し疲れ気味な声を発するが、彼の顔は起こっているような雰囲気ではない。


 「ごめんなさい。怖くて手が出なかった」

 私は彼から目線を外して少し震える声でシンに謝罪する。


 「いや、謝らなくていいぞ。あれは討伐ランク3の魔物だ。初心者のリリアには無理だからな」

 私は討伐ランク3の言葉を聞いて目線を上に上げてシンの目を凝視する。


 「あれ?驚いたみたいだな」

 シンは私の目線を受けておどけて見せる。


 「よくあんな魔物を討伐出来ると思っているんだろ?」

 私はシンの言葉に頷く。


 「俺達のパーティーランクは3だ。だから一応ギリギリ討伐出来るって訳だ。ただ、正直に今回初めてクラウドハンターを倒したんだ。前回は全員で逃げたんだけどね」

 シンは言いながら苦笑いをしていた。


 私はシンの話を聞きながらも自分の進退を気にしていた。

 シンは私の様子に気づいたのかシンが更に言葉を掛けてきた。

 

 「リリアの採用試験はとりあえず補欠合格にするよ。クラウドハンターに突っ込むバカなら即首にしていたからね」

 私はシンの言葉を受けても何も言えなかった。


 結局その日の狩りは終了して皆でクラウドハンターの解体をしてキールの街へと帰ったのだった。

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