第36話 魔法の鞄とリリア1

 翌朝俺とアリシアは朝食後から旅に向けての買い物に街へと来ていた。


 「食料はこのくらいでいいかな?」

 「そうですね、後は馬車で移動する時に必要なクッションですか?」

 「あっ忘れていたよ。早速生地とかを買いに行こう」

 俺達は長時間馬車で揺られた際に硬い椅子から体を守る為に、俺の枕を尻の下に引いたのがきっかけだ。

 流石に寝る時に使う枕をこの先も尻の下に引くのが嫌なので作る事になった。


 「あっこの柄可愛い」

 アリシアが可愛い猫の絵が描かれた生地を見ながら俺に語り掛ける。


 「そうだね、アリシアが気に入った生地を買えばいいよ」

 「それでは、この猫の絵の青い生地の赤い生地をお願いします」

 俺はアリシアが気に入った生地とクッションの中身となる綿を購入した。

 そして俺達は昼食を街中にある食堂で取った後に宿屋へと帰った。


 アリシアには購入してきた布と綿を渡してクッション作りをお願いし、俺は念願だった重力の魔石が手に入ったので魔法の鞄作りにチャレンジする事にした。


 魔法の鞄とは普通の布の鞄の中に角ウサギ『通称フライングラビット』の魔石を設置して、その魔石を中心に空間魔法を施していく事で出来る鞄だ。

 そうする事で、ある程度大きさに上限はあるが重さを感じずに大量の荷物が運べると言う訳だ。


 今回用意したのは布の鞄が3つ、フライングラビットの魔石は10程度カインから譲り受けたので問題はない。


 俺は深呼吸して精神を集中してから始める。

 まず、鞄の一番したに魔石を軽く固定する。固定するのは粘り気のある液体だ。

 俺は両手を鞄に入れて魔石を包み込むようにする。

 そして俺は魔石に魔力を流し込んでいく。この流し込む魔力量によって鞄に入る量がある程度決まって来る。

 俺は最初完成が5メートル×5メートルの箱をイメージして構築する事にする。


 魔石に魔力が溜まった所で俺は魔石から糸を張り巡らせるイメージでその空間を作っていく。これはとても神経のいると言うか少し根気がいる作業だ。魔力を蜘蛛の巣状に張り巡らせた所で最後の仕上げである空間魔法を蜘蛛の巣に固定化する。魔力で蜘蛛の巣にしただけでは俺が魔力を抜いた瞬間に消えてしまうので、魔法の力により固定するのだ。

 

 「出来た!」

 俺は思わず誰もいない部屋で叫んでしまった。

 俺が初めて作った魔道具、魔法の鞄。

 普通ならもっと簡単な魔道具から始めるのが望ましいが、、俺が作りたい魔道具が魔法の鞄しかないので問題ない。


 俺は自分が作成した魔法の鞄にどの程度物が入るかテストをする事にした。

 鞄の開け口は50センチ×25センチと小さいのだが、長さが1メートル近くあるツボを入れようと口元に当てると、まるで何かに吸い込まれるように鞄に入ったのだった。

 そして俺は鞄の中を覗くとそこには以前カインに見せて貰ったように、ミニチュアのツボが鞄の下に鎮座していた。

 俺は拳を握りしめ感動に浸った。


 そこから俺はどんどん物を魔法の鞄に入れて行き、俺が想定した空間を埋めようとした時に現象は起こった。

 俺が魔法の鞄に物を近づけても入らなくなったのだ。そう、鞄が満タンになったのだ。

 俺は入れた物を出して行きどの程度入ったかを検証した。


 俺の想定通り大体5メートル四方だと言う事が分かった。

 ここで一つ気づいたのだが、高さは5メートルなくても3メートル程度で底の幅をもう少し広げれば、もう少したくさんの荷物が入るのではと考えた。


 そして俺は底が7メートル四方で、高さは3メートルの空間の魔法の鞄作成に成功したのだった。

 俺はあまりのうれしさにカインとミーニャが滞在している部屋をおと連れた。


 「タツヤです、部屋に入ってもいいですか?」

 俺はカインの部屋をノックしながらドアに向けて語り掛ける。

 そして了承を得たので俺は部屋に入り自慢の魔法の鞄を見せた所で俺に対しての半お説教が始まった。


 「いいかタツヤ。魔法の鞄は普通店では白金貨数百枚、中身が大きい物なら白金貨数千枚で売られているんだ。そんな物をほいほいと作られたんじゃこの世界の物の価値が壊れるぞ。お前が作った事は凄いとほめるが絶対にそれを自慢したり売るんじゃないぞ」


 カインとミーニャ二人から同じような事を30分程お話を頂いた。

 だけど最後にはミーニャから私もタツヤの鞄が一つ欲しいとのリクエストを頂いたので、俺は渾身こんしんの力を入れて最大級の魔法の鞄を作成した。


 底の幅が10メートル×7メートルで高さが3メートルの力作だ。

 俺は作成後再度ミーニャ達の部屋をおと連れて力作をプレゼントしたのだが…。

 ミーニャから国宝級の魔法の鞄を作るなと半お説教を再度頂いたのだった。


 アリシアはまだクッション作りをしていたので俺は邪魔しちゃ悪いと思い、作り立ての魔法の鞄を持って商業ギルドに来ていた。


 「あの、この鞄を東の大陸グランのキールに送りたいんですけど」

 俺は商業ギルドのカウンターで受付に伝える。


 「鞄単体ですと傷がついてしまうので袋か箱に入れた方がいいのですが用意はありますか?」

 「いえ、ないです」

 「それでしたら料金を払って頂ければこちらで用意しますが」

 「それでお願いします」

 俺は日本でも物を送る時に箱に入れていた事を思い出し少し早まったと反省した。


 「こちらの紙に宛先を記入して頂いてよろしいですか?」

 「あっすみません、俺字書けないので代筆いいですか?」

 俺は神様から文字を見たて読んだり人の話を聞いたりする事は出来るが書く能力は貰っていないのだ。一応自分の名前だけは書けるようにアリシア先生から教えては貰ったのだが。


 「はい、分かりました。それではどうぞ」

 そして俺はキールの街の冒険者ギルド『ライド・ドール』リンカ宛てを伝えた。


 「あと、この手紙も鞄と一緒に入れてください」

 俺は事前にアリシアに代筆をお願いして書いてもらった手紙を渡した。


 「それでは料金は金貨8枚となります」

 高い!

 8万ジールとかぼったくりじゃねぇーかと思ったが、俺がここまで来る金額を考えればしょうがないと思った。

 そして俺は金を払い商業ギルドを後にした。


 ◇ ◇ ◇ ◇ 


 キールの街でタツヤとリリアが別れた日まで、時はさかのぼる。


 <リリア視点>


 私は泣いていた。


 タツヤに当てがわれた冒険者ギルド『ライド・ドール』の2階の狭い部屋の中で。

 どうしてタツヤは私を連れて行ってくれないの?

 答えは出ている、私が足手まといだから。

 それでも一緒に居たかった。

 

 そんな自問自答を繰り返しながら何もしない1日が過ぎて行った。

 丘の上ではあんなに威勢よくタツヤに”何でもやる”なんて大口を叩いたのにこのざまだ。


 部屋の中にはタツヤから貰った武器防具とお金がたくさん入った袋が置いてある。

 私は部屋の物を眺めながら1年後に受ける試験の事を思い出した。

 

 『リリアはこんな事をしていていいの?時間は待ってはくれないのよ』

 

 私の中のもう一人の私が私に問いかけて来る。

 そうだこんな事をしている場合ではない。

 そして私はタツヤとの約束を思い出す。


 1.食事は1日2食は必ず食べる事。

 私はタツヤとの別れ際に貰ったパンを思い出して袋から取り出して口へほうりこんだ。

 まずは腹ごしらえ。


 2.ギルドの依頼や冒険にはパーティーで行く事。一人では禁止。

 私は食事を終えると直ぐに冒険に出れる服と装備に着替えて部屋を出る。

 1階にある冒険者ギルドの受付へと足を向ける。


 「リンカさん、こんにちは」

 「あら、リリアちゃん、こんにちは。今日は何か御用?」

 リンカさんは笑顔で応対してくれた。


 「冒険に行きたいから仲間が欲しい」

 「あら、ちょうどいい所に来たわね。今さっき新人さんからメンバー募集を貰ったばかりなのよ」

 リンカさんはそう言うとギルド内を人を探すように見渡し、目的の人が居たのか手を振り叫んだ。


 「ジュン君」

 ジュンと呼ばれた若い青年は隣の女性を伴って、笑顔でリンカさんの元へ元連れた。


 「何かようですか?」

 「実は前から募集していた冒険者がいるんだけど会ってみる?」

 「ほんとうですか?是非お願いします」

 そして私は彼らと出会った。


 「獣人族の女の子か」

 そんな事を言ったのはジュンと呼ばれていた年の頃は18歳位の青年だ。


 「あら、可愛いじゃない」

 横から口を挟んだのはこちらも歳の頃は18歳位の黒髪の美人な女の人だ。


 私は正直に言えば人間族より獣人族と冒険がしたかったのが本音だ。しかし、冒険者の割合から言って人間族が8割を占めている現状ではそうも言ってはいられない。


 「私の名前はリリアです。よろしく」

 私は彼らの前で頭を下げて挨拶をした。すると彼らも挨拶をしてきた。


 「俺はジュンだ。まだ初心者だけどよろしくな」

 「私はスミレ。ジュンと同じ初心者だからよろしくね」

 

 そして私達3人は冒険に出かけた。冒険と言っても最初受けれる仕事は薬草採取等の簡単な仕事しかない。しかし簡単と言っても森の近くの為に危険が伴うのがこの世界の常識。

 私達はお互いの事を話しながら薬草の群生地へと歩いていく。


 「私とジュンは同じ村の出身でキールの街で冒険者になったんだよ。そして今回が3回目の冒険なんだ」

 スミレと名乗った女性はにこやかに私に語り掛けて来る。

 私はそれに相づちや軽い返答で答える。流石に初対面からペラペラと自分の現状を話す勇気は私にはないからだ。

 そんな事を言っている内に森の手前まで来ていた。

 しかし薬草は他の新人冒険者も採取するのかほとんど生えておらず私達は相談する事にした。


 「ギルドの情報だとここから1時間程歩いた場所にも薬草の群生地はあると書いてあるわよ」

 スミレがギルドから借りた簡易的な地図を見ながら語る。

 ジュンがスミレの持っている地図を顔を覗かせて何か見つけたのか地図に指を指す。


 「この場所も薬草が生えてると書いてあるぞ」

 ジュンの指を指した場所はほんの少し森に入った場所だった。


 「森の中は危険だよ。歩いて安全な場所に行こうよ」

 スミレがジュンを説得するがジュンは直ぐに反抗した。


 「目の前の少し入った森にあるんだから大丈夫だって。魔物が出たらすぐに逃げるからいいだろ?」

 ジュンの強引ともいえる説得でスミレが折れた。


 「本当に魔物が出たら逃げてよ」

 「ああ、任せとけ。リリアもいいよな」

 ジュンがスミレとの会話を終えると私に確認をしてきたので私は頷いて了承した。

 正直かなり危険だとは思ったけど、ここで反対したら冒険が出来なくなると思って黙った。

 そして森に入り歩いて20分程歩いた目の前に一面薬草の広場が見えて来た。


 「やっぱり来て正解じゃねーか」

 ジュンが薬草を見るなりひとりで掛けていった。

 私はその行動を見ながら”コイツ絶対に早死にするタイプ”と心の中でつぶやいた。

 そしてそれは現実のものとなって私達を襲った。


 ジュンの前に突然キラードックが一体現れたのだ。

 体の大きさは以前タツヤが倒した奴と比べてもかなり小柄でまだ子供のキラードックだと思う。しかし、体が小さくても魔物は魔物。狂暴なツメとキバを持っているヤバイ動物だ。


 ジュンは突然の事で体が硬直したのかキラードックと対峙して動けなくなっていた。

 そしてジュンが何か動作をする前にキラードックはジュンに襲い掛かった。キラードックはジュンが逃げようと体を反転させた時に動いた左腕へとその牙を立てたのだった。


 「ぎゃぁーー!」

 ジュンの叫び声が森に響く。

 キラードックのキバは容赦なくジュンの左腕に深々と刺さり、ジュンの流れる血でキラードックの口元は赤く染まって行く。

 

 「ジュン!早く逃げてよ!」

 スミレはどうしていいのかわからずただ叫ぶだけだった。

 私は直ぐに行動に出た。

 腰から短剣を抜き放ちキラードックへと切り掛かった。

 しかし、私はまだ上手く魔力を短剣へと纏わりつかせる事が出来ないので、キラードックの固い体に傷を負わせられない。その時にタツヤの言葉を思い出した。


 『いいかリリア。魔力がないからと言って魔物に傷を付けれない事はないぞ。魔物いや俺達にも鍛えれない場所がある。それは目だ。急所だから狙うのは難しいが覚えておけよ』


 私はもう一度短剣を振り上げてキラードックの目へと短剣を振り下ろした。


 「ぎゃうん!」

 キラードックが悲鳴を上げながらジュンの腕から口を離した。

 キラードックの目を潰すまではいかなかったが、とりあえず脱出には成功した。


 「スミレ!ジュンを抱えて後退して!」

 私は短剣を構えたまま叫ぶ。

 キラードックは私を敵だと判断して威嚇いかくのうなり声を上げて来る。

 

 スミレは私の言葉通りにジュンを肩に抱えて後方へと後退していった。

 私も少しずつキラードックから後退する。

 キラードックは森の外が近いのか鼻をピクピクさせた後、身をひるがえして森の奥へと逃げて行った。


 私は『助かった』と安堵してスミレ達の元へと小走りで駆け寄った。

 そしてとりあえず森からの脱出に成功した。


 ジュンの腕の傷は酷かった。腕の肉がえぐれていて血がどんどん溢れていた。

 血を失っているのかジュンの顔色がとても悪かった。

 薬もないので布をちぎり血がこれ以上流れないよにきつく縛り、ジュンを中央に両サイドで私とスミレで担いでキールの街を目指した。

 キールの街から森まで2時間近く掛かっていて、ケガを負ったジュンの歩きでは3時間はかかる足取りだ。

 しかし歩かなければ腕を直す事が出来ないので私達はジュンを励ましながら歩いた。

 だけど、あとキールの街まで30分の所でジュンが倒れた。

 腕を縛ったがその間から血が溢れていて、ジュンの顔は真っ青になっていた。


 「ジュンしっかりしてよ!もうすぐキールの街だよ!こんな所で死んだら怒るからね!」

 スミレが仰向けに倒れたジュンに向かって叫ぶ。

 しかし、ジュンの目は叫ぶスミレではなく空を眺めていた。


 「スミレ…ごめん…な」

 

 その言葉を最後にジュンの動きは全て止まった。

 

 「ちょっと何言ってるのよ!目を開けなさいよ!」

 スミレはジュンの体をさすりながら叫ぶがその思いは届かなかった。

 私はジュンを見ながらどうする事も出来なかった。

 もし、タツヤが居てくれたなら、あんな小さいキラードックくらい直ぐに倒してくれるのに。

 私は無力だ。

 泣きじゃくるスミレに掛ける言葉もなく、私達はその場で座り込んでしまった。


 その後通り掛かった冒険者に手伝ってもらってジュンの体をキールの街へと運んだ。


 「ごめんね、スミレ」

 私はそれだけ言うと街の入り口でスミレと目を閉じたジュンと別れた。

 そして私は冒険者ギルドの自室に駆け込むのだった。


次回は23日月曜日予定

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