第35話 平和なひと時
場所はポイドンの宿屋。
この宿屋はカインとミーニャが良く使用している場所だ。
その宿屋の一つの部屋にはカインと俺そしてもう一つの部屋にはアリシアとミーニャが、魔物の
そして宿屋に入り三日目の朝、全員が朝食の場へ姿を現し再会した。
「いや~本当に今回の討伐は死ぬかと思ったぜ」
カインが寝ぐせの残る頭をかきなながらニヤケた顔でおちゃらける。
「本当に今回は少し辛かったわね。タツヤ達がいなかったら無理だったかも」
ミーニャがまだ疲労を引きずっているのかボソリと答える。
しばしの沈黙の後、一番元気そうなアリシアが声を発する。
「でも、もう終わった事ですし今後の事を考えませんか?」
アリシア的には気を使った前向きな発言だ。
「確かにそうだな。倒した魔物や魔石の分配もしていないし朝食を食べた後やるか」
カインの言葉で俺達は事後処理を行う事にした。
魔物や魔石の配分といってもこのポイドンにあるいろんな買取施設を周り、売却をして行くと言う物だ。
その中でほしい魔石や魔物の肉があれば保留していく感じだ。
当然だが最終的に全部はさばききる事が出来なかったので、俺が捨てねで売った魔物の代金を想定してその分をカインとミーニャに金を渡す事で分配は終了した。
俺とアリシアの受け取り金額は白金貨860枚で8600万ジールになった。
カインとミーニャに渡したぶんも含めるとなんと1億ジール以上だ。これは一部の魔石と魔物の肉が高額で売却出来たからである。そうあの肉の旨い牛の肉が飛ぶように売れたのだ。
「いや、こんなたくさんの白金貨初めて見ましたよ」
俺は白金貨の山を見ながら目を輝かせて答える。
「そうなのか、でも少し言いにくいんだが今回の売却金額は少しばかり低いな」
カインが少ししぶそうに話す。
俺がクエスチョンマークを浮かべた顔をしていたので話を続ける。
「今回討伐した魔物のランクが全体的に低かった事と、魔石しか需要のない魔物が多かったせいだな」
「でも、これだけの金額を受け取れたならいいんじゃないですか?」
俺が反論するとカインが付け加える。
「だけど日にちで割ると一人一日金貨1枚行くかどうかの金額だ。あれだけ辛い思いもしての金額だと思うとな…」
カインは歯切れ悪そうな言葉を呟く。
俺はこの暗い雰囲気を払拭しようと声を上げる。
「俺とアリシアはカインさんとミーニャさんの手伝いが出来た事を嬉しく思っていますよ、なっアリシア」
俺はカイン達に話すと同時にアリシアに同意を求める。
「ええ、辛かったですけど楽しい時間でしたよ」
流石アリシアだ。完璧に俺のフォローをしてくれた。
「まあ、そう言ってもらえるならいいか」
カインは少し申し訳なさそうな顔で話す。
「それでタツヤ達はこの後どうするの?直ぐに旅立つの?」
ミーニャが話に入る。
「数日ポイドンの街を堪能した後に旅立とうと思います」
俺は答えながらアリシアを見るとアリシアは頷いて答えた。
その後俺達はカイン達と別れてポイドンの街の散策を始めた。
ポイドンの街はとにかく大きい。大部分が住宅地が占めているがそれでも一日いや数日でも回り切れない程の商業区域が広がっていた。アリシアはこの大陸の民族衣装のような服を数枚と下着類を購入していた。俺も同様に服がボロボロの為にアリシアと似たような服や下着を購入した。そしてせっかくだからと言う事で俺達は着替えを行った。
いままでは黒を基調とした服だったが、今回は黄土色を基調した服になった。イメージとしては黒の剣士から砂漠の民のようなイメージだ。旅をする際はこの上からローブを羽織るので見えなくはなるが、街中に居る時はこの大陸の民になりきる事が出来る感覚だ。俺達はお互いの服を見合いながら「似合うね」と言い合い街の散策を再開したのだった。
*
夜夕食後俺は元気を取り戻したカインに誘われ飲みに行く事になった。
「俺は約束を守る男だ。アリシアを忘れるくらいのいい場所に連れて行ってやるよ」
カインはそう言うと意気往々と歩き出した。
俺は少しばかり嫌な予感はしていたが、異世界に来てそうゆう怪しいお店に言った事がないので内心ドキドキしていた。
そして街中をグルグルと歩く事30分、一軒の店の前までやってきた。
『猫耳バー フランフラン』
表の立て看板にはネコ耳の女性がお色気ポーズをとっている看板が置いてあるだけの店。
当然だが『値段』なんて気の利いた数字は記入されていない、なんとも怪しい店だった。
「ここだ入るぞ」
カインは一言言うと木の扉を開け入出したので俺も後に続いた。
店内は薄暗く入っていきなりカウンターがありそこで入店料を払うみたいだ。
一人金貨1枚(1万ジール)。
俺は金額を聞いた瞬間に絶対に高い店だと思ったが後には引けない。
そして俺が払おうとした時にカインから声が掛かった。
「悪いタツヤ、俺の分も払ってくれ」
俺はカインの言葉に硬直したが世話になったし払わない訳にはいかないので渋々二人分の金を払い店内に入った。
店内は日本であるようなスナック形式で大きいソファーにテーブルが置いてある感じだ。
ただ、俺はこの世界に来て初めてソファーなる椅子を見たので、ここはかなりの高級店と言う事に気づいた。
俺達がソファーに座ると同時に二人の猫耳獣人の女性がやってきた。
そして俺はその女性達の衣装を見て驚く。
日本の海やプールで見るビキニのような格好だからだ。
ただ水に濡れる前提ではなく華やかさを持たせるためなのか、ビキニにはいろとりどりの花が着けられていた。
「いらっしゃい、ここは初めて?」
俺の横に座った顔の見た目10台後半と言ったネコ美人の女性が、いきなり俺の手を握りながら聞いてくる。
俺も社会人になり日本のスナックなど言った事はあるがいきなり手を握るなんて事はなかった。だが、ここは異世界。俺の常識なんて役に立たないどころか邪魔になるくらいだ。
「ええ、はじめてです」
俺はドキドキしながら答える。
女性は俺の答えを聞くとなぜか目線をキョロキョロさせ直ぐに言葉をはっする。
「それじゃあ、まずは飲みましょう」
女性は机に置いてあるベルを鳴らすと直ぐに二人分の木の大きいコップが運ばれて来た。
女性が俺にコップを渡してくれたので俺は受け取る。
コップからはブドウのような匂いと一緒にアルコールの匂いが俺の鼻をくすぐった。
俺はこれはぶどう酒ではないかと思った。正確にはぶどうに似たような果物だと思うが俺がこの世界に来て飲んだ酒とは大きく違った。俺がいつもではないが飲んだ酒は麦をベースにした酒だからだ。
「乾杯」
俺と女性はそういいながらコップに口を付ける。
”旨い”俺が今まで飲んで来た酒とは段違いだ。
俺はチラリと横のカインを見ると俺と同様に女性と酒を飲んで話こんでいたのが分かった。
そして、それからの時間は俺の夢のような時間だった。
若い女性と酒を飲み話をしている内に音楽がかかり、小さな舞台ではセクシーな衣装に身を包んだ女性達が躍りを披露していた。ああ、異世界最高。俺はまさに楽しさの絶頂を迎えていた。
すると横に居た女性からさらなる言葉が掛かる。
「ねぇ、二人きりで奥で飲まない?」
俺は耳に入って来た言葉で少し冷静になった。だって考えなくても分かるがどう考えてもこの先はマズイと言うのが脳裏に走ったからだ。そして俺が少し思考しているといつの間にかカインが俺の横に来ていた。
「タツヤ…金を建て替えといてくれ」
俺はその言葉で酒が少しだが抜けた。
「カインさん、もう満足なのでそろそろ出ませんか?」
俺が言うとカインが少し酔った顔で語る。
「なんだ、もう怖くなったのか?」
俺は不満げに答える。
「怖くはないですけど、この先に何があるんですか?」
俺が聞くとカインがニヤリと口角を上げる。
「そんなのは決まっているだろ。マッサージを受けれるんだよ」
マッサージってどんなマッサージなんだか想像も出来ないが、ここは
俺はここで想像をやめて現実に戻る。
「俺は結構ですよ。それよりミーニャさん達が心配しているんじゃないですか?」
俺がミーニャの言葉を出すとカインは顔が青くなる。
「そっそうだな、今日の所は退散しよう」
そして俺はカインの分も合わせて金貨2枚を払うハメになった。
俺の楽しいカインとの飲み会が終わった。払った代償はでかかったが。
俺達はほろ酔い気分で宿屋へ帰るとミーニャが部屋前にある安楽椅子に揺られながら飲み物を片手にゆったりしていた。
顔色を見るとほんの少し赤みが掛かっていたので恐らく飲んでいたは酒だろうと思った。
「あら、二人でのお酒は楽しかった?」
「ええ、カインさんとのお酒は楽しかったですよ」
俺はにこやかに答える。
「で、どのようなお店に行ったのですか?」
俺はミーニャの言葉を受けると直ぐにカインへと顔を向けた。
カインはと言うと何知らぬ顔でその場に立っていた。
俺はまあやましい事はないと素直に答えた。
「猫の獣人がやっているバーですよ」
俺が言った瞬間にミーニャから殺気がもれる。
「へぇ~あの如何わしい店に、
その言葉は俺ではなく後ろに居たカインへ向けて発せられた。
カインは顔から少し汗を流しながら語った。
「タツヤの人生経験を積ませようとだな師匠の俺が人肌脱いだんだ…」
「師匠ですか、すると支払いも当然師匠がしたのですよね」
「いや、そこはだな弟子が是非払いたいと言う事でだな…」
「嘘なんでしょ!」
ミーニャの激しい言葉が飛ぶ。
「う、嘘でないような気もするけど…なんともそこは…」
カインがしどろもどろで答えているとミーニャが横から口を挟む。
「タツヤ、私があなたが支払った金額を払います。心配しなくていいですよ、全部カインの借金に上乗せしておきますから」
俺はミーニャの言いなりとなり支払った金銭を受け取ると俺はその場から脱出した。
そして俺は部屋に入るとなぜかそこにはアリシアが居た。
俺は部屋を間違えたかと思ったがアリシアに先に聞く事にした。
「どうしてアリシアがこの部屋に?」
俺の顔を見るとアリシアがニコリとほほ笑み答えた。
「ミーニャさんから今日はカインさんに話がある事になるから部屋を移れと言われたので」
俺はアリシアの言葉を聞きミーニャ恐るべしと心に刻んだ。
そして俺達は少し早いがお互いのベッドに入った。
当然だが少し汚れているカインのベッドに俺が寝る事になった。
「アリシア今は楽しいか?」
俺はベッドに入りながらそんな言葉を発した。
「今はタツヤ様と旅をしているので楽しいですよ」
「本心から?」
しばしの沈黙の後にアリシアが語る。
「そうですね。辛い事もあるので全部が全部楽しい訳ではないです。早く魔道具を持って国に帰りたいと言う気持ちもありますけれど、焦っても絶対に上手くいかないような気がするので」
「そうか。でも、この大陸でやる事は終わったから明後日にでも出発しようと思ってる」
「又、二人での旅ですね」
「ああ、お金があるので高速移動魔道装置ラファエルを使いたいんだけど、ここからだとグラン王国へ戻ってからじゃないと南の大陸オーザリア王国へ行けないから、残念だけど南の港町から船の旅になるかな」
「大丈夫ですよ、そんなに気にしなくても」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「・・・」
「タツヤ様は魔道具を手に入れて私をライラ国に送った後にどうされるのですか?」
俺はその質問に答える事なく寝たふりをした。
なんとなくアリシアの考えている事がわかり、俺はそれに答える事ができないからだ。
そんな思いのままポイドンの夜は更けていくのであった。
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