第31話 囚人バザー
場所は港町シードルフ近隣の森。
俺とアリシアは冒険者ギルドで依頼を受け森へと来ていた。
「アリシアそっちに行ったぞ!俺の方へ向かわせろ!」
「はい!ファイアーウォール」
アリシアが放った魔法はアリシアの目前に炎の壁を出現させる。行き場を失ったキラードックは俺の方へと突進をしてくる。俺は黒刀を抜き放ちキラードックに留めを刺す。
「これで終わったか?」
「そうですね。これでギルドから依頼のあった頭数には達していると思います」
俺とアリシアの周りにはキラードックに死体が10体ほど転がっていた。
依頼はキラードックが群れを作っているので討伐してほしいだった。
「いや~なんか久しぶりの魔物討伐でワクワクしちゃったよ」
俺は死体になったキラードックをアイテムボックスへ入れながらアリシアへ語り掛ける。
「そうなんですか?私なんて今でも足が震えていますよ」
俺がアリシアの足を見ると本当に少し震えているように見えた。
「そうなら俺が抱っこして行ってやろうか?」
「けっ結構です。歩くぐらいはできますから」
アリシアは頬を赤らめながら否定する。
俺はほんの少し心の中で残念と思いながら作業を進める。
「よし、終わり」
俺は掛け声と共に立ち上がる。
「どうされますか?」
俺は思考する。時間はまだある、森でもう少し狩れば多少の金額の
「少しだけ奥へ行ってみよう。危なければ直ぐ逃げるからその覚悟で」
「はい」
そして俺達は森の奥へと足を運ぶすると何やら捕食している一体の魔物を見つけた。
その魔物は全体が真っ黒いというかこげ茶に近いだろうか、全身が甲殻に覆われているような形状をしていた。
そして日本で昆虫をイメージするように足が6本ある。言葉にとてもいいにくいのだが、全長が3いや4メートルはあるゴキブリ体形だ。俺はアリシアで目で合図して後退する事を選択した。
この話を一度ギルドへと持ち帰ろうと。
俺達は冒険者ギルドでまず依頼の精算を行った後にギルド職員に俺達が森で会った魔物を報告した。
「少々お待ちください」
ギルド職員はそれだけ言うと奥へと消えてしまった。
そして女性のギルド職員の代わりに細見の男性が本を持って現れた。
「お待たせしました。あなたがたが情報を下さった冒険者ですか?」
「はい、そうです」
「よろしければ、そこのテーブルで詳しくお話を聞かせてください」
俺達は了承してテーブルに座ると用意されていたのか直ぐに俺達と男性の3つの飲み物が用意された。この世界の飲み物は基本的には水だが、こうゆう店では水に味が付いた物が出されるのが一般的だ。
俺達はまずその魔物にあった経緯と会った場所を正確に伝えた。
その後に男性が持って来た魔物図鑑を見ながら俺があった魔物を調べて行った。
本と言っても両背表紙は木でできていて中身はあまり上質でない紙がはさんである感じ本と言うよりバインダーだ。
当然だが魔物は絵で表示してあるのだが、絵師が書いたと見えてかなりうまい。
そして俺はある魔物の所でゆびを刺した。
「こいつです」
男性ギルド職員は俺の指を指す魔物を見ると俺の顔を再度見直す。
「間違いないのですか?」
「ええ」
男性は少し小さいため息を吐いて言葉を発した。
「この魔物は森の掃除屋と呼ばれているブラスフィアと言う魔物です。特徴はなんでも食べそして繁殖力がとても速いのです。以前この魔物を見た時に我々は100以上のブラスフィアの討伐を余儀なくされました」
俺は話を聞きながら本当にゴキブリだなと思った。
「それでコイツは強いのですか?」
「いえ、正直言ってそこまでの強さはありません。ギルド討伐ランクでは9から7となっています。なぜランクに幅があると言いますとこいつらは群れを作る習性がありまして、それでランクに幅があるのです」
「魔物としての価値はあるのですか?」
「魔石以外の価値はないです」
うわっ思いっきり邪魔者の魔物じゃないか。
「とりあえずこれは情報量としてお納めください」
男性は机の上に金貨を1枚置き頭を下げて去って行った。
そして次の日ギルドに行くと一般討伐としてブラスフィアが上がっていた。
魔石を提出すれば報酬は金貨2枚だった。
ほとんど魔石を売っても同じ値段なのでギルドとしてもどうしようもないのだろうと思った。
そして当然だが俺達も参加する事にした。何事も経験だからだ。
周りの冒険者も参加するらしく少し狭いギルド内は人で埋め尽くされていた。
俺達はいち早くギルドを後にして森へ向かった。
「アリシア討伐依頼書にも書いてあったがあいつの弱点は裏側の腹だ。表は堅いが裏は柔らかいらしい。俺が裏返した場合は剣を突き刺せ」
俺は歩きながらアリシアに指示をする。
「はい、出来る限り頑張ります」
俺は笑顔でアリシアに頷く。
正直な俺の気持ちは俺一人の方が早いだろうとは思う。だが、これからの旅を考えれば戦うと言う事を身に着けてもらわなくては自分の身も守れないと思ったからだ。だが、盗賊を捕縛した時はよくやったとテントの中で褒めまくったが。
俺は左右を見渡すと俺達と同様な冒険者が武器を持って森に行く様子が見て取れた。
これは大量ゴキブリじゃなくてブラスフィア退治になるなと予感した。
そして俺とアリシアが森に入ると同時に俺達は戦闘を開始する事になる。
俺達の目の前に男女の冒険者がいてブラスフィアに襲われているところだったからだ。
俺は瞬時に身体強化で飛び出しブラスフィアの魔物の首と胴体の間の関節部分に黒刀を差し入れた。そして少し強引だが力をいれて半分程切り裂いた。流石に外角は堅いが関節の間までは堅くはないと想定したのだが大正解だ。
俺は黒刀を抜き魔物が動きを止めた所で尻込みをしている男女の腕を掴み強引に後ろに放り投げた。
「シア、介抱よろしく!」
「はい」
元気な声が後ろから飛んでくる。
俺は魔物を警戒したが既に絶命した後だった事が分かった。
俺は念の為に首を完全に胴体から切り離して、その切断部分を注視した。
外角の内側はほとんどが空洞になっていて、丁度人間の首の骨の部分に太い血管のようなものがあったので、恐らくはこれが胴体と首を繋ぐ所だと思った。ようするに急所ってことだ。
そしてチラリとアリシアの方を見ると男女は意識はしっかりしているようで既に立っていた。
俺は先にブラスフィアの魔石をナイフで切り取り眺めた。
魔石は薄い赤色をしていて魔物の本体と比べると断然美しかった。
「大丈夫か?」
俺は男女の冒険者に声を掛ける。
「たすかった。ありがとう」
男女の二人から礼と頭を下げられた。
「いや、気にしなくていい。俺達はブラスフィアを狩りに来ただけだから。元気そうなら俺達はこれでな」
俺はアリシアに顔を向けて呼ぶ。
「シア行くぞ」
「あっはい」
アリシアは男女に少し挨拶をしているようだったが俺はスタスタと歩き出した。
「ちょっとタツヤ様、あの態度はないんじゃないですか?」
アリシアは俺に詰め寄って来る。
俺は立ち止まりアリシアに顔を向ける。
「いいか、アリシア。あの程度の魔物に怖じ気つくような冒険者は遅かれ早かれ死ぬ。俺は人助けをすると決めて行動しているが、自殺願望があるやつを助ける義務はないと思っている。自ら生きたいと願う者だけを助けようと決めているんだ。少し非常だがな」
俺はそれだけ言うと又黙り森に向け歩き出した。
「ごっごめんなさいタツヤ様。タツヤ様の言う通りだと思います」
アリシアは駆け寄って来て俺に言葉を掛ける。
「いや、俺も言い過ぎだと思うよ。でも全員が全員助けられないんだ、俺の今の力ではね」
俺はチラリとアリシアの顔を見ながら語る。
「タツヤ様は凄いですよ。私なんかと比べると。私なんて今を生きるのが精一杯なんですから」
「それだよ」
「えっ?」
「その精一杯生きるっていう心が大切なんだ。冒険者の彼らも精一杯なのかもしれないが、自分の力をわきまえて生きるべきじゃないのかなと俺は思うよ」
「わかりました。私は今回の旅、精一杯生きる為に頑張ります。あっもちろんタツヤ様のお世話もしますよ」
「なんのお世話かわからないけど、とりあえず今日は狩りまくるぞ!来たぞアリシア行くぞ!」
「はい!」
そしてこの日俺達は30体ものブラスフィアの討伐に成功したのだった。
当然だがギルド内で一番の功績だった事は言うまでもない。シードルフギルドでの俺のランクは10から8へと一日でアップした事も貢献度の高さを示していた。
そんな感じで俺とアリシアは5日間ギルドの依頼を受けては頑張って討伐を繰り返した。
俺達は船代が溜まった事を確認して先に船のチケットを購入した。
船が出るのは夕方との事なので今日は囚人バザーと言う事で、俺とアリシアはバザーへと繰り出した。
持っている所持金はそれほど多くはないがそれでもある程度の物は購入できるだけの金はある為心ウキウキでバザーへと繰り出した。
そしてバザーに着いて俺とアリシアは売っている商品を見て顔をひきつらせた。俺はある事を思い出した。そうここは囚人バザーなのだ。囚人がいい物を持っているはずがなく、シルバが言った通りに掘り出し物を見つけるように行動しないといけないと思った。
「アリシア、あまり凝視して商品を見ない方がいいと思うよ」
「そうですねタツヤ様。ここにある商品は私の理解を少し超えているので、これにお金を払うのはちょっと…」
そうアリシアが言うのも無理はないと思う。
囚人バザーとは囚われた悪人や盗賊が持っていた物を販売する場所だ。
そして今俺の目の前にある物も売り物なのだが、魔物の頭部の骨の中に光る石を入れランプとして使うものや、いや説明はよそう。そうゆう少しいやだいぶヤバイ物がたくさん売られているのだ。
だが俺はそれでも掘り出し物があると信じてくまなくバザーを歩きまわった。
途中アリシアが疲れと言ったので安全と思われるお茶を飲む店に残して俺は再度探索を行った。
そして指輪などのアクセサリーを売る店で足を止めた。
俺が気になったのは指輪だ。指輪に魔石がはめ込まれていて何やら術式が入れてある感じだった。
「すみません、これどうゆう力を発揮するのですか?」
俺は目の前にいた警備体の制服を着た男に声を掛けた。
「すまんが知らん。値札は適当に付けた。効果は手に取るまでは確認は許すが指にはめるなどは禁止だ」
俺は男の声を聞いて指輪を手の平に乗せて魔力を確認するように自分の魔力を流す。
すると指輪は少しだが宙に浮いたのだ。
俺は魔力を直ぐに中断して指輪を握った。これは恐らくだが浮遊の魔法が組み込まれた指輪じゃないかと推測した。
ただ、少し魔力を入れただけなので確証はないが、もしこれが本当ならかなりの掘り出し物だ。
そして俺は男にこの指輪の代金を聞く。
「これいくらですか?」
「えーと、この台のアクセサリーが金貨30枚だから、こっちの台が金貨50枚だ」
50万ジールか…買えない事はないが本当にそれ相応の力を発揮するのか。
少し俺は交渉をしようと考えた。
「50は少し高いんじゃないですか?効果もイマイチですしもう少し安くなりませんか?」
「ん~そうは言ってもなぁ~俺下っ端だからよくわからないんだよ」
「そうなんですか」
すると横から声が掛かった。
「どうかしたのか伍長」
そこには制服を着た女性が居た。
俺は思い出したのだそう1番の受付で座っていた尋問をした人だと。
「あっ曹長、このものが効果がわからないから商品が高いと」
男は言いながら俺をチラリと見る。
俺はえっ!?俺のケチを上官に伝えるのかよと心の中で愚痴ったがまあダメなら買わなければいいしと軽い気持ちで考えていた。
「よし、そこの冒険者この指輪を付けての効果の検証を許す。但し、お前の望んだ効果なら提示した値で購入しろ」
俺は半分ラッキーと思ったがまさか使わされるとはと思った。
そして客の邪魔になるので曹長と呼ばれていた女性と共に少し離れた開けた場所に来た。
「ここならいいだろう。さっそく試してくれ」
俺は頷くと指輪をはめ魔力を流すそしてイメージするとふわりと体が浮いた。
俺は左右に動けるかと試してみたが駄目で、上空には力を入れた所3メートルまで浮く事に成功した。
少し性能に残念な所ではあるがピンチな時に確実に役立つと思い購入を決意した。
「効果の検証ありがとうございます。購入させて頂きます」
「望んだ結果で良かった。しかし凄い魔力量だな」
俺は不思議にしていると曹長は話を続けた。
「このような浮遊魔道具は多種多様存在する。しかし現存するものであの高さまですっと上がり降りて来るには相当の魔力を使用するのだ」
確かに言われて見れば魔力を使ったって感じはする。だが正直に言えばあと10回は出来るような気がする。まあ、やれば倒れるけど。
「いえいえ、俺もう限界ですよ。今立っているのもやっとなんですから。格好つけてる間に会計をお願いします」
俺はわざとらしく演技をする。正直今さら感がぬぐえないがやらないよりはいい。
「そっそうなのか、すまん。ここで現金を渡してくれればそれで会計とする」
俺は腰のポシェットに手を入れるふりをしてアイテムボックスより金貨50枚を取り出し渡した。
「確かに受け取った。指輪はお前の物だ。無理はするなよ」
そう言うと軍曹はその場を離れた。
俺は少し人をだました事を反省したが、それより俺はこの世界の事を知る必要があると思った。
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