第30話 それぞれの思い

 場所は港町シードルフの荷置き場。

 この場所はいろんな商会が外から運んで来た荷物を置いたり又、外へ運ぶ荷物をここに集める簡単に言うと倉庫みたいな場所だ。

 その場所でタツヤ達に同行した商人シルバと息子のカイトは黙々と荷物の運び出しを行っていた。

 息子のカイトがある物を見つけると父のシルバに問うのであった。


 「父上、この鳥かごはどのようにすればいいですか?」

 シルバはその鳥かごを見て”フム”と少し思考した後返答をする。


 「一応持ち主に返そうと思うのでそのまま馬車に乗せておいてくれ」

 カイトはしばし鳥かごを見つめた後再度父に声を掛けた。


 「父上、結局あの似顔絵に似た女性は何者だったのですか?偶然かもしれませんが旅まで同行した人は」

 シルバは強い視線でカイトを睨み強い言葉を掛ける。


 「いいかカイトよ!世の中には知らなくていい事も存在するのだ。我らは商人、契約をしたのならそれを忠実に実行しそれ以上内情に触れる事は禁忌とする」


 「申し訳ございません父上!配慮が足りませんでした」

 カイトは頭を下げながら父に謝る。


 「いや、カイトよ。分かってもらえばいいのだ」

 シルバはその後カイトに言葉を掛ける事なく黙々と荷下ろしをした。ただ頭の中ではライラ国で鳥かごを依頼してきた怪しい商人の言葉が蘇る。


 『いいですか、この似顔絵の女性が街に入ったのなら青い紙を、もし女性が怪我をしていたら黄い色紙を、そして女性が現れなかったり死亡をもし確認したら赤い紙を巻き付けてください』

 『それだけでこれだけの報酬を頂けるのですか?』

 『ええ、ですが日にちを指定させて頂くので多少はあなた達の行動を縛る事になりますよ』

 『日にちは商人にとって命に等しい時間ですので問題はありません』

 『では、お願いします』

 シルバは前の記憶を忘れようと頭を振り我に返る。

 そしてシルバは思う。仕事は果たした次の仕事を遂行する為に全力を尽くそうと。


 ◇ ◇ ◇


 場所は変わりシンバーン国の宰相さいしょうのジルアートの執務室に怒声が鳴り響く。


 「どうゆう事だ!密偵部隊からの報告が途絶えた上に消息を絶ったとは!」

 ジルアートは報告を上げて来た臣下の礼を取った密偵部隊の男に対して言い放つ。


 「はい、キールの街にて待機していた3名と大森林だいしんりんに捜索に入った3名からの定期報告が突如切れました。直ぐに追従部隊を派遣した所キールの街外れにある活動本部の小屋の周り、そしてその周辺に多数の血痕が発見されました。そして周りを捜索しましたが…」

 ジルアートは男の報告をさえぎるように言葉を発する。

 

 「死体は上がったのか」

 「いいえ、同胞及び敵の死体も皆無でした」

 いったい何があったと言うのだ。

 ライラ国からそこまで強い護衛が派遣され密偵部隊を殺したと言うのか?いや、それは考えられん。大森林だいしんりんを抜けるだけでも決死の覚悟が必要なのだ。ましてやライラ国にそこまで強い戦士などいないはずだ。

 報告をして来た男は微動だにせずジルアートの言葉を待つ。


 「待機していろ追って命令を下す」

 「はっ」

 ジルアートはそれだけを言うと自室を後にし最初に第2皇子クリフの元を訪ねた。

 ジルアートはクリフの扉の前で少しだけ考えていた。どう皇子に説明しようかと。

 そんな考えている最中でも部屋の中からは女性の悲鳴らしき声が漏れていた。

 そしてジルアートは決心を決め扉をノックする。


 「入れ」

 中から声がしたのでジルアートは入手する。

 皇子はいつも通りに安楽椅子にのけぞる様に座り不敵な笑みをこぼしていた。


 「どうしたジルアート。何かいい報告でもしにきたか?」

 クリフの何とも言い難い言葉にジルアートは全てを話そうと直ぐにひざまずき臣下の礼を取る。


 「クリフ皇子報告の義がございます」

 クリフはいつもと違うジルアートの態度に安楽椅子より起き上がり地に降り立つ。


 「よい、述べよ」

 「はっ実は…」

 ジルアート密偵部隊より上がって来た報告を全てそのまま報告をした。

 クリフは話を聞くにつれ目を大きく開きビックリしていた様子だった。

 ジルアートが報告の後、しばしの沈黙がおとづれる。


 「それは信なのだな」

 「はっ」

 クリフはどかりと安楽椅子に尻だけを落としてジルアートに声を掛ける。


 「まず顔をあげよ」

 ジルアートはクリフの言うがまま顔を上げる。


 「原因究明も必要だが起こった事は仕方がない。で、ジルアートの意見を聞こう」

 クリフは両手の指を絡めながらジルアートに問う。


 「はい、キールの街の密偵部隊が消えたと言う事は恐らくですが、アリシア王女の護衛部隊が処理したと考えられます。確かにあそこの街はグラン王国内ですが我が国とグラン王国は現在摩擦は起こっていませんので。そしてアリシア王女は既にキールの街を後にしたと考えられます。同じところにいるほど愚か者でもないでしょうから」

 

 「確かにジルアートの想像は想定の範囲内だな。それでその後はどうする?」

 「はい、アリシア王女はいずれライラ国に戻ると私は予想します。ですのでライラ国に入る検問を強化するのが得策かと」

 「それじゃあ外でアリシアを捕まえるのは無理って事だね」

 ジルアートは額に汗を少し浮かばせながらクリフの言葉を聞く。


 「申し訳ございません。グラン王国そして近隣の街まで捜索範囲を広げようとすると、遠くない所でグラン王国の耳に入る物と想定されます。我がシンバーン国がライラ国に対して何やら策を行っていると隙を見せれば、我が国に対してグラン王国が腰を上げる可能性がございます」

 そこまで話を聞くとクリフは”ふぅ~”を息を吐きながら腕組をして考える。


 「ジルアートの検問を強化する案は了承する」

 「はっ」

 「だが、このままアリシア王女死亡で終わっていては我がシンバーン国の名前に傷がつく。ジルアートよ国姫が亡くなった際の静寂期間はどれくらいだ」

 「はい、通常は30日程度とされています」

 クリフはニヤリと口角を上げてジルアートに告げる。


 「ジルアートよ30日後にライラ国に対して文官付きで文を出せ!姫の代わりに何が出来るかライラ国に示させろ!」

 「御意」

 そしてジルアートはクリフの部屋を後にした。

 ジルアートは自分で首を触るとそこからは凄い汗が噴き出していた事がわかった。

 とりあえず1難去ったがそれだけではこの話は終わらないような気がしていた。

 私の最善策はどのようにすればいいのだ…。

 ジルアートは城の天を見上げていた。


 ◇ ◇ ◇


 場所は港町シードルフの港。

 タツヤとアリシアは宿屋探しを後回しにして港へと来ていた。

 アリシアがどうしても先に海が見たいとのリクエストに応えてのことから。


 「うわぁ~綺麗~タイヤ様、水が輝いていますよ」

 「ああ、綺麗だね」

 俺は久しぶりに見る海の光景になんとなく懐かしさが込み上げていた。

 しかし日本いや地球の海と少し違う。

 まず海独特の匂いがしないのだ。普通潮風とかいろいろ磯の匂いがあるのだがまったくないわけではないがあまりしない。やはり星が違うからなのだろうか…いや、ここはあくまでも異世界と割り切るのがいいだろう。俺は地球の記憶を一時的に忘れる事にした。


 「アリシアは海を見るのは初めてだったよね」

 「ええ、本の中では語られていたのですが、やはり実物は違いますね」

 アリシアは満面の笑みに包まれていた。

 その様子を俺は横から覗いていた。しかし、本当にかわいいよなこのアリシアって子は。日本いや地球なら間違いなく世界の可愛さランキングに入るんじゃないかと思う。と、俺がニヤケてアリシアの顔を見ていると不意にアリシアが俺の顔を見て来た。


 「タツヤ様、そのあまり見つめられると少し恥ずかしいのですが」

 「ああ、ごめん、ごめん。あまりにアリシアが可愛くて見とれていたんだ」

 おっ俺は何を言っているんだ!ここまで普通に旅をしてきて今さら口説き落とすつもりなのか?タツヤ落ち着くんだ。

 俺は何度か深呼吸をしてアリシアを見るとアリシアは顔を真っ赤にしていた。


 「カッ可愛いなんて、タツヤ様にそんな事を言われると…」

 アリシアは両手を祈るように指を絡ませ目を閉じて唇を出してきた。

 まっまずい!そう、ここはダメ男を通さねば。


 「さっさあ、行こうアリシア。宿屋が俺達を待っている」

 俺はアリシアに背を向け歩き出そうとした瞬間に、俺の背中にアリシアが抱き着いて来た。

 そしてアリシアは耳元で囁く。


 「タツヤ様は紳士なのですか?それとも臆病なのですか?」

 俺は固まり声を出せなかったが、アリシアが先に行動にでた。

 背中から俺の正面に回り込みながら話す。


 「冗談ですよ」

 「ハハハ」

 俺からは乾いた笑い声しか出なかった。

  

 その後俺達は商業ギルドに行きアリシアの登録を行った。

 当然登録名は『シア』の名前で。

 

 それから俺達は一度宿を決めてから冒険者ギルドへと立ち寄った。

 この街の冒険者ギルドは1つしかなくその大きさも少し小さめだった。恐らくだが森があるにはあるがそこまで魔物の出る頻度が少ないのだろうと言うのが俺の考えだ。

 その日はどんな依頼が出ているかの確認だけで俺達は冒険者ギルドを出て、街を歩きながら宿屋へと足を向けた。


 この港町シードルフは、西や南の大陸との交易にて町が形成されていて、街には見た事ないような工芸品や食料が並ぶ。

 そして当然だが魚の焼ける匂いも俺達の食欲をそそる一員となるのだ。


 「なんかお腹すいたなアリシア」

 「そうですね、いろいろ歩いたからじゃないですか?」

 「まあ、今日はゆっくり休んで少しの間この冒険者ギルドで金を稼いだら海を渡ろう」

 「ええ、お願いします。タツヤ様」

 そして俺達は港町の旨い食事と久しぶりの寝床に満足しながら夜が更けるのだった。

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