第29話 警備隊本部

 盗賊を撃退した俺は直ぐにアリシアの元へ向かった。


 「シア怪我はなかったか?」

 「ええ、大丈夫です。タツヤ様」

 俺はアリシアの言葉を聞き安堵した。

 そしてアリシアが縛った盗賊を俺は再度男の力で縛り上げた。


 その後、俺は荷馬車群の長のシルバの荷馬車へと駆け寄った。


 「シルバさん、終わりました」

 俺の声を聞くとシルバと息子のカイトは荷馬車から降りて来た。

 そして俺は今の出来事をシルバに説明した。

 その後、盗賊の6人は全員首を跳ねて袋へと回収した。

 俺は首を切りながら『俺かなりヤバイ人間になりつつあるよな』と自問自答を繰り返していた。

 

 そして盗賊の一人は死亡していたが生きているもう一人と纏めて一番後ろの荷馬車へと縄でくくり付けた。

 

 その夜。

 最後の晩餐はシルバ、カイト、そして俺とアリシアの4人で夕食を囲んだ。


 「いやぁ~私も人を見る眼が少し落ちたのでしょうか」

 シルバは頭をかきながら申し訳なさそうに呟く。


 「そんなに気を落とさなくてもいいんじゃないですか?」

 俺はそんなシルバをフォローする。


 「そうでしょうか」

 「それより皆無事だったので良かったんじゃないですか?」

 「確かにそれは言えますな」

 「それで、あの盗賊はどうすればいいのですか?」

 「あの盗賊と盗賊の首はシードルにある警備隊本部へ出しましょう。そこで生きている盗賊に対しては尋問が行われ、死亡している盗賊は指名手配がされてないかの審査が行われるはずです」

 なるほどね。


 「ところでタツヤさん。盗賊が魔法の鞄を持っていまして少し戦利品が手に入ったので、少しタツヤさんにお譲りしようと思うのですが見てくださいますか?」

 シルバはそう言うと机の上にナイフやらいろんな小物を並べた。


 「貨幣については私どもがすでに頂いているので、この中でほしい物があれば2点までなら無償で差し上げます」

 俺は一つ一つシルバさんより説明を受けて品定めを行った。


 「じゃあ一つ目は麻痺毒の瓶のセットを貰えますか?」

 「ええ、どうぞ」

 これはいざという時に何かと約にたつようなきがしたからだ。

 そしてもう一つが問題だった。

 正直あまりいいものがないからだ。

 俺はここにない物だが一応聞いて見た。


 「後はあまり興味が湧く物がありませんので、よかったら盗賊の首を入れた袋を頂けませんか?」

 シルバは少し考えたが直ぐに了承してくれた。

 そして5枚の袋を俺に無料で渡してくれた。


 「それじゃあ、明日で到着予定なので最後の見張りお願いします」

 「はい、任せて下さい」

 俺はシルバから最後のお願いを受け夜の見張りを行う事にした。

 二人で見張りを行うと明日誰も起きていない事になるので、俺はアリシアには寝るように伝えた。

 その代わり明日の昼間俺の代わりに見張りをお願いすると。

 アリシアは了承し俺は最後の夜の見張りを行う事にした。

 

 一人になると考える事は直ぐに今日あった戦闘の事になった。

 俺の取った行動そして攻撃は正しかったのか。もっとスマートにやる方法はなかったのかと自問自答を繰り返すと同時に、攻撃パターンが一つしかないような気がして俺は夜な夜な魔法の密かな訓練を行うのだった。


 夜が明けて荷馬車群は予定通りに港町シードルフへと到着をした。

 当然だが夜が明けると同時俺はアリシアと変わり睡眠へと入った。徹夜なんて何年ぶりかななんて考えていたが睡魔は直ぐにやってきた。俺が起きた時にはシードルフの街の目の前だった。


 「それじゃあ最初に警備隊本部へと向かいます」

 シルバはそういいながら荷馬車群を警備隊本部の前へと付けた。

 そこで俺とアリシアとシルバは降りて、縛ってあった盗賊二人も下ろした。(一人は死亡しているが)


 「カイトは荷をいつもの所へ運び入れてくれ。終わり次第そちらへ行く」

 「はい、わかりました。父上」

 カイトはそう言うと荷馬車群をゆっくりと前進させた。


 「さあ、いきましょう」

 俺はシルバの案内で警備隊本部へとやってきた。

 外から見れば日本の警察署とよく似た建物のように見えたが、中はと言うと手前に受付がありその奥に番号が振られたカウンターがあるようななんとも流れ作業を思わせる風景があった。

 俺達は受付にて事情を話すと指示を受けた。


 「盗賊は1番窓口へと行って下さい。首に関しては3番窓口に出して下さい」

 なんか役所のような感覚におちいったが、扱っている物が物なのでなんとも言えない気分だった。

 俺達は二人の盗賊を1番へ出し6番の番号札を受け取った。

 どうも、調査が終わり次第呼ばれるらしい。

 そして3番窓口へ盗賊の首を出し7番の番号札を受け取った。

 話では1時間程掛かると言う事で俺達3人は備え付けのテーブルにて談笑する事にした。


 「なんか洗練されていますね」

 これは俺の本心だ。


 「そうですかな?どこに行ってもこんな感じですよ」

 シルバは何とも普通に答える。


 「それよりタツヤ殿この街の噂をご存じですかな?」

 「噂とはなんですか?」

 シルバは周りを見渡すと少し小声で話だした。


 「実はこの警備隊本部に新に猛獣使いなるものが配属されたらしいのですよ」

 俺は一瞬サーカスをイメージしたがこの世界の猛獣は魔物だ。それを刺激できるのか。


 「詳しく教えてください」

 「今までは西の大陸で活動していたらしいのですが、この東の大陸の方が仕事が多いようで移って来たらしいです」

 「質問なんですが、警備隊の管轄は一緒なのですか?」

 「いえ、違いますよ。大陸毎に違うのですが噂を聞きつけたこのシードルフの警備隊長が呼んだらしいです」

 「それで猛獣使いはどのような事をするのですか?」

 「一般的には対犯罪者と対魔物なんです」

 「それじゃ、俺達にとってはいい事じゃないですか?」

 「確かにそうなんですが、噂の中では猛獣の餌についてなんです」

 俺はシルバの言っている意味がわからなく少し首を傾げた。


 「猛獣の餌は基本的に生餌いきえなんですが、ここには定期的に生きた者が運び込まれますよね」

 俺はシルバの言葉で背筋に寒気を覚えた。

 

 「まさか…」

 「ええ、そのまさかが行われているそうですよ。犯罪が決まれば斬首の刑なのですがどうせ死ぬならと裸にして猛獣の檻に入れるそうです」

 「それは本当の事なのですか?噂じゃないんですか?」

 「いえ、噂話は最初酒場から出たらしいのですが、斬首をする体格のいい男が最近は仕事が減少して困っていると呟いたらしいのです。そして遺体等を運搬する奴隷達の新規購入が最近は半分程度になっているらしいのです」

 俺はシルバの話で絶対に犯罪だけは起こさないでおこうと誓うのだった。

 俺達が雑談をしていると最初に7番の番号が呼ばれた。


 「お納め頂いた首の内二人が指名手配になっていました。これが報酬の金貨3枚です」

 俺は金貨を貰いながら考えた。二人の首で3万ジール…。なんとも理不尽な世界だ。


 「又のご利用お願いします」

 受付の女性は軽く頭を下げてきた。

 俺がシルバの元へ戻り報告をしていると6番の番号が呼ばれた。


 「盗賊の一人が自白をしまして、斬首刑が確定しました」

 俺とシルバは目を合わせる。


 「そうですか」

 「その後の事はこちらで処理しますので、ご苦労さまでした」

 女性は頭を下げると終わりと言う目つきで俺達を見てきたので、俺達は警備隊本部を後にした。


 「凄いあっさりしていますね」

 「まあ、こんな物でしょう。それよりタツヤ殿ここまでありがとう」

 シルバが右手を出してきたので俺は握手をする。シルバはアリシアとも握手をした。


 「タツヤ殿は船に乗るのでしたな」

 「そうなんですが、まだ支度金を用意していないのでギルドで稼いでからですね」

 俺はなんとも恥ずかし感じで答える。


 「そうでしたか頑張って下さい。あっそうそう言い忘れていましたが、警備隊本部の囚人バザーが5日後に開かれるのですよ」

 「囚人バザーですか?」

 「ええ、囚人が持っていた物を格安で販売するのです。良かったら参加したら掘り出し物が見つかるかもしれませんよ」

 たぶんシルバは俺達の旅を考えて教えてくれたのだろう。


 「ええ、時間があれば是非参加します」

 「それでは」

 俺達はシルバと別れた。


 「なんかとても人のいい人でしたね」

 アリシアがそんな事を俺に話掛けて来る。


 「ああ、又会えるといいな。さあ、とりあえず俺達のベースとなる宿屋を探しに行こう」

 俺とアリシアはシードルフでの宿屋探しに出たのだった。


 ◇ ◇ ◇


 時はさかのぼる事それはタツヤとアリシアがキールの街を出る時、ライラ国の宰相さいしょうフランドが管理する情報部隊の鳥小屋に一羽の鳥が舞い降りた。

 鳥は何処から飛ばしてもこの場所に戻る様に訓練された伝書鳥だ。

 そしてその足には1枚の紙が巻き付けられていた。


 「フランド様、鳥が戻りました」

 場所は宰相さいしょうフランドの執務室。

 情報部隊に所属する侍女じじょが報告を上げる。


 「うむ、直ぐ行こう」

 フランドは侍女じじょと共に鳥小屋へとおもむく。

 そして鳥に紙が巻き付けられているの確認すると、フランドは大きく深呼吸をしてから鳥から紙を取り外す。 

 取り外した紙をゆっくりと開けるとそれは青いインクが垂らしてあるだけの紙だった。

 それを見たフランドは小さく拳を握りしめた。

 そしてフランドはその足で王の元へと足を運んだ。


 「失礼いたします」

 フランドは王と王妃の執務室へと入出する。


 「フランドか今日は何かあったか?」

 「鳥が戻りました」

 その言葉で王と王妃が目を大きく開く。


 「でっどうなんだ!」

 王が少し椅子から身を乗り出してフランドに問いただす。

 フランドは紙を王が見えるように掲げて言葉を発する。


 「アリシア王女様は無事大森林だいしんりんを抜けたと思われます」

 王と王妃は椅子に深々と腰かけまるで生気が抜けたようにだらりとする。

 そしてしばしの沈黙の後に王が口を開く。


 「フランドよお前の言う通りに事が運んだな」

 「いえ、これはアリシア王女が頑張った結果だと愚考いたします」

 「謙遜けんそんはよせ、最初から予定通りなのだろ?」

 「いえ、流石に大森林だいしんりんはイチかバチかの掛けであった事は事実です」

 「まあ、良い。それでいつ頃シンバーン国から文が届く予定だ?」

 「恐らくですが王女の葬儀から30日後辺りかと思われます」

 「そうか」

 王はその言葉を最後に沈黙した。

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