第28話 裏切り

 「こちらが今回倒した盗賊の首です」

 俺とルオンは盗賊の首を袋に入れて荷馬車群の長シルバに見せた。


 「うむ、二人とも良くやってくれた。礼を言うぞ」

 シルバは袋の首を見ながらそんな言葉を掛けてくれた。


 俺はその日の夜、又シルバの元を訪ねた。


 「今日はシルバさんに見てもらいたい物があるんですが」

 俺とアリシアは食後にシルバと息子のカイトと同席した。


 「ほう、どんな物ですかな?」

 「これなんですが」

 俺はアイテムボックスから盗賊から奪ったナイフを見せた。

 

 「これは盗賊のナイフですね」

 シルバはナイフを手に取り見ながら答えた。


 「盗賊のナイフとは?」

 「ナイフの背の部分を見てもったら分かると思うが、この穴の部分に麻痺毒を入れて使うんですよ」

 「麻痺毒ですか?」

 「ええ、相手を少し傷つけるだけで1から3分程動けなくする事が出来るんですよ。そして相手が動けない内に悪さを働くと言う訳ですよ」

 「それで、盗賊のナイフと呼ばれているんですか」

 「そうです。ですけど、難点としては麻痺毒はナイフに入れてから3日程すると蒸発してなくなるので使いがってとしてはイマイチなんですけどね」

 シルバは少し苦笑いをしながら話す。

 

 「魔物には効かないのですか?」

 「実は昔、協力な麻痺毒が作られたのですが冒険者が触る事故が発生して使用が禁止になったんですよ」

 そうゆう事だったのか。

 一応事故から学ぶ事はこの世界でもあるのかと少し感心した。


 「そうだったんですか」

 それから俺達は他愛ない話をして席を立った際に俺はシルバに声を掛けた。


 「シルバさん、少しだけ耳を貸してもらっていいですか?」

 俺の言葉にシルバはコクリと頷いたので俺は俺の考えをシルバに耳打ちした。

 伝えたのは2つ。

 一つ目はルオンは盗賊の仲間の可能性がある事と、明日盗賊が現れた際は荷馬車から降りないでの二つだ。

 シルバは俺の言葉を聞くと大きく目を開いたが俺が口に人差し指を当てるジェスチャーをするとシルバは自分の両手で口を塞いだ。

  

 「それではおやすみなさい」

 俺はシルバと息子のカイトに挨拶をするとアリシアと共にその場を去った。

 そしてテントに入ると同時にアリシアに先ほど俺がシルバに伝えた事を少し詳しく話した。明日はアリシアにも働いてもらう事も忘れずに。


 *


 四日目の朝は快晴だ。薄いモヤは消え輝ける2つの惑星がこの大地を照らしいている。

 昨日の夜にルオン達が何か仕掛けて来るのではと思ったが、そんな素振りは一切見せなかった。

 今日仕掛けなければ明日には港町のシードルフへ着いてしまうので、恐らく襲うポイントは山肌が両サイドから迫って来る狭い場所ではないかと思った。


 「タツヤ様、もう明日にはシードルフですね」

 アリシアと荷馬車の一番後ろで揺られながら声を掛けて来た。


 「ああ、今日はその最後の試練と言うやつじゃないかと思う」

 「本当にそんな事が起こるのですか?」

 アリシアは心配そうな顔を向けて来る。


 「アリシアは何も心配する必要はない。もし事件が起こったら自分のやれる事をやればいいだけだよ」

 「はい、そうしますね」

 と、アリシアと会話をしている時に荷馬車群は狭い場所に差し掛かった。

 すると残念だが俺の『サーチ』の魔法に赤い敵を現すマークが出現した。


 「アリシア、予定通り敵が現れた。今から言う事を聞いてくれ」

 アリシアは無言で頷く。

 

 「俺はルオン達3人を連れて行こうと思うが、恐らく二人しか来ないと思う」

 俺はアイテムボックスから昨日盗賊から奪った盗賊のナイフをアリシアに手渡した。


 「いいかアリシア。昨日も説明を聞いていたと思うが少しの傷を追えば少しの間だけ敵は動けなくなる。これを予備武器として右腰に装備してくれ」

 アリシアは無言で俺の言う事を聞きナイフを装備した。


 「恐らく敵は左腰に刺してあるロングソードをメインに抑えて来る。右手だな。そこでだ、もしチャンスがあれば左手でナイフを抜き敵に傷を与えろ。もし敵が麻痺したならロープを預けておくので後ろ向きに手と足を縛れ」

 アリシアは不安そうな顔をしていたので俺は付け加える。


 「だが、無理だと思ったなら抵抗せずに静かにしていろ。恐らく殺される事はないと思うから」

 俺はアリシアを安心させると共にアリシアは人間としての商品価値があるのではと思った。


 「はっはい。出来る限り頑張ります」

 俺はそっとアリシアの頭を撫でてやった。アリシアは恥ずかしくて少しうつむき加減でタツヤの頭なでなでを受けるのであった。


 まず俺は荷馬車群の長シルバの元へ走り盗賊が来た事を伝える。それと同時に笛が鳴らされ荷馬車群の動きが停止する。

 俺はそれを見届けると次にルオン達の元へと移動する。


 「ルオン、盗賊の影が見えたがどうする?」

 俺はあえてこうしろと言う事をルオンに伝えず判断をさせる事にした。ルオン達が本当に盗賊達と繋がっているかがわからないからだ。


 「そうだな。この前は少しツッコミ過ぎたような気がするから今回は迎え撃つのはどうだろう」

 「ルオンがそう判断したのなら俺は従うぞ」

 俺はあえてルオンの意見には反対せずに了承をした。

 そしてルオンと陣形を話し合った結果、俺とルオンが前衛で弓使いのハオが後衛でアリシアとカイが荷馬車の護衛になった。


 しばらくすると盗賊達が林の木々に隠れながら俺達の前に姿を現した。

 盗賊達は以前と同様に冒険者風だがどことなく怪しく汚らしいのが見て取れた。


 「おう、自らお出迎えとはいい度胸じゃねぇか」

 先頭にいた盗賊の男が俺達に声を掛ける。

 俺はチラリと横にいるルオンを見ると少しだけ口角が上がっている様子が見て取れた。恐らくはこれも段取り通りの行動ではないかと俺は推測し、少しだけルオンから距離をとる。

 そしてルオンが口を開かないので俺が口を開いた。


 「お前らこんなバカな事を辞めるんだ」

 俺はとりあえず説得を心みる。

 当然だがこんな事は無駄だと思うが言わないと後で罪に取られては目も当てられないからだ。


 「わっはっはっ。お坊ちゃん育ちにはきっちり教育してやるよ」

 その盗賊の言葉と共に戦闘が開始された。

 盗賊の人数は全員で6人。

 こちらは一応3人だが実際は1対8になるだろうと俺は予測して行動を起こす。

 前回は手を抜いて対応したが今回は人数も居る事で手加減なしでいく。


 「死ね」

 一番前にいた盗賊の男が俺にナイフで切り掛かって来た。

 恐らくは以前見た盗賊のナイフだと思うが「死ね」と言う掛け声はないだろうと思ったが、俺も甘さを見せればやられるので俺は黒刀を抜き放ち、男がナイフを握る右手腕ごとを断ち切る。


 「うがぁ!」

 男は鮮血をまき散らしながら地面へと転がる。

 それを見ていた他の盗賊から一気に俺へと殺気が広がる。


 「殺せ!生きて返すな!」

 残りの盗賊5人が一斉に俺に向かって来た。

 俺は横でたたずむルオンをチラリと見てここまであからさまかよと愚痴を吐いたがどうしようもない。

 多人数対俺なら俺はお得意の魔法を準備する。

 その間にも俺に火の玉や水の玉などの魔法攻撃が降り注ぐ。

 俺はそれを身体強化を用いて左右に動いて攻撃を交わす。

 よほど森にいる魔物の方が強いと思うのだが、魔物は魔法を使わないのである意味新鮮な攻撃だ。

 そして俺の魔法が完成する。

 

 「雷よ」

 俺は剣に雷を纏わせる。

 俺の魔法は射出する威力のレベルはまったく上がらない事は承知している。俺の世界に魔法なんて物がないから恐らくイメージが魔力に乗らないのだと俺は考える。

 逆に体の魔力を持ち物に付与させる事は俺との相性がとてもいいのか、現在雷魔法はレベル2強と言った所まで達している。

 この電撃を食らえばだいたい感電死する威力となっている。ただ、雷を防御する衣服等を着ている場合はその限りではないが。


 「おりゃぁー!」

 俺は雷を纏わせた剣を水平に放つ。

 それは水の波紋の様に盗賊達へと襲い掛かる。

 

 「ぐわぁ!」

 勝負は一瞬で決着する。

 男達はピクピクと体を震わせている者とすでに動きを止めて絶命している者が半数だった。

 俺が盗賊達をやっつけたと同時に俺に弓矢が数本飛来する。

 俺は剣で弾く事に成功したが1本が右太ももをかすめた。


 「くぅ」

 それほどダメージを受けていないにも関わらず、太股からは焼けるような痛さが伝わって来る。

 俺は左ひざを地面について右足を手で押さえる。

 するとそこへ二人の男が歩いてくる。


 「いやいや、タツヤ見事だったけど…少しやりすぎだねぇ」

 ルオンのまるで冷たい視線が俺を射抜く。


 「なっなぜ、俺を攻撃するんだ!」

 俺はありきたりだがルオンへ質問する。


 「君に生きていてもらっては今後の俺達の活動に支障が出ると判断したんだよ」

 「活動?」

 「ああ、盗賊稼業のね」

 「もしかして盗賊が仕事なのか?」

 「あれ?タツヤは気づいていると思ったんだけど俺達は盗賊団蛇一族だよ」

 「はじめて聞いたよ」

 「俺達結構有名になったと思ったけどまだまだだったか」

 ルオンは腕組をしながら考える。

 そして、後ろにいるハオは俺を常に弓で狙いを定めている。


 「まあいっか、タツヤにはここで死んでもらう。あそこにいるお嬢ちゃんは楽しんだ後に娼館にでも売り飛ばすから安心していいよ」

 ルオンはそういいながらケラケラと笑う。

 俺はルオンの言葉で自分の中でプチと何かが切れる音がした。


 「もう一回行ってみろ!シアをどうするって!」

 俺は腹の底から低い声を出す。


 「あれ?起こったのかな?ならもう一度言うよ。お嬢ちゃんは売り飛ばすんだよ!」

 俺はこう考え居ていた。

 俺が気づついたりバカにされる事についてはそこまで怒ったりはしない。だが、俺が苦労して助けた人を気づつける行為は万死に値する。神様と約束した俺が出来る範囲で人を助ける。その助けた人を…。


 「許さん!」

 俺が言葉を発した瞬間にハオが俺に対して弓を放つ。

 近距離からの弓の射出は時速にすると数百キロにも達するが、俺は心眼の魔法にて目に魔力を集中する事によって顔すれすれで弓矢を避ける。そしてアイテムボックスから取り出した投てき用のナイフをハオに投げつける。

 ナイフはハオの首深くに刺さりその場に崩れ落ちる。

 そして俺は黒刀をルオンへと向ける。

 

 「ちっあのバカ」

 ルオンはこの後に及んでも俺ではなく俺の後ろの方へ視線を向けていた。

 俺も危険だと思ったがチラリと後方を見ると、アリシアが男を紐で縛り上げている様子が見えた。

 アリシアが盗賊の撃退に成功したのだと。

 そして俺は再度ルオンへと向き直る。


 「いやぁ~形成不利になっちゃったから今日は退散する事にするよ」

 俺はルオンが何を言っているのか理解出来なかった。


 「どうゆう意味だ?」

 「今日は俺の負けって事だよ。又、遊ぼうタツヤ」

 そう言葉を残すとルオンは身体強化を使い全力で林の中へ逃亡したのだった。

 俺はその光景をポカンと口を開けて見守る事しかできなかった。

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