第27話 盗賊

 場所はキールからシードルへ向かう道中の野営地。

 食後に荷馬車群の主のシルバと息子のカイトそして俺とアリシアがテーブルを囲む。


 「最初に盗賊の扱いはどのようになりますか?」

 俺は一番最初にこの質問をシルバへと投げかけた。

 捕まえるのかそれとも殺すのかなど俺はこの世界について良く知らないからだ。


 「どのようにとは?」

 「盗賊が出た際は退しりぞければいいだけですか?」

 「盗賊が襲って来た時点で犯罪者となる。よって殺しても罪には取られんし、首を管轄の詰め所へ出してその首が懸賞金が掛かっていれば金が貰える」

 「悪人を牢獄に入れるとか更生させるなんて事はないのですか?」

 シルバは俺の目を皆がら”フム”とため息をついた。


 「タツヤ殿はフランダ王の話を知らんと見えるな」

 「フランダ王ですか?すみません、知りません」

 「なら話してやろう。どのくらい昔かわからんがかなり昔の話になる。とある国にフランダ王と言う人物がいた。その王は大変心が広く優しいと評判の王だった。多少の罪を犯した物でも注意や奉仕労働程度で済ませていた。そしてある時自分が一番信頼していた側近がフランダ王を殺そうとした事件が発生した。王は身近にいた兵に救われてなんとか無傷で生還し、襲って来た側近を捉えた。そして王はどうして自分を殺そうとしたのかその者に問うた。その者は自分の家族が人質になっていてフランダ王を殺せば解放すると話した。王は側近は悪くない悪いのは命じた者だと判断し、襲ってきた側近をおとがめなしで解放し命じた者を探すよう命じた。だが、残念な事にフランダ王は3日後その側近に殺された。フランダ王の事は有名だったが故にその事件が一斉に世界中に広がり、『一度悪に手を染めた者には未来はない』の文言が定着していった。これがフランダ王の話だ」

 ようするに悪人を更生させるのではなく、裁きを下せと言うのが世界の在り方と言う事か。

 そう思えば俺が生活していた日本なんて国は甘々あまあまだと思った。

 だって人を殺しても数十年かしらないが檻に入れば出てこれるんだからな。だがこの世界では人を殺した時点で死罪確定って事だ。だが、どうやって人を殺したのがわかるのか…。


 「質問なのですが、罪人を捉えたとしてその者がどう行った事をやっているかをどうやって知るのですか?」

 「それはだな、魔導士によって自白剤と言う物が作られたのだ。その薬を飲む事によって自分の罪を喋らせるらしい」

 自白剤なんてものがあるのか凄いな。だが、やっぱり異世界と言う感じだ。魔法だけで驚いていたが魔道具に続き自白剤なんて怪しい薬まで出て来るんだからな。


 「タツヤ殿はここまで詳しい話を聞くとなると盗賊を捉えた事がないみたいですな」

 「ええ、今回旅をするのは初めてなのでありません」

 「それなら、盗賊の首を入れる袋はお持ちか?」

 俺は一瞬シルバの言った事で固まったが直ぐに持ち直した。


 「いえ、持っていません。その袋とかは必要なのですか?」

 「そうですな、このように護衛を兼ねての旅となるとかなりの確率で必要になると思います」

 「では、1枚もらえないでしょうか」

 「ええ、1枚銅貨7枚(700ジール)でお譲りしましょう。市場価格ですと最低10枚はするのでかなりお得ですよ」

 シルバはそう言うと息子のカイトに袋を取りに行かせて、カイトが持って来た袋を俺は銅貨と交換で手に入れた。

 袋は麻で出来ているような袋で、日本で言うと燃えるゴミ袋より一回り大きい感じの袋だ。

 しかしシルバは商売上手だと心の中で呟いた。


 「それで少し話しは変わるのですが、シードルフから船が出ていると思いますが乗る際には身分証明が必要なのですか?」

 「ああ、国をまたぐ際は身分証明が必要だ。冒険者ならギルドカードで一般人なら商人ギルドのカードになる。しかし身分証明と言っても名前と指印を押してあるだけのものだから、証明と言うにはどうかと思うが皆一応は従っているぞ」

 なるほどね。アリシアには冒険者ギルドではなく商人ギルドの方が良さそうだと思った。この世界の身分証明は穴だらけなのでより多くの人が登録している方がいいと思った。

 

 「ありがとうございます、シルバさん。とても勉強になりました」

 「いやいや、こちらこそ美味しい物をご馳走様。又、話そう」

 俺達は話をそこまでにして一度自分達のテントへと戻った。

 この後は夜の見張り番があるがアリシアは疲れている様子だったので、アリシアには見張り番は必要ない事を告げ俺一人で見張り番に付く事にした。


 俺は一人で見張りをしながら闇夜に向かって『サーチ』の魔法を唱えていた。当然だが反応は皆無だった。流石に森ではないので魔物が出る心配もないし、もし出るのであれば悪党のみだと思った。

 そして時間になるとルオン達3人が現れて俺と交代した。

 

 見張りを終えた俺はアリシアが眠るテントに行くとアリシアはまだ起きていてくれた。

 

 「まだ起きていたのか?」

 「ええ、流石にタツヤ様が働いているのに私が寝るわけにはいきませんからね」

 「まあ、そんなに気負わなくてもいいぞ」

 俺は少し笑いながら答える。

 それから俺達は雑談したあと眠りについた。


 二日目は特に何もなく過ぎて行った。

 そして問題となる三日目の朝が来た。

 空には薄いモヤが掛かっていて今にも雨が降り出しそうな雰囲気の天気だ。

 この世界に来て雲と呼べるようなしっかりとした雲はまだ見た事がない。それは太陽の代わりとなる光る惑星が原因なのかもしれない。そして雨だが日本のように一日中降り続く雨にもあった事がない。雨が降ったとしても2時間程度で止むのがこの世界…この大陸の常識らしい。

 

 荷馬車群はどんどん街道を進む。キールの街を出てからは10台程の荷馬車とすれ違い、1台の荷馬車に追い抜かれた。

 荷馬車のすれ違いと追い抜きは荷馬車の感覚を3台程開けるのがルールと教えて貰った。

 そしてまた1台の荷馬車が追い抜いていくが少し変わった荷馬車なので俺はアリシアに聞いて見た。


 「あれは変わった荷馬車だけど知っているか?」

 荷台を引っ張っているのはカバ見たいな馬ではなく、日本でも見た事あるようなすらりとした馬で、荷台もホロがつけてあるが軽そうな感じだ。


 「あれはたぶんですが街と街の間を走る配達の荷馬車ではないですかね」

 ようするに宅配便みたいなものだろうか。


 「アリシアの国にもあったの?」

 「ええ、あんな立派な物ではありませんが、街と街の間を定期的に走っている荷馬車なんですよ」

 「そうなんだ」

 俺は走り去る荷馬車を見ながら今度リリアに何か送ってあげようかなと思い眺めていた。


 俺達に荷馬車群は昼食休憩の後に盗賊が良く出ると噂されている森林の街道に差し掛かった。

 聞いた話だと盗賊達は荷馬車を手当たり次第襲うわけではなく、自分達が成功しそうな荷馬車を選択して襲うらしい。確かに俺が盗賊でも同じような事を考えるから多少の知能はあるらしい。

 街道を進んでいる俺の『サーチ』の魔法をに反応が出た。

 距離はまだ500メートル程先で悪人の人数もわからないが注意をする必要がある。

 

 「アリシア、恐らく盗賊の反応が出たから俺はシルバさんに伝えて来るから見張りよろしくな」

 「はい、タツヤ様。ご無事で」


 俺は荷馬車から飛び降りると身体強化を使い前から、2両目のシルバさんの乗る荷馬車の外の足踏み場に飛び乗った。

 俺は窓の外からノックをする。

 すると俺に気づいたのか窓を少し明けてくれた。


 「どうしたんですかタツヤ殿」

 シルバさんはそう声を掛けてくれた。


 「恐らくですが盗賊が出ました。距離はおよそ400メートル先の林の中です」

 俺は林の方を指で指しながら答える。


 「それはいかんですな、直ぐに荷馬車群を止めます」

 シルバさんはそれだけ言うと胸の辺りに手を突っ込んで笛のような物を取り出した。

 シルバさんは笛を口に咥えると『ピィ』と音を鳴らす。すると荷馬車群は直ぐにスピードを落として停止をした。


 「すみませんがタツヤ殿。盗賊退治をお願いいたします」

 俺はシルバさんにコクリと頷いて答えた。

 俺はまず同じ護衛のルオンの元に駆け寄った。


 「ルオン盗賊らしき影を確認したがどうする?」

 俺がルオンに聞くと直ぐにルオンが反応した。


 「タツヤは俺と一緒に盗賊の元へ向かってくれ」

 俺はルオンの言葉に頷く。

 

 「カイとハオは荷馬車群の護衛を任せる」

 カイとハオはルオンの言葉に「オウ」と軽く返事をする。


 「それじゃあタツヤ、盗賊の影の場所に案内してくれ」

 「おう、いくぞ」

 俺は背後にルオンを連れて街道から林へ向けて走り出した。

 俺は走りながら『サーチ』の魔法をを発動すると盗賊の正確な位置が発見出来た。

 正面に2人、そして奥に3人だ。

 俺はみずから奥から対応する事にしルオンに声を掛ける。


 「俺は奥から責めるから手前の二人は任せる」

 俺はルオンの返事を聞かずに一気に身体強化を掛け、正面の二人を避け奥へ向かった。

 

 奥に居た盗賊3人は男でパッと見では冒険者に見えなくはない格好と風貌をしていた。しかし、すでに腰から剣を抜き放ち警戒をしている所を見ると、俺達を襲う気満々って感じだ。


 「ストーンバレット!」

 俺は先制攻撃として石ツブテを盗賊に向けて魔法を発動する。

 残念ながらレベル1なので盗賊も少し痛い程度でダメージはほとんどないが目くらましとしては十分。

 三人の内二人は足を止めたので俺は残り一人に向けて一気に距離を詰める。


 「なめるな!」

 盗賊は剣を振り上げ切り掛かりながら声を上げる。

 だが、遅い。

 俺は盗賊の剣を身を半身にしてかわし、手刀しゅとうにて首の後ろを打ち抜く。

 盗賊はまるで糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちる。


 仲間が崩れ落ちるのを目の前で見てもひるむ様子もなく、盗賊の一人がナイフで俺に切り掛かってくる。

 俺は身をひるがえして交わそうとしたが予想以上に速い身のこなしの為、俺は腰から剣を引き抜き盗賊のナイフを弾く。

 そして弾いた瞬間にもう一人の盗賊が俺に切り掛かって来た。


 「ちっ無傷は無理だな」

 俺は下から剣を振り上げ切り掛かって来た盗賊の腕を切り上げる。

 余り力を入れいなかったのが幸いして両腕を切り裂く程度で済んだ。

 切られた盗賊は剣を手放しその場にうずくまる。

 そして最後の一人になった所で一言声を掛けてやる。


 「まだやるのか?大人しく投降しろ」

 「ふざけるな!死ね」

 盗賊は両手でナイフを持ち俺に突進してきた。

 俺は今回目力の心眼を使っていないがそれでも遅いと感じた。

 俺は先ほどの男と同様に腕を切り裂いて男を撃沈する。


 盗賊の男がうなっている所にそっと駆け寄る。俺が気になったのは男が持っていたナイフだ。

 とても特徴的な形をしているナイフで、刃の部分がキラキラの濡れているのが大きな特徴だ。

 俺は気になったので男の腰からナイフのさやを引き抜き、落ちていたナイフを鞘に納めてアイテムボックスに収納した。後で商人のシルバさんに聞けば何かわかるかもしれないと思って。


 そして俺がナイフを収納し立ち上がった瞬間に俺に何かが飛来するのを目の淵で捉えたので、直ぐさましゃがむ事で飛来する物を避けた。

 俺が飛来した方向を見ると盗賊が俺の方へ走って来るのが見えた。ルオンが盗賊を取り逃がしたか、もしくわ…。

 俺はアイテムボックスから1本のナイフを取り出してお得意の雷をまとわせる。

 そして俺がナイフを盗賊に投げるとナイフは盗賊の右足に刺さり、それと同時に感電したのか走る勢いそのままに地面へと転がった。


 俺はすぐさま『サーチ』の魔法を発動させるが、赤い敵意を持った者はいなくなった。

 そして俺は最後にナイフで倒した盗賊の元へ歩いて行った時に、木の陰からルオンが現れた。

 ルオンは盗賊に掛けるよると持っていた剣で盗賊の首を切り落とした。


 「いや、ごめんなさい。取り逃がしてしまいました」

 ルオンは盗賊の首をぶら下げながら俺の元へ歩いてきた。


 「これ、盗賊の首です。タツヤが倒したんだからどうぞ」

 ルオンは血のしたたる首を俺に渡してきた。

 俺は内心とってもとっても嫌だったがルオンから首を受け取った。

 そしてルオンは俺が倒した盗賊の首をまるで動物でも処理するように首をはねた。

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