第26話 不穏な旅の始まり
翌朝、宿を後にした俺とアリシアは武器防具屋にやって来た。
「昨日修理に出した防具は出来てますか?」
俺は店に入るなり店員に声を掛けた。
「はい、出来てます。少しお待ちください」
そして修理から返って来た防具をアリシアに装備させる。
「どうだ?違和感はないか?」
「はい、違和感なく大丈夫ですよ」
俺はアリシアから了承を得たので店員に礼を言って店を後にした。
「それじゃあ港町のシードルフに向けて出発しようか」
俺はキールの街の門に向けてアリシアと歩き出す。
「タツヤ様。どのようにシードルフと言う街に行く予定ですか?」
「街の外にシードルフへ行く荷馬車が定期的に出ているらしいんだ。それに荷馬車の護衛をするから乗せてって交渉するつもりだよ」
この情報はシンバーン国の男達を始末する時に街の外に出た時に馬車が泊まっていて聞き出した情報だ。
「そうなんですか。でも街道なら魔物もいなくて安全なのではないですか?」
俺もそう思ったのだが異世界お決まりの盗賊様が出るらしい。
「ほとんど魔物は出ないけど、盗賊が出るらしいよ」
「盗賊ですか…。私のライラ国では国の城下町と北に小さな街二つしかなかったので、盗賊と言うのは出た事がありませんでした。やはり大きな国になるとそうゆう
「ああ、俺も盗賊を見た事がないからなんとも言えないけど、魔物同様にかなり危険じゃないかなと俺は考えているよ」
働かずして金や物を得る職業、盗賊。職業と言っていいのかわからないけどこの国に兵士や警備兵はいるけど、地球みたいに警察なんて都合のいい組織はないからな。街の外では自分の身は自分で守れと言うのがこの世界のルールだから。
と、考えているとアリシアは緊張なのか少し顔をこわばらせていたので声を掛ける。
「アリシア、そんなに緊張しなくてもいいよ。まず、交渉から始めるんだからダメなら歩くしかないからね」
「そうですね。交渉は私も頑張りますよ」
そしてキールの街の外に出ると数台の荷馬車が泊まっていた。
荷馬車はグラン王国へ行く荷馬車や東のシンバーン国に行く荷馬車そして港町のシードルフへ行く馬車があった。
数としてはほとんどがグラン王国へ行く荷馬車だった。やっぱり商人にとって大きな都市の方が利益が出るからじゃないかと推測した。そして俺達はシードルフへ行く荷馬車の商人と交渉を開始した。
結果から言えば直ぐに交渉は決定した。
俺は契約後商人に聞いて見るとギルドに警護を依頼するとかなりの金額が取られるので、自ら個人で契約すれば警護費用が発生しなくていいらしい。だけど、あくまでも自己責任らしく仲間で盗賊が現れた際に逃げ出した奴らもいたらしい。
ギルドに金を払い安全をとるか、一か八か自分の勘を信じて契約するかを商人は選択をするらしい。
「私はこの小隊を引き
「タツヤです。よろしくお願いします」
俺はこの荷馬車群を率いる長のシルバと握手をした。
シルバは見た目40代くらいの赤茶色の髪をしたおじさんだ。少しだけお腹が出ているのがチャームポイントだ。
息子のカイトは見た目20歳くらいで髪の色は父親のシルバと同じ赤茶色で普通体形の男だ。
「私はシアです。よろしくお願いします」
アリシアもそう言いながら笑顔でシルバと握手をした。
実は旅に行く前にアリシアに偽名を名乗らせる事にした。この世界に写真なんて物はないから大丈夫だと思ったが、名前からなにか詮索されても嫌だなと思いアリシアに聞いて了承してもらった。そして単純だがアリシアの下に文字を取って『シア』にした。俺の考えた名前をアリシアに聞くとライラ国には結構この名前は多いらしい。王女の名前の一部を貰おうとする人がいるとの事だ。俺はそれを聞いた後に変えようと思ったが、もし間違えた時に誤魔化せそうと思い決定した。
「恐らくだがかなりの確率で盗賊が出るので護衛は頼むぞ」
「はい、タダで乗せて貰える分の働きはしますので安心して下さい」
「あと、もう一組護衛を頼んであるから護衛同士で挨拶は頼むぞ」
そこまでの話でシルバは荷馬車の方へ歩いて行った。
そしてすぐに俺達の元へ男3人組の冒険者が歩いてきた。
男3人共に肌の色が赤っぽい感じの人種だ。
武器は見た感じ近距離武器が二人の遠距離の弓武器が一人だ。
「パーティーリーダーのルオンだよろしく」
「俺はタツヤだよろしく」
俺とルオンは手を掴み握手をし挨拶をした。
ルオンの外見は髪は茶色の若い青年で武器は長剣だ。
「それでこいつがカイで、こいつがハオだ。カイは俺と同じ長剣使いでハオは弓を得意としている」
「よろしく」
俺は握手はせず声だけを掛ける。
「俺の相棒はシアだ。剣が主な武器だ」
俺はアリシアを紹介したがアリシアが得意としている武器を俺は知らない。だいたい魔法も使えるかなど何もしらないのだ。俺の予想だと色々出来そうだが、恐らくはレベル1程度が幅広くと言った所だと思う。
「タツヤ達は冒険歴長いのか?俺達は幼少の頃からやってきて今ランク7だ」
俺はそれを聞いて正直な所を言った方がいいのか迷ったが答えた。
「長くはないが俺もランク7だが、シアはまだランク10だ」
これは全くの嘘だ。アリシアは冒険者登録もしていないからだ。カード1枚しか保証する物がないのならバレないだろう。
「ほう、俺達と同じ7なら安心して任せられるな」
俺はその時に不快と言うかゾワリとした違和感を覚えた。しかし、どうしてなのかは不明だ。
「それで二人は恋人どうしなのか?」
ルオンは俺とアリシアを見るなりいきなりそんな事を聞いてきた。
するとアリシアの顔が赤くなり、どもりながら答えた。
「ちっ違います!たっタツヤ様とはそうゆう関係じゃありません」
俺はアリシアの態度を見ながら好意はありがたいが、旅の相棒としては少し不安を覚えてしまった。
ルオンはと言うと苦笑いをしながら荷馬車の前の方の自分達が座る位置へと離れて行った。
俺達はあらかたの挨拶をし終わると荷馬車の一番後ろの隙間に腰を下ろした。
この荷馬車の列は全部で5台にもなる。
一番前の荷馬車には番頭が座っていて、その後ろにルオン達3名が座り、2両目に主であるシルバにカイトそして一番後ろに俺とアリシアとなる。
俺達が座って少し経つとゆっくりと荷馬車が動き出した。
シードルフへは荷馬車で4泊5日の旅と言う事だ。
危険な場所は3日目と4日目に盗賊が良く出る場所を通るとの事なので、それまでは特に危険がないと荷馬車の主から教えて貰った。ただ、これはあくまでも過去の経験からで他が絶対安全とは言えないとの事だ。
俺はこの有り余る時間を魔道具研究に使う事にした。
目標は魔法の
俺は横にアリシアしかいないが腰のウエストポーチに手を入れると同時にアイテムボックスより魔道具の作り方の本を取り出す。この動作は毎回意識してやらないと身に付かないとアリシアに言われての行動だ。
俺が魔道具の作り方の本を読む
俺は本を読みながら荷馬車が500メートルほど進んでは全方向に向けて『サーチ』の魔法を使っていた。アリシアを助ける為に使って居た時は詳細に敵を見つける必要性があったが、アバウトでよければ500メートルまで伸ばしても敵は発見できるようになった。ただ、500メートルだと人数も分からずただ漠然と敵がいるとしかわからないが、こんな広々とした場所で詳細なサーチは必要ない。
俺は魔道具の作り方の本を読みながらいろいろ実践してみようと、アイテムボックスからこぶし大程の魔石を取り出した所でアリシアから声が掛かった。
「タツヤ様、何をなさるのですか?」
「ああ、魔道具の作成実験をしようと思ってね」
俺が簡単に答えるとアリシアから指摘が入った。
「タツヤ様、魔道具の実験ならクズ魔石を使った方がいいのではないですか?」
俺は以前魔石屋でも聞いたクズ魔石について聞く事にした。
「アリシア、そのクズ魔石ってどうゆうものなんだ?」
「クズ魔石と言うのは魔石が親指程度で魔石に傷もしくは亀裂が入った物をいいます。そしてクズ魔石は魔法の練習道具としても
俺はギルドの講習会で貰った魔石を思い出してアイテムボックスから取り出した。
「こうゆう物なの?」
アリシアは俺から水色の魔石を受け取ると良く見つめていた。
「これも一応はクズ魔石に該当しますが、その中でも上等な部類になります」
「そこの所詳しく」
「はい、この魔石にはかなりの魔力が残っているからです。通常こうゆう小さい魔石は直ぐに魔力が抜けてしまい、使い物にならなくなるのが一般的ですから」
なるほどね。魔力が残っているのは恐らく俺のアイテムボックスにはいっていたからじゃないかと思う。
「で、魔力量はどうやって計ればいいの?」
「魔石を手の平に乗せて自分の魔力を魔石に流し込むんです。するとほんの少し淡く光るのでその瞬間に魔石の中の液体量を見るんですよ。あっでも本当の液体じゃないですよ、あくまでも魔力の液体です」
なるほどね。とてもいい事を教えて貰った。
「ありがとうアリシア勉強になったよ」
「いえいえ、こんな事ぐらいしかお役に立てないので」
俺はさっそく持っている魔石を手の平に乗せて魔力を流し込む。
するとほんの少しの間だが魔石の中に液体のような物が見えた。
一番最初に冒険者ギルドで貰った水の魔石には8割くらいの液体が入っているように見えた。
俺はアイテムボックスにある魔石を適当に手に取り計ってみた。
やはりアイテムボックス内の時間が停止しているせいか、全体的にクズ魔石と言われているものの7~8割程度の液体が見えた。アリシアは俺が次々と魔石を鑑定する様子を横で見守ように眺めていた。
そして一日目の移動は何事もなく終わり荷馬車群は街道の脇に留めて野営をする事になった。
最初にルオンと夜の見張りについて話し合ったが夜12時までを全員でその後は、3時までを俺とアリシアでその後6時までをルオン達に決定した。
見張りの時間を決めた際にルオンに食事を一緒にと誘われたが俺は丁寧に断った。
理由はなんとなくだが俺の危機管理のアンテナが騒いでいたからだ。
俺とアリシアは周りで小枝を集めて来て火を灯して暖をとった。正直気温はそれほど低くはないが火があるだけで安心するからだ。そして俺はアイテムボックスから購入してあった調理済みの食材を取り出しアリシアと二人で食べた。
俺とアリシアは食事を取った後、荷馬車群の商人シルバの元を訪ねた。
「こんばんは、少しご一緒してもいいですか?」
シルバと息子のカイトは既に食事を終えていてコップを片手に談笑している最中だった。
「ああ、構わないが何か用かね?」
若干だが警戒されているのが分かったが俺は持って来たデザートを差し出しながら話した。
「これ、キールの屋台で買って来た甘味なんですが、良かったら一緒に食べませんか?」
俺が持って来た物はアリシアと食材を買っている最中に屋台で見つけた、果物が砂糖につけてあるこの世界にある一般的な甘味だ。この甘味は中身の値段ではなく外側の陶器の器が高い品だ。木の器は格安で売っているのだが、陶器となると結構な値段になる。しかし木では水物を長く付けておくとしみ込んでしまうので長旅には使えないのだ。
「おっいいですね。どうぞ座って下さい」
最初に反応したのは息子のカイトだった。
俺達は席をずらしてもらいシルバとカイトの正面に座った。
そして串を4本取り出して皆に配り、甘味の陶器の器を中央のテーブルに置いた。
当然ながら一番最初に飛びついたのはカイトだった。それに続いてアリシアも甘味に手を出した。
実はアリシアには手を出すように俺が頼んでおいたのだ。
”毒などは入っていませんよ”とアピールするようにと。
その後シルバと俺も甘味を堪能した所でシルバが声を掛けて来た。
「それで私に聞きたい事があるので来たんだろ?」
「ええ、俺は知らない事だらけなのでいろいろ教えて頂こうと思いまして」
これは本心だ。
今後降りかかるだろうトラブルにどう対処したらいいのか情報を得る為に。
「甘味をご馳走になったんだ。私が教えれる事は教えよう」
シルバの言葉により短い間だが野外授業が始まった。
次回は8月9日、月曜日
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