第23話 対人

 場所はキールの街外れの貧民街にある小屋。

 小屋と言っても普通の家族が4人で生活出来るくらいの大きさはある。

 その床に一人の女性が転がされていた。

 女性は腕、足を縄で縛られていて、目には目隠しの為か布が巻いてあった。


 「よく、こんなに早くアリシア・ライラをえる事に成功したな」

 黒ずくめのリーダーが手下に語り掛ける。


 「はい、偶然最初に張り込みに寄った宿屋から王女が出て来るのを発見したので」

 「そうか、天はわれらに味方するか」

 黒ずくめのリーダーは手下の話を聞きうなづきながらつぶやく。


 「国への報告はどうされますか?」

 「そうだな」

 リーダーは思考する。

 今から早馬を出すのが吉かそれとも明日の朝一で自分達が街を出るのと同時がいいのか。早馬を出せば監視が一人減る事になるな…。


 「報告は明日の朝、我々が街を出ると同時にする事にする。王女の追ってが来るかもしれん。警戒を厳重にせよ!」

 「はっ!」

 男達は命令を受け警戒態勢に入る。


 男達はシンバーン国より派遣された情報部隊。最初は大森林だいしんりんの捜索隊と班を分けていたが、今は合流して一つになっていた。

 人数は6名。

 警戒態勢に入った男達は外に3名、中に3名に分かれて警戒に入る。

 男達は対魔物戦闘ではなく、対人に対して訓練をしてきた男達だ。しかし、兵士と違い完全に人に特化した分けではなく、あくまでも情報を主に集めるのが仕事だ。


 その時に街に18時を示す鐘が鳴り響く『カーン!カーン!』と。

 リーダーは鐘の音を聞きながら願う。『何事もなく朝になりますようにと』普段こんな事は思わないが胸騒ぎがしたので何となくそんな事を考えてしまった。

 

 それは夜の始まりと同時に情報部隊の悪夢の始まりの鐘の音だった。


 ◇


 俺は街の屋台で立ち寄った本屋で大量の本を購入し宿屋へと戻って来た。

 俺は自分の部屋の前まで来るといつも通りに部屋をノックしてから声を掛ける。


 「タツヤだけど」

 しかし中から返事がないし、人の気配すらない。

 俺は扉に手を掛けそっと扉を開く。

 扉には鍵も掛かっておらずスゥーと音もなく開いた。

 俺は最初アリシアは散歩にでも行っているのかな?と思ったが、もうすぐも暮れようとしているのに少し変だなと思ったが少し待つ事にした。

 そして街中に18時を示す鐘が鳴り響く。

 俺は鐘の音を聞きこれは明らかに変だと感じ部屋を飛び出し宿屋の外へと出た。

 辺りはすでに薄暗くなって来ていて人通りも明らかに減っていた。

 俺は直ぐに思考する。

 散歩の可能性は限りなく低い。土地勘が無いとも話していたからだ。

 次に俺の元から黙って去った。これも無くはないが俺はアリシアに対して最大限の事をしているつもりだ。

 ならば、答えは一つ。


 俺はすぐさま周りを見渡し背の高い建物を探す。

 ここら一帯の建物は木造がほとんどで、さらに2階建ての建物が少ない。高級住宅が並ぶ方へ行けば2階建てが普通だ。

 そして俺はまさに目の前にある『ライラの宿屋』の裏手へと回り込み、壁を蹴り宿屋の屋根へと上った。この建物が比較的高かったからだ。

 そして俺は『サーチ』の魔法を発動させる。当然、悪意ある人間を探すために。そしてその方向は当然、貧民街の方向を向く。

 俺が人さらいなら人気が少なく変な事をしても怪しまれない場所を目指すからだ。

 だが、『サーチ』の300メートルの範囲には反応はない。

 俺は、すぐさま屋根ずたいに走り跳びながら300メートル行った所で『サーチ』の魔法を発動する。

 貧民街に近づいたのかチラホラと赤い点(悪意を持った表示)が出て来たが、俺の予想では複数人いる場所が当たりではないかと推測する。そして貧民街の方へ飛び数回『サーチ』の魔法を掛けた時に反応があった。 

 町外れにある所に6つの赤い反応が出た。俺は直感する。多分当たりではないかと。


 俺はその方向へ歩みを進めながら考えていた。

 アリシアは無事なのか?俺は直ぐにこの問を辞める。死んで捉えても何の価値もなくなるので当然無事だろう。

 そして俺はアリシアをさらった敵をどうするか。殺すのは良くないので眠らせれば上出来だと思った。

 しかし、俺はこの自分の判断が『とても、とても甘い』事に気づかせられる事になった。


 俺は『サーチ』の反応にあった近くの場所に身を隠しながら周囲を警戒する。

 俺の前には1軒の小屋が見える。その周りにあきらかに怪しそうな人物が3名警戒するようにあたりを伺っている。

 道の正面に一人、右と左サイドに一人ずつだ。お互いは小屋が死角になり見えない位置となる。

 そして俺はどうしようか考えていると右を見張っていた人間が奥に歩み出すのを見た瞬間に、俺は頭ではなく体が反応して薄暗闇の中を飛び出した。


 歩み出した人間は俺の接近に気づかずに歩いていた。俺は近寄ると腕に身体強化を掛け、後ろから腕で首を締めあげた。たぶん男らしき人間は足をジタバタさせ手で俺の腕を振りほどこうとあがいたが、俺の腕は完全に男の首元にしっかり入っていいて、男は声を上げる事無く動かなくなったので俺はそっと男を地面に下ろした。

 その瞬間に男の左腕が俺の胸の辺りを振りぬく。俺は腕より先に男の殺気を感じ後ろに飛ぶ事で男の攻撃を回避した。

 振りぬいた男の手にはナイフが握らていた。

 男は俺を見ながら右手を口元に持って行き『ピィ』と小さな音を鳴らす。


 俺は何の行動か直ぐに分かると同時に背後にとてつもない殺気を感じ横へ飛ぶ。

 俺の先ほどまでいた所に銀色の何かが飛んでいくのが見えた。

 俺はここに来て自分がどれだけ甘いのかを思い知った。


 奴らは俺を生かそうなんて考えていない。『死人に口なし』と言いたいばかりの行動だ。

 俺は一度撤退を考えたが小屋の中にいる人まで出て来たなら勝ち目はないと思った。

 俺はここまで来ても躊躇ちゅうちょしていた。

 人を助ける為に人を殺してもいいのかと…。

 

 俺が考える間にも男達は何か銀色に光るナイフ?見たいな物を俺に対して投てきしてくる。

 俺はその投てきされた物をかわしながら考える。

 そして決断する。神様に言われた”お主が出来る事をすればいい”事を。

 戦闘不能に追い込むが出来れば殺したくはないが、そんな簡単に倒れてくれる相手ではない。

 俺は腰から黒刀を抜き構える。

 そして身体強化レベル2を足に掛け全力で地面を蹴る。


 先頭にいた男も剣を抜き俺に迫ってきた。俺はしたから剣を振り上げ両腕を一度に肘辺りから切断する。

 それと同時に両腕から血が噴き出し、男からは「うがぁ!」と声が上がる。

 俺はそのまま走り次の男へと駆け寄る。

 男は剣を俺に向かい突きを繰り出してきた。

 俺はそれを半身になり交わすそして俺も突きを繰り出す。

 俺は肩を狙ったが男が若干ゆらいだ為に、俺の剣は男の首を捉える。

 俺は戦闘中にもかかわらず男に剣を刺したまま足を止める。

 剣からは男の血がどんどん流れて来る。

 そして男はその場に両膝を着いて沈黙した。

 

 俺は初めて人を殺してしまったと手が震える。しかし俺の心情とお構いなしに横から剣を持った男が俺に振りかぶり剣を振って来る。

 その時俺に変化がおと連れた。

 

 男が振り下ろしてくる剣が俺の目にはスローモーションに見えたのだ。

 俺は”あっこれは死に際に見る走馬燈そうまとう”でないかと。

 しかし俺は自分で無意識に目に魔力を集中しているのに気づいた。

 そうかこれは走馬燈そうまとうではなく、魔力による視力補助だと。

 極度の緊張からいつもと違う場所に魔力を送り込んだ結果なのだと。


 俺は考えながらも無我夢中で振り下ろしてきた剣の男に一歩踏み込み、その男の剣を持っている手と剣の柄を左手で掴んだ。

 男はまさか俺が突っ込ん出来て剣を止めるなんて想像もしていなかったのか、目を大きく見開いて俺を見ていた。

 俺は右手で男を刺していた剣を抜くと感情なく男の首に差し入れた。

 

 地面に人の血が広がる中俺はたたずんだ。  

 俺は人を二人殺し一人は両腕を切り落とし今は気を失っている。

 この世界はらなければられる世界だと言う事を再認識した。


 俺は両腕を失い気を失っている男のそばへ歩みよる。


 「すまない」

 俺はそう言いながら首に剣を刺し男を殺した。

 そしてまるで魔物でも扱うように俺はアイテムボックスへと男達の死体を回収した。

 アリシアを助ける。

 それ以降の事はそれから考えればいい。俺は心を一時的に捨て非常になる事に徹する。


 俺は小屋の前まで来るともう一度『サーチ』の魔法を発動する。

 小屋の中に敵の赤い表示は3、位置を確認して俺はそっと小屋の扉を開ける。

 中の男達は一斉に扉の方向へ顔を向け、そして腰に差してあった剣を抜き放つ。


 「何者だ!」

 俺は男の問いに答える事なく地面を蹴る。

 『直ぐに助けてあげるからねアリシア』俺は心の中で呟く。

 男達の後ろにロープで縛られたアリシアの姿が見えたからだ。

 

 身体強化レベル3。

 そして練習してきた魔法を解放する。

 「かみなりよ!」


 俺は剣に雷をまとわせる。

 雷は人体にとって強力な武器になる。たとへ剣が敵に触れなくても感電もしくはしびれさせる事が出来る。

ただ、手加減は出来ないが。


 俺はその剣に纏った雷を振りほどくように、剣を水平に振りぬく。

 雷はまるで剣の斬撃のように水平にほとばしる。


 一番手前に居た男は雷の斬撃の直撃に合い「ぐわぁ!」と声を漏らしながらその場へ倒れ伏す。

 だが、後ろの男には雷が届かず無傷で立っていた。


 しかし俺から向かって左で剣を構えてい男は雷の斬撃を受けるもなんとかこらえていたが、体が痺れたらしくその場で片膝をついた。

 俺は迷いなく片膝をついた男へと飛び込み剣を上から下へ振りぬく。

 その瞬間に男の首が切り落とされて、首から血が噴き出す。

 俺は改めて剣を構える。


 残り一人になった所で俺は一度会話を心見る事にした。


 「お前たちはシンバーン国の者か?」

 俺の言葉に男は目を開くが返答はない。


 死ね!男は俺に殺気を飛ばしながら俺に突っ込んできたが、俺の目にはまるでそれがスローモーションのように見えた。

 俺は男の攻撃を避けると同時に剣を水平に男の腹を切り裂く。切り裂いた腹からは臓物ぞうもつが飛び出して床を赤黒く染める。

 俺は切り裂いた男にもう一度質問しようと近寄った時、男は何かを口に含んだ。

そして「うっ」と言う声と共に、男は目を開けたまま口から血を流しながらこと切れていた。

 そして部屋に静寂がおと連れたのだった。


次回は8月2日・月曜日

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