第24話 後処理

 場所はキールの街の貧民街の外れにある小屋。

 その小屋の中は血と臓物ぞうもつの海となっている。

 俺は男達が地面に倒れている中ゆっくりと、小屋の端の床に転がされているアリシアの元へと歩みよる。

 俺はアリシアに声を掛ける前にそっと肩に手を置くと、アリシアはビクリと震えた。

 俺はアリシアに意識がある事を確認すると声を掛けた。


 「アリシア、俺だ。タツヤだ。助けに来た」

 「あっやっぱりあの声はタツヤ様だったんですね。ありがとうございます」

 アリシアの声は元気そうで安心した。


 「それじゃあ体を起こすね」

 俺は一言掛けてからアリシアの体を床から起こして壁にもたれ掛けさせた。


 「それじゃあ縄をほどくから大人しくしていてね」

 「はい」

 俺はまず足の縄をほどくと次に腕の縄をほどいて、手足が自由になった所で声を掛ける。


 「アリシアこのまま聞いてくれ。この部屋は今悲惨な状態になっている。目隠しを取らずにそのまま待っていてくれないか?」

 「タツヤ様が言うなら待ちます。ですけど直ぐに終わりますか?」

 「ああ、直ぐだから待っていてくれ」


 俺はアリシアに伝えると立ち上がり、死体の回収から始めた。

 小屋内に転がっている3人の胴体と首をアイテムボックスに入れた。

 そして他に何かないかと探すと部屋の隅のテーブルの上に銀色の剣が一本置いてあった。

 剣の長さは俺が使うには少しだけ短いが、剣の鞘と剣の束に何やら紋章のような物が入っていた。

 俺はその剣を見た時、あれ?どこかでみたような感覚におちいったが、高く売れるかもしれないと思いこれもアイテムボックスに収納した。

 そして他には何もない事を確認するとアリシアの元へ戻った。


 「アリシア、さあ、外に出るから手を掴むよ」

 俺はアリシアの前までくるとアリシアの両手を優しく掴む。


 「さあ、ゆっくり立つよ」

 俺は声を掛けながらアリシアを立たせた。

 アリシアは少しひざが震えていたが、なんとか小屋を出るくらいは歩けると判断した。

 そして俺はアリシアの両手を引きながら小屋の外まで行き、先に小屋の扉を閉めた。

 ここまで来て扉が開いていたのでは中が丸見えだからだ。


 「それじゃあ、目隠しを取るね」

 俺はゆっくりとアリシアの目隠しを取る。

 アリシアは俺の顔を見た瞬間に目から大粒の涙を流し始めた。

 俺はそっとアリシアを抱き寄せた。

 その瞬間にアリシアは声を上げて泣き始めた。

 恐らくかなり怖かったのだろうと思った。

 数分ごアリシアは少し落ち着いたのか泣き止んだ。しかし、足がかすかに震えていてこの貧民街から歩いて帰るのは無理だと判断した。


 「アリシア今から宿屋まで抱きかかえて行くね」

 「えっ!?」

 俺はアリシアの了解を取らずにアリシアをお姫様抱っこした。

 

 「ちょったっタツヤ様!」

 俺はアリシアが何か言おうとしていたが言葉をさえぎった。  


 「少し飛ばすから俺の首にしっかりしがみついてね」

 俺はそう言うと身体強化レベル2を発動させ、夜の貧民街の大地を蹴って宿屋方面へ疾走した。

 俺は走りながら宿屋にアリシアを抱きかかえたまま入るのは流石にマズイと思い、宿屋が見えた所でアリシアを下ろし歩いて宿屋へと戻って来た。


 宿屋に入ると宿屋の女将おかみが食堂の後片付けをしている最中だった。

 そして俺とアリシアを見ると声を掛けて来た。


 「夕飯の時間はもう終わったよ。余り物でよかったら食べるかい?」

 俺は夕ご飯を食べていなかったので腹が減っていたのでアリシアにも聞く事にした。


 「アリシア食べれる?」

 「ええ、お腹ペコペコです。頂きます」

 アリシアはお腹を押さえて笑顔で答えたので、俺達は少し冷えたスープと野菜炒めのような物を食べてから部屋へ戻った。

 俺は今日あった事をあれこれ聞きたかったが全てを明日にする事にした。

 俺とアリシアは冒険服から部屋着へと着替えて少し早いがお互いの寝床へと入った。


 俺は最近自作したまくらに頭を乗せ静かに天井を眺めていた。

 あの敵と戦った時にスローモーションは魔力補助だとあの時は思ったが、もしかしたら魔法なのかもしれないと思った。理由は足や腕に魔力を集中し強化する際は身体強化の魔法を発動させるからだ。それを目に発動させればあのような物がスローモーションになるのだろか…。これは実験する必要性があるな。

 俺がそんな事を考えていると俺の顔に少しだがかげが射した。 


 俺は我に返り横を向くとそこにはアリシアが立っていた。

 俺は少し動揺しながら声を掛けた。


 「どうしたんだ?どこか痛むのか?」

 アリシアは首を横に振る。


 「寝れないのか?」

 アリシアはコクリと頷いたあとボソリと口を開く。

 

 「すっ少しの間でいいので横で寝ていいですか?」

 俺はアリシアの言葉で心臓の鼓動が速くなるのを感じたが、今日の事で興奮して寝れないだろうと思った。


 「ああ、構わないよ」

 俺は自作枕を半分ずらしてアリシアが頭を乗せれるようにしてやった。


 「ありがとうございます」

 アリシアはゆっくりと俺の横に寝転んだ。

 

 「あっふかふか」

 アリシアは枕に頭を乗せた瞬間に声を上げた。


 「ああ、これ俺が作ったんだ。俺は枕がないと寝れないたちでね」

 俺は横ではなく天井を見ながら答えた。

 

 「私も国に居る時にベッドには枕があったんですが、枕は頭を支える補助みたいな感じで結構硬かったんですよ」

 この星にも枕があるのかと俺は少し楽しくなった。


 「それは俺も味わいたいな」

 「ふふふ、やめた方がいいですよ。タツヤ様が作った枕の方が数倍、寝心地がいいと思いますよ」

 「そうか、それならやめとこうかな」

 「・・・」


 少し喋った後会話がなくなり部屋がしん・・となる。

 窓の外では虫のチロチロと小さなん鳴き声だけが聞こえる。

 ゴソリと言う音と共にアリシアが俺の方に向き胸の辺りに顔を埋めてきた。

 

 「すみません。タツヤ様。少しの間でいいので…」

 アリシアは言葉の続きを言えずに涙声になっていた。


 「大丈夫。何も心配しなくていいよ」

 俺は軽くアリシアを抱きしめながら、こんな言葉しか出てこなかった。

 正直どうゆう言葉を掛けていいのか分からないし、不謹慎だがアリシアから何と言うかいい匂いがするのだ。特に香水とか何もないはずなんだが、やはり王女と言うのは特別な何かを持っているのかと思った。


 そして俺は涙に濡れるアリシアを抱きしめながら”ヘビの生殺しだ”と言う言葉の意味を体験した。そして、このキールに娼館しょうかんはあるのだろうかと変な妄想を繰り広げながら夜がけるのだった。


 *


 翌朝俺は鐘の音と同時に目を覚ました。

 目を開けると横には既にアリシアはいなくなっていて、アリシアは自分の寝床で着替えをしている最中だった。

 流石に着替えを見るのは野暮だと思いしばし目を閉じていたが声を掛けられた。


 「タツヤ様、おはようございます」

 俺が目を開けるとそこには笑顔のアリシアがいた。

 昨日の事は何だったんだと思うほど素敵な笑顔をしていた。


 「おはよう。気分は?」

 「ええ、タツヤ様のおかげで元気になりました」

 俺はアリシアの言葉を受け俺は起き上がりサッと着替えて、アリシアと食堂で朝食を取り部屋へと戻って来た。


 「俺は少し出て昼までには戻るから、暇だったらこの本でも読んでいてくれ」

 俺はアリシアに言いながら昨日本屋で買った本をアリシアに手渡した。

 アリシアは本を見ると少し笑顔を見せた。


 「タツヤ様は英雄譚えいゆうたんがお好きなんですね」

 「えっ?」

 俺が渡した本は『グラン王国が出来るまで』『魔物討伐』。

 アリシアいわく俺が選らんだ本はどうも英雄譚えいゆうたんらしい。

 

 「とりあえず、出て来る」

 俺は少し恥ずかしい気持ちになり部屋を素早く脱出した。

 

 俺は宿屋を出るとキールの街の門に向かい歩きながら考えていた。昨日、俺は初めて人を殺したのに結構ぐっすり寝れたのは、アリシアのおかげではないかと考えていた。その代わりに寝るまでに男としての強靭きょうじんな精神力が必要だった事は言うまでもないが。そして、俺はキールの街の門から外に出ると壁沿いに駆けだした。しばらく走ると雑木林が見えて来たので俺は迷うことなくその中へ入って行った。そして周りを見渡し人がいない所まで来ると俺は土魔法を発動させて、大人6人が入れる穴を掘った。この穴を掘る土魔法は土壁を作る要領で土を集める感じで意識すると出来る簡単な魔法だ。


 そして俺はアイテムボックスから昨日殺したシンバーン国の男を一人づつ出して身体検査を行った。

 持ち物としては投てき用のナイフと音が鳴らないように粘着性の布に張り付けてある硬貨ぐらいしかなかった。しかし俺が最後に倒した男からは、銀色のプレートと手紙らしきものが出て来た。

 銀色のプレートにはライオンのような4本脚の動物が左右で立ちながら向かいあっている紋章が刻まれていた。

 そして手紙らしき紙をを広げるとそこには俺の想像通りの事が書いてあった。

 俺は男達の身体検査を終えると6人の遺体を穴へ転がし、男達が持っていた武器も穴へ放り込んでから土魔法にて土を被せた。

 あの小屋にあった物や男達が身に着けていた物全てを持って来たので、ここなら見つかる事はないしかなり時間を稼げると俺は思った。

 俺は目的を達したので素早くキールの街へと戻った。


次回は8月4日、水曜日

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