第22話 忍び寄る蔭

 場所は『ライラの宿屋』。

 アリシアが泣き止んだ後、俺達は食堂で夕ご飯を食べていた。

 アリシアが余り一目に付くところはと言う事で壁際の席で二人で食事をした。

 俺は一応時折だが『サーチ』の魔法にて周りを警戒したが不審な者の気配はしなかった。

 食後部屋に帰り改めてアリシアより事情を聞く事にした。


 「それじゃあアリシアが話せる範囲で話てくれないか?」

 俺の言葉でアリシアの話が始まった。


 「まず、私の正式な名前はアリシア・ライラと言います。このキールの街より東に行った所にあるライラ国の第一王女です」

 俺はアリシアの言葉で驚いてしまった。まさか王女さまだったとは。

 アリシアは俺が驚いたのが分かったがそのまま話を続けた。


 「実は隣にあるシンバーン国の第二王子との婚約を受けたくないが為に、国で死んだ事にして大森林だいしんりんを通り遥か南にあるマダン王国に住むと言われる魔女に会いに行く所でした。しかし大森林だいしんりんに住まう魔物は私達の想像を越え強力で、国から同行してくれた騎士二人が私を命がけで守ってくれました。最終的にはタツヤ様に守ってもらったのですが…」

 

 「そうだったんだ。それで少し質問していいか?」

 「はい、何でも聞いて下さい」

 「まず最初に何故魔女に会いに行くのかを教えて欲しい」

 この世界に魔女なんてファンタジー小説に出て来る人がいるのか気になった。

 

 「正確には魔女の弟子に会いに行くのですが、その魔女が所有していると言われている認識阻害にんしきそがいの魔道具を手に入れ、自国ライラへ戻る予定でした」

 俺は話を聞いてなんとなく理解した。

 死んだことにして偽りの自分で国に帰り平和に暮らすと言った所だろう。


 「それで…」

 俺はここまで言いかけて言葉を止めた。

 じゃあこれからどうするなんて軽々しく聞くもんじゃないような気がしたからだ。


 「なんとなく話は分かったよ。今日は疲れているだろうから、ゆっくり休んでくれ」

 俺は半ば強引に話を打ち切った。

 俺はその後少し早いと思ったが、部屋に置いてある明かりの魔道具にそっと布を掛けて部屋を暗くした。

 

 そのあと夜遅くまでアリシアのすすり泣く声が聞こえていた。

 俺はあえて何も考えずに眠りに集中するのであった。


 ◇


 まだ夜も開けない時刻、大森林だいしんりんを音もなく疾走する蔭が三つあった。

 蔭の先頭を走っていた黒ずくめの男が手を挙げると同時に残りの二人は足を止めた。


 「これより三つ手に分かれて捜索を行う。大森林だいしんりんゆえに、ゆっくりと安全に行動せよ」

 男達は命令を受け走るのでなく、徒歩にて散会し捜索を始めた。

 

 捜索を始める事1時間、黒ずくめの一人が何かを発見したのか口笛を鳴らす。

 黒ずくめの二人は口笛を鳴らした者の所へ集まる。

 その場所は少し開けた場所で奥に岩場がある場所だ。奇しくもその場所は昨日タツヤがアリシアを助けた場所でもある。


 「こちらです。これを見てください」

 黒ずくめが指し示す場所には1本の剣と1つの剣のさやが地面に転がっていた。

 男は剣をそっと地面から拾う。

 

 「この剣は護衛の物ですか?それとも…」

 「この剣を見よ。表側にはライラ国の葉っぱの紋章が入り、裏側には小さな魔石が埋め込んだある」

 男はそう言いながら残りの二人へと見せた。


 「この剣が護衛の物ならば裏側にも同様に国の紋章が入るはずだ」

 「それではこの剣は王女の物だと」

 「ああ、間違いなく王女の剣だ」

 「それでは王女はここで魔物に襲われ命を落としたのでは?」

 「いや、俺はそうは思わない。何故なら確かにここには人の血痕らしき跡があるが、致死量と言えば少し量が少ない」

 黒ずくめの男は地面に片膝を着きながら地面についた血痕の跡を調べながら答える。


 「それでは…」

 そして男は立ち上がり答える。


 「ああ、間違いなく王女は生きているんだと思われる」

 男はもう一度周りを見渡した後に告げる。


 「現時刻をもって大森林だいしんりんの捜索を中止し、キールの街へと戻り情報部と合流する」

 黒ずくめの男達は王女の剣と剣の鞘を持ってキールの街へと疾走するのだった。

 

 ◇

 

 翌朝俺とアリシアは食堂にて朝食を食べていた。

 アリシアはよく寝たのか顔色もよくなり元気そうにはしていたが、やはり何か思うのか時折寂しげな表情をのぞかせていた。だが、俺はあえてその事には突っ込まずにいた。朝食後も昨日に引き続きアリシアと少し話しをして、昼食後俺はアリシアの身の周りの物を買うために街に出る事にした。


 「それじゃあ俺は少し街で買い物でもしてくるよ」

 「申し訳ございません」

 「いや、気にしなくいいよ。もし気分が良くなったら宿屋の周りでも散歩したらいいよ」

 俺はそれだけ言うと宿屋を後にした。


 俺はそれから雑貨と女性物の服が売っている店へと足を運んだ。

 アリシアは自国からいろいろ持って来たが、魔物にやられて全部なくしたとの事なので最低でも服は俺が買う事にした。本当は本人が行くのがいいのだが、まだ気分が乗らないらしく俺が代理で購入する。 

 俺は頭から被って着るワンピースのような服を2枚購入し、その後それを持ち運べる布の袋やタオルなどの雑貨を購入した。


 そして街をブラついていると屋台の本屋を見つけた。

 この街では屋台形式でいろいろな物が売られている。俺は他の街に行った事がないので全てがこうゆう形式をとっているのか不明だが、日本で育った俺にとっては何となくお祭りみたいでかなり気に言っている。

 本屋には魔石屋で見たようなマニアックな本はなく、グラン王国が出来るまでとか危険な魔物のような教育的な本が多かった。俺はいろんな本を手にとりそして中身をチェックして買うかどうか悩んでいた。

 そんな事をしているとあっという間に夕方になってしまったので、俺は手にとった本を購入しアイテムボックスに入れて宿屋へと戻った。


 ◇

 

 場所はキールの街外れ、時刻は丁度二つ目の鐘『昼12時』のなる頃。

 貧民街の端にある小屋に黒ずくめの男達が終結していた。

 彼らはシンバーン国より派遣された情報部隊。

 高速移動魔道装置『ラファエル』を監視しているのはシンバーン国より派遣された兵士だが、情報部隊は別働部隊で宰相さいしょう直轄の秘密部隊だ。

 

 「大森林だいしんりんでの調査を報告する」

 黒ずくめの代表の男が小屋にいた男達へ声を上げる。


 「大森林だいしんりんでの調査の結果、王女の剣が発見された。王女は傷を負って恐らくこのキールの街に潜伏せんぷくしていると思われる。商人に服装を替え二人一組で宿屋の周りを監視しろ。宿屋に入る事は禁止する。グラン王国との摩擦を避ける為だ。宿屋はキールの街の南門から近い場所から順次に行え。以上」

 男達は命令通りに一般の服に着替えて門付近の宿屋から監視に当たることにした。


 ◇


 <アリシア視点>


 私は昼食後、タツヤ様を送り出して宿屋の部屋で一人で思いにふけっていた。

 考えるのは大森林だいしんりんでの出来事。

 ルイ男性騎士の時シーアと魔物から逃げたのは正解だったの?シーアを置いて私だけ逃げたのは正解だったの?

 そもそも、この旅自体が間違っていたのではないか?私は自問自答を繰り返し、そして次に考えるのはこれからどうすればいいかと言う事。お金さえあれば一人でも魔女の所へ行けたかも?しれないが、国から持って来た白金貨は大森林だいしんりんで無くしてしまった。私は半ばノイローゼになりかけていた。

 このまま宿屋にこもっていてはダメな気がする。

 タツヤの言う通り宿屋の周りでも散歩をしよう。

 私はローブを着こんで宿屋の外に出た。

 外に出ると同時に『カーン!』と鐘が鳴る。まだ、夕食まで時間はある。

 私は改めてキールの街並みを見る。

 自国のライラ国と比べても街の大きさは同じ位だけど、人の多さがまず違う。私はそんな街並みを見ながら人々の流れに乗りながら歩き出した。

 そしてなんか後ろに人が来た?と思った瞬間に背中に何かが当てられる感触がし声が掛けられた。


 「そのまま声を出さずに答えろ。大声を出せば殺す」

 それは間違いなく暗殺者の声。

 私は歩いていた足を止め硬直する。


 「よし、お前はアリシア・ライラだな。間違いなければうなづけ」

 私はコクリとうなづく。

 そしてそれと同時にこの暗殺者がシンバーン国の者だと断定した。

 あの国以外、私を殺そうなんて考える事はないからだ。


 「それではゆっくり歩き出せ、方向は指示する」

 私はゆっくりと足を進める。

 そして後ろの男の言う通りに歩くと狭い路地へと連れていかれた。


 「よし、ここで止まれ。今からお前を拘束こうそくする。あばれなければ命の保証はする」

 そして私は腕、足を縄でしばられて、その後に顔に黒い布をかぶせられ拘束された。

 その後、恐らくだが二人の人間にかつがれて運ばれていった。

 そして冷たい床に転がされた。


 ああ、私は何をやっているのだろう。追われるくらいの事は予想出来たのに…タツヤ様に助けてもらったお礼も十分に果たしていないのに…


次の更新は30日金曜日。

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