第21話 アリシアの決意

 俺は剣を離して倒れかけた女性を抱きかかえた。

 女性と言っていたが顔にはまだ幼さがあり、少女とも言える金髪が美しい人だ。

 顔に見とれていたが俺は先ほど気になっていた傷ついた右腕を見た。

 俺は傷を見た瞬間”ひどい”と言うのが最初の感想だ。俺は最初『治癒』の魔法でも掛けようと思っていたが、そんな生やさしい傷ではなかった。肉がむき出しになっていて骨がみえそうな程深い傷だったのだ。

 俺は直ぐに次の案を考えた。彼女をかついでキールの街に行こうかと思ったが、例えたどり着いたとしてもキールの街で俺は医者なんて知らないからかなり時間が掛かり恐らく助からない。どうすれば…俺は悩んだがある事を思い出した。

 俺は神様より最初に回復薬を5本貰っていた事を思い出した。

 まだ、一度も出した事ないのでどうゆう物か見ていないが恐らく凄い物だと予想できた。

 俺は女性をそっと地面へ寝かせた。

 そしてアイテムボックスから回復薬を1本だした。

 回復薬は白い陶器の瓶で高さは15センチ程しかない小さな物だった。回復薬にはコルクのような木のふたがしてあったので、そっと蓋を開けた。回復薬の量が多ければ口移しで飲ましたが、とてもそんな量がないので本人に直接のます事にした。


 俺は左手を女性の首の下へ入れそっと持ち上げ少し荒いが声を上げた。


 「おい!起きろ!おい!」

 俺の声に反応して女性が薄目を開けた。

 俺はチャンスだと思い直ぐに声を掛けた。


 「薬だ飲め」

 俺は回復薬の瓶を彼女の口元へ持って行きそのまま口に流し込んだ。

 『コクリ』と言う喉の音と共に女性は回復薬を飲み込んだ。

 その瞬間、女性の体が金色に光った。

 そして、傷口はまるで人体の逆再生をしているかのように、肉が盛り上がり血管が出来そして皮膚が作られ元通りになったのだ。

 俺はその光景を見て流石神様の薬だと感動した。


 傷口が治ってから1分程経った頃「うっ」と言う声と共に女性は薄目を開けた。

 

 「大丈夫か?傷は治ったと思うが痛い所はあるか?」

 俺は女性へと問いかけた。

 女性はしゃべろうとしたが「コホコホ」とせきこんだので、俺はアイテムボックスから水袋を取り出し女性の口へと当てた。


 「さあ、これを飲んで」

 女性は一口水袋から水をコクリと飲む。

 水を飲んで安心したのか弱弱よわよわしい声でしゃべり出した。


 「まっ魔物は?」

 「大丈夫、みんな倒したよ」

 「ありがとう」

 女性はニコリとした後また又気を失ってしまったので、俺は一度女性を地面へと寝かせた。

 少し待ってみたが女性は起きる気配がなかった。


 俺はどうしようか迷いながら、俺が倒したキラードックが3体の死体をアイテムボックスへと収納した。

 このまま起きるまで待つかそれとも女性をかついでキールの街へ行くかを。

 少し考え俺は決断した。女性を担いでキールの街へ行こうと。

 恐らくは女性はキールの街へ行く最中に襲われたのだろうと思ったからだ。

 俺は女性をなんとか背中に背負ってキールの街へ駆けだしたのだった。


 王女が倒れていた場所には1本の剣と剣のさやが転がっていた。

 この剣を見落とした事で王女に危険が迫りくる事をタツヤはまだ知らない。


 *


 俺が女性を背負いながら走る事2時間、ようやくキールの街が見えて来た所で後ろから声が掛かった。

 

 「あの」

 俺は背中から声がしたので走るのを辞めて歩きに変えた。


 「あっ起きた?」

 「ええ、こっここは何処ですか?」

 「ああ、もうすぐキールの街だよ。森に一人にしておくわけにはいかないから、勝手ながら背負ってきたよ」

 「もっ申し訳ございません」

 「ああ、気にしなくていいよ」

 「あの、自分で歩きたいので下ろしてもらっていいですか?」

 俺は女性の言葉通りに歩くのを辞めて女性を地面へと下ろした。

 そして初めて女性と正面から立った状態で対面した。

 女性の身長は俺より低く155センチぐらいだろうか、まあまあの身長がある女性で容姿、スタイルはよくそして美人の上金髪ロングと来ていた。

 どこかの童話に出て来るお姫様みたいだなと俺は思った。でも、着ている服と言うか皮鎧はボロボロだけど。

 

 「改めて、この度助けて頂いてありがとうございます。私の名前はアリシアです」

 女性はそう言うと綺麗なお辞儀をした。


 「俺の名前はタツヤ、冒険者だ」

 俺は先ほども名乗ったが一応もう一度名乗っておいた。


 「とりあえず、こんな所で立ち話もなんだから歩きながら話さないか?」

 俺はそう言うとキールの街へ向けて歩き出した。

 俺が歩きだすとアリシアと名乗る女性も同時に歩き出した。


 俺は歩きながらアリシアにいろいろ聞くが、どうも歯切れが悪くあまり話したくない様子だったので俺はあまり突っ込まないようにした。

 そしてキールの街の入り口に迫ってきた時にアリシアは、ローブのフードを深々と被り下を向きまるで誰かに見られたくないような格好で歩き門をくぐった。


 俺はとりあえずキールの街と考えていただけで、その先を考えていなかった。

 そして俺の唯一休める場所と言えば、ほんの数時間前に出て来た『ライラの宿屋』だけなので、俺は宿屋へ向けて歩いた。そして俺が宿屋に入ろうとするとアリシアが声を掛けて来た。


 「ごめんなさい。魔物に荷物を全部取られてしまい、その…お金の持ち合わせが…」

 アリシアが言いにくそうに言って来た。


 「ああ、気にしなくていいよ。俺が助けたいと思って助けているんだから、さあ、とりあえず宿屋で休もう」

 俺はそれだけ言うと宿屋に入り、目の前に女将おかみさんが居たが俺は平常心でこう言い放った。


 「一人部屋を二つ空いてる?」

 女将おかみさんは俺はジロリと見た後に言葉を発した。


 「今は二人部屋しか空いてないよ、どうする?」

 俺は迷った。

 流石に若い女性と二人きりはまずいかなと思ったが、話を聞いていたアリシアが割り込んできた。


 「タツヤ様、私はそれで構いませんよ」

 俺はアリシアの言葉を受けてとりあえずいいかと軽い気持ちで了承し部屋を取った。

 俺は銀貨6枚(6千ジール)を支払い部屋へと移動した。

 それは丁度一つ目の鐘の鳴る音『15時』が聞こえた時間だった。


 二人部屋は一人部屋を二つくっつくけたような間取りになっていて、両サイドに寝床があり中央が空いている部屋だった。俺はアリシアの様子から心身ともに疲れている様子だったので休ませる事にした。


 「アリシア」

 俺が彼女の名前を呼ぶとアリシアはビクリと体を震わせた。

 俺はその時怖がらせてしまったかなと思い1歩下がり距離を取った。


 「この部屋は自由につかってくれ。二つ目の鐘『18時』が鳴る時に食事になるからそれまで休んでいてくれ」

 俺はそう言うとアイテムボックスから水袋を1つ出してアリシアに手渡した。


 「俺は少し出て来るから」

 俺はそれだけ言うとさっと部屋を後にした。

 

 俺は行く当てもないのに宿屋から出て街をブラついた。ブラブラしていても考える事は一つだ。これからどうしようかと。

 リリアの時は俺の不注意で巻きこんでしまったが、今回はただ助けただけだ。

 ただ、まだアリシアの事情も聞いていない状況なので俺が助けれるかは不明だ。

 とまあ、こんな事をいろいろ考えているとあっという間に、二つ目の鐘『18時』が街中に鳴り響いた。

 俺は途中で歩き疲れて座っていた石の上から腰をあげ宿屋へと歩き出した。


 宿屋に戻ると夕食時でとても美味しそうな匂いがただよって来た。

 俺は自分の部屋の前まで行きノックした。

 中に女性がいるのにいきなり扉を開けるのは失礼だと思ったからだ。

 ノックをしても返事がないので俺から名乗る事にした。

 

 「タツヤだ、開けるよ」

 俺は声を掛けてから扉を開けた。

 するとアリシアは床に正座し俺を出迎えた。

 俺はそんな事をしなくてもいいと思い声を上げようとしたが、先にアリシアが声を上げた。


 「おかえりなさいませ。勝手ながらお湯を頂きました」

 アリシアはそう言いながら両手を床に着け頭を下げて来た。


 「ごめんアリシア。気が利かなくて。それにそんな事で頭なんて下げなくていいよ」

 俺は何とかアリシアの態度を軟化させようと言葉を掛けた。


 アリシアは俺の言葉を受け頭は上げたが正座は崩さなかった。

 俺はアリシアが言っていたお湯で思い出したが、俺も大森林だいしんりんを歩きそして魔物を討伐していて、服や顔等に魔物の血が薄くだが付いているのを思い出した。

 俺は夕飯時で忙しいが宿屋にお湯の手配をした。

 こんな汚い格好で食事に行こうもんなんら、あの女将おかみに後で何を言われるか分かったもんじゃないからだ。


 少し経つと宿屋の番頭がお湯を持って来てくれた。


 「すまないアリシア。俺も体を拭くので少しの間後ろを向いていてくれるかな」

 「はい、わかりました」

 アリシアは素直に後ろを向いてくれた。

 俺は速やかに全身の防具を外して上の服とズボンを脱いだ。流石に女性が居るのに全裸になるわけにはいかないので、パンツ一枚は最後の砦として残して置いた。

 俺は床に座ったまま、まず顔と頭を洗いその後にタオルを水に濡らして上半身、下半身と磨き上げた。

 そして乾いたタオルで上半身、下半身と拭いて服を着ようとした時に、俺の肩にそっと手が置かれ背中に人肌の柔らかい感触が走った。

 

 「えっ!?」

 俺は少し変な声を上げてしまった。当然だろう、いきなり背中に女性の柔らかい胸の感触がしたのだから。

 俺は一度だけだが女性と付き合った事もあるし、そうゆう大人の行為も一度だけだがした事もある。

 しかしだ、こんな所で俺の予想だにしない事が起これば変な声も出るだろう。

 だが、俺の肩に乗せてあるアリシアの手がわずかに震えていた事で、アリシアがどうしてこのような行動に出たかなんとなく分かり声を上げようとした時にアリシアが話出した。


 「見ず知らずの私を大森林だいしんりんで魔物から助けて頂きケガの治療までして、さらに宿屋まで連れて来ていただきました。しかし、私にはタツヤ様にお返しする物が何一つありません。でっですので、せめて、わっ私の体…」

 俺はアリシアがそこまで言った所で右手を俺の左肩に置いてあるアリシアの手の上に重ねる。

 その瞬間にアリシアの体がビクリと震える。

 恐らくかなり無理をしてそんな事を言ったのだろうと思った。


 「アリシア、俺は人の弱みに付け込んでそんな事をする男じゃないよ。それにアリシアを助けたのは俺の勝手な行為だ」

 俺は言葉でかなりカッコイイ事を言ったが、心の中の俺は後悔をしていた。

 だって、異世界で夢にまで見た美味しい展開だぞ。普通の男なら女性の好意を受けるのが普通でしょ。 

 だけど、ここでアリシアとの行為をしてしまったら俺はこの先、異世界の人を助けるたびにそうゆう事を期待する汚い男になるような気がした。


 「さあ、服を着てくれ。俺も着替えて夜ご飯を食べよう。その後アリシアの事を聞かせてくれ」

 俺が優しい言葉を掛けるとアリシアは嗚咽おえつを吐きながら泣きだした。

 俺は黙ってアリシアが泣き止むのを待った。


次回更新は28日水曜日です。

よかったら、催眠術を覚えた俺は自分の欲望の為に使う事にした件もよろしく。

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