第20話 覚悟の先

 俺はリリアとギルドで別れた後で俺も旅の準備をする事にした。

 旅と言っても何処へ行こうかと思考していた。

 西へ行けばグラン王国だが、王都の次が困るような気がする。だが東へ行くといろいろ細々と小さな国がたくさんあると話に聞いた。と言う事はここは東で一択だ。


 当然街道を行くのでなく大森林だいしんりんの浅い所を東へ行く事にする。

 俺は準備として商店街で適当なうまそうな食料を買いアイテムボックスへ入れて行った。水も不足するといけないので水袋を購入した。

 後は当然旅には時間があると思うので魔石屋へ行き『魔道具の作り方』と言う本を購入した。

 実は魔石や魔道具の説明を聞いた時に簡単な魔道具は自作する人がたくさんいると聞いたからだ。自作は当然売っている魔道具より品質はおとるがそんな些細な事は俺には問題ないと思った。やっぱ物を作るのはこの世界に娯楽がないので一番の楽しみと言えるのではないかと思う。

 

 最後に『ライラの宿屋』の女将おかみさんに旅に出る事を伝え挨拶をした。女将おかみからは又この街に来た際によろしくと言われただけで特に何もなかった。かなり長い間宿屋に泊まったがあっさりとしていた。

 俺は気分を引き締めキールの街の門へと向かった。

 俺は門を出たところでキールの街を眺める。


 結構いい街だったな。次にこの街に来るのは1年後かな。よし!行くぞ!

 俺は元気に大森林だいしんりんへ向けて歩き出した。


 ◇


 アリシアとシーアは今日を越えれば大森林だいしんりんを抜けれる日だが、朝から不穏な殺気にさらされていた。

 その不穏な殺気に最初に気づいたのはシーア。


 「アリシア様走りますよ」

 普通に歩いていたが唐突にシーアはアリシアの手を取り走り始めた。

 アリシアは何が起こったかわからず走りながらシーアに問う。


 「どうしたのシーア?」

 シーアは後ろに少し顔を向けてから答える。


 「たぶん、囲まれています」

 それだけ答えるとシーアとアリシアは無言で走った。

 しかし、彼女達はまるで魔物に誘導されるように追い込まれていった。

 シーアは魔物が通った事があるような草が踏みつけられている比較的走りやすい場所を選んで走っていた。

 しかしその途中途中で魔物の気配がしたので左右に少しずつ進路を変更していった。

 走る事10分シーアが突然走る足を止めたので、アリシアも同じく足を止めた。

 その場所は少しだけ開けた場所で周りには背の高い木々が間隔を開けて生えている場所。

 その木の裏側からキラードックが姿を現した。

 一体、また一体と。

 そこでシーアとアリシアは誘導された事に気づいた。

 キラードックの数は全方向にいる。その数8体。まさに絶対絶命の危機だ。

 シーアはこの状況の確認と打破する為にぐるりと一周を見渡した。そしてある1点にかすかな希望を込めるようにアリシアに話した。


 「アリシア様、私が今見ている方向に居るキラードックが一番体格が小さい為、ここが唯一の突破点です」

 アリシアはシーアの向いている方向へチラリと目線だけ向ける。体ごと向けると背中からいきなりキラードックに襲われそうだったから。


 「確かに一番小さそうね。で、作戦は?」

 「私があのキラードックを倒した後、土魔法で盾を張ります。その間にアリシア様は全力で逃げてください」

 アリシアはシーアの言葉を聞いた瞬間に数日前のルイ男性騎士の事を思い出していた。又、同じ事を繰り返すのかと。

 しかし、ここまで来てそんな事を愚痴ってもしょうがない。ここは覚悟を決めようと。


 「それじゃ、カウントよろしく」

 アリシアはシーアに了承を示す。


 「3、2、1、行きます」

 シーアのカウントと掛け声で二人同時に小さいキラードックに向けて全力疾走をした。


 「魔力解放、身体強化レベル2。これでもくらいなさい」

 シーアが走ると同時に魔力を解放し、石の小さな弾丸を小さいキラードックに向けて放つ。

 当然これは目くらまし。

 キラードックは石の弾丸を避ける為に顔を少し横に振った。そこへシーラが飛び込み腰より抜いた細見の剣に魔力を乗せて一刀。


 シーアの剣での切り付けは浅かったがキラードックの首を捉えた。

 キラードックは首を切られた事によって血を吹き出しながらよたよたと横へ逃げた。


 「よし!」

 シーアは作戦が成功したことによって叫ぶ。しかし当然ながら取り囲んでいたキラードックの群れはシーア達を追って来ていた。

 シーアは追って来たキラードックの方向を向き『アースウォール』の魔法を唱える。

 すると、シーアの前方に高さ1.5メートル程の土壁が出現する。


 アリシアはシーアに言われた通りにシーアの横を駆け抜け真っすぐに森へと逃げる。

  

 シーアは土壁から少しだけ体を離して剣を構える。するとシーアの想定通りに1体のキラードックが土壁をジャンプで越えて来た。


 「バカなやつ!」

 シーアは迷いなく下からキラードックに向けて剣を突き上げる。

 剣はキラードックの腹を見事に捉えてキラードックはジャンプした勢いのまま腹を切り裂かれる。

 シーアの上からキラードックの臓物ぞうもつと血しぶきが降り注ぐ。

 キラードックはそのまま地面に倒れ込み動かなくなった。

 血しぶきが降り注いだ事により魔物の血がシーアの目に入る事故が発生した。このままでは前が見えずらと思いシーアは戦闘中だったが左手を剣から離して腕で目をこすった。

 そして直ぐに目が見える状態になった時に左わき腹に激痛が走る。


 見ると自分の左わき腹にキラードックが噛みついていた。


 「ふざけんなぁ!」

 シーアは右手で持っていた剣を振り上げキラードックの首へ向けて剣を振り下ろす。剣は深々とキラードックの首へ刺さり血が拭き出る。

 それと同時に左わき腹に噛みついたキラードックがドサリと地面へと倒れる。


 キラードックが自分から離れる事によって左わき腹の傷があらわになり、シーアの腹から血が流れ同時に激痛が走る。シーアは左手でグッと抑えて血を止めようとするが、左手に伝わってきた感触は肌ではなく”ぐちゃっ”とした感覚だった。それと同時に少し意識が一瞬飛ぶ。


 『やらかした』それがシーアの第一感想。

 シーアは直ぐに立つのが苦しくなり、荒い息のまま自ら作った土壁へと背中をもたれさせる。

 そこへ残っていたキラードックが周りを囲む。

 周りを囲んだキラードックは自分が倒したキラードックより一回り大きい魔物までいる。

 それを見てもシーアは諦めなかった。

 薄れゆく意識の中でシーアは最後の力を振り絞る。シーアは剣に魔力を乗せて近くにいたキラードックの胴体へと切り掛かるが、剣がキラードックへ届く前に横から右足の太もも部分へと他のキラードックが噛みついて来た。

 シーアはその反動でキラードックごと地面へと倒れ込む。

 

 「なんだ、結局だめじゃん。アリシア守れなくてごめんね」

 シーアは目にいっぱいの涙を浮かべながら闇に沈んだ。


 *


 アリシアはシーアの指示通りに後ろさえも振り返らずに全力で走った。

 そして息が切れかかって来たので走りから歩きへと変更し、心臓の鼓動を抑える事に集中する。

 だが、そんな時に嫌な音が耳に入って来る。

 そう、草が揺れる”カサカサ”と言う音だ。

 アリシアは周りをキョロキョロと見ながら早く心臓の鼓動よ静まれと願う。

 そして少し歩いた所で立ち止まった。

 理由は音が周りから消えたからだ。

 先ほどは草が揺れる音だったり、鳥の鳴き声さえも聞こえたのに急に静まり返った。

 そしてその静寂は瞬時に破られる事になる。


 目の前の大きな草のかたまりからキラードックが急に飛び出してきたからだ。

 アリシアは突然の事で驚いたが冷静にキラードックの突進を左へ交わす事が出来た。

 しかし、肩から掛けてあった魔法の鞄にキラードックの角がかすめて、魔法の鞄に亀裂が入る。

 その瞬間『パン!』と弾ける音がして魔法の鞄が弾け、中身がその場に散乱し始めた。

 

 魔法の鞄は、魔石が入れたあり重力魔法と空間魔法で構成されていて、物の重さや量を感じないで持ち運びが出来る大変高価な品物だ。

 

 それはまるで異空間から物があふれるような光景だ。

 服や水袋や食料そして大量の白金貨が魔法の鞄のあった場所から飛び出し始めた。


 キラードックは最初少し驚いていたが食料の匂いに釣られて、アリシアから視線をはずして食料の方へ歩み寄った。

 アリシアはここがチャンスと思いすきをみて全力で走り出した。

 キラードックは散乱した食料に群がろうとしたが、旅の終わりがけだった事もありアリシアの食糧は少なく、キラードックを満足させるだけの量はなかった。

 少ない食料を食べると又キラードックはアリシアを追い始めた。


 アリシアは森を掛けるが散々走りずめだった事から直ぐに体力の限界がきた。

 しょうがなく呼吸を整える為に歩きに切り替え少しでもキラードックとの距離を取ろうとするが、あちらは魔物で体力の上限からして大きく違う。

 そしてのどかわきをうるおそうと思ったが、魔法の鞄がない事に気づき落胆した直後、後ろからキラードック5匹が走って来るのが分かった。

 アリシアは覚悟を決めて腰に差してあった剣を抜き放つ。そして何かのけん制にも使えないかと剣のさやも腰からはずして左手で持つ。

 キラードックはアリシアの近くまで走りよると一気には襲ってこず、ゆっくりと間合いを詰めて来る。

 そしてアリシアはキラードックに誘導されるように背中に岩がある所へ押し込まれた。

 キラードックは獲物を追い詰めた事によって余裕が出来たのか、うなるような声を出している。

 アリシアの左にいるキラードックが突然吠えた。

 アリシアは不本意にもそちらへ顔を向けてしまった。


 「うぐっ!」

 その瞬間に右腕に痛みが走る。

 アリシアが視線を離した瞬間に1体のキラードックが爪を立てて腕をかすっていった。

 アリシアは左手に持っていた剣の鞘を捨て、右上の傷口をおさえるが傷が深いのか血はあまり抑えられない。

 アリシアは自らを守ろうと背中を岩に着け後ろをガードするが、低い体勢の横からキラードックが爪を立てて左足の太股ふともも部分を浅くだが切り裂く。

 キラードックは獲物で遊ぶようにアリシアを切り刻んでいく。

 アリシアは最後の抵抗と思い剣を構えるが、右腕の傷が痛み直ぐにその剣を下ろしてしまう。

 すると5匹のキラードックがさらに間合いを詰めて来る。

 こんな所で終わりを迎えるなんて悔しい…でも、どうする事もできない。アリシアが諦めかけた時に、体にとてつない『殺気』がほとばしる。

 間合いを詰めていたキラードックは瞬時にその『殺気』の方向へ向き、アリシアも腕の痛みを忘れて剣を構えた。


 ◇


 俺は元気に大森林だいしんりんへ向けて歩き出した。

 ただ、歩くと言っても俺は身体強化レベル1の負荷を掛けて駆けだした。

 最初は辛かった身体強化だが今ではレベル1なら呼吸をすると同様に使えるようになった。

 流石にレベル3まで強化すると息切れがしてしまうが、使うとしても魔物と戦う時だけだから問題はない。

 問題は俺の魔法だ。攻撃及び治癒魔法も全然強化されない。俺の発想が悪いのかこれだけはどうしようもない。やはり魔法に詳しい先生にもう少しだけ講義してもらう必要があると俺は考えていた。


 そして俺が大森林だいしんりんに入り少し経った所で複数の魔物の反応があった。

 俺は大森林だいしんりんに入ると同時に『サーチ』の魔法を使いながら進んだ結果からだ。

 俺の『サーチ』の魔法は300メートル飛ばせるようになっているので、俺を中心に前方へ扇形へ展開していた。

 俺は魔物の位置から推測すると魔物が何かの狩りをしようとしている配置だと推測したので、俺は気の陰からそっとその場を覗くと一人の女性が、血まみれの右腕を左手を抑えて壁際で立っている様子が見えた。

 俺は瞬時に人が襲われていると判断し駆けだした。

 距離は少しだけあるのでこのままだと間に合わないと思い『殺気』を飛ばす事にした。


 『殺気』は魔法だ。大森林だいしんりんでカインと訓練をしている時に俺がピンチの時にカインが殺気を出し俺を救ってくれた。俺は直ぐにカインの『殺気』の出し方について学んだ。

 『殺気』自体は無属性魔法で1点方向だけに飛ばせる事が出来る。俺はそれを応用し『サーチ』で使う黒魔法の空間魔法と組み合わせを行った。結果、俺が向いている方向に扇形に飛ばせるようになったが、弱点としては敵味方関係なく飛ばす事になった。


 俺が『殺気』を出すと女性を襲っていたキラードックが一斉いっせいに俺の方向へ向いた。そして俺を敵だと判断したのか5体一斉に俺に走ってきた。

 俺は3体までなら一度に相手にした事はあったが5体は初めてだったが、分断させる事による対処をする事にした。

 俺はまず目の前に土魔法のアースウォール『土壁』を展開する。

 地面から1.5メートル程土が盛り上がり壁となる。

 俺は壁の右方向へと体を向け同時に腰から黒刀を抜く。

 すると想定通りに1体のキラードックが壁から姿を現したので瞬時に刀を横へ振り切りつける。

 刀は首の後ろから入り動体の途中までを切り裂いた。

 切りつけられたキラードックは俺を襲う事なく俺とすれ違う。

 俺はキラードックを切った後ジャンプして壁の上へと昇る。

 そしてキラードックめがけて壁の上からジャンプして切り掛かる。

 キラードックは意表を突かれたのか抵抗せずに首を切断される。

 俺は刀に突いた魔物の血を刀を一度振って払うと次のキラードック目がけて突進する。


 しかしキラードックは俺の突進を予想していたのか左へスライドして攻撃を交わす。そして地面を蹴り俺に飛び掛かってきた。俺は刀を回そうとしたが間に合わないと判断し、左手をキラードックに向け魔法を放つ。

 

 「ファイヤーボール!」

 魔法を放った瞬間に飛び掛かって来たキラードックの顔の正面で爆発が起きる。

 俺の魔法は威力がないため目くらましにしか使えない。

 しかし俺の体制を整えるには十分な時間。キラードックが地面に降り立ち顔を左右に振っている所へ俺は上から首に剣を突き立てる。

 キラードックは「キャン!」と言う声と共にその場に倒れ伏した。

 残りは2体と思い周りを見る。

 2体は俺に恐れを抱いたのか少しずつ後退しはじめ、俺が少し足を動かした瞬間に森の奥へと逃げて行った。

 俺は”ふぅ~”と息を吐き女性の方向へと歩みを進めた。


 俺が女性の近くへ行くと「近寄らないで!」と剣を構えたまま叫ばれた。

 俺は自分が『殺気』を飛ばしそして刀を持ったままだと気が付いて直ぐに刀をしまい名乗った。


 「俺はキールの街で冒険者をしているタツヤだ。君が襲われていると思い助けただけだ。危害を加えるつもりはない」

 女性は俺を睨むような仕草で目線を送って来たが疲労困憊ひろうこんぱいなのか目がうつろだった。 

 その瞬間女性は構えていた剣を離して倒れ出した。

 俺は瞬時に掛けより女性を抱きかかえた。

****************

※次の更新は26月曜予定だけど、オリンピックあるから・・・

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